▼20120214




沢山の生徒で賑わう食堂でいつも通りランチを摂っていた時だった。



「で、誰に上げるんだい?」
『…何の事?』


隣の席に腰を下ろしたレンがテーブルに乗り出しながら、下から覗き込むように話し掛ける。

世間は恋する乙女がそわそわとし出す季節。
所詮はお菓子業界に踊らされているだけだとは思うけれど、アタシも何度か乗せられた経験を持つ。

多分きっと、この話の方向はソレ。



「え、誰かにあげんの!?」
「それは初耳ですね」
『や、』
「おチビちゃんもイッチーも気になるよね」



トレーに乗せた昼食に手を伸ばしながら、翔が大きな聲を上げる。
その隣に腰かけたトキヤがサラダを口に運びながら、興味を示した。

自慢じゃないが、恋ばなと言うものが得意じゃない。
決して恋愛が苦手と言うわけではない。
大勢の人間と自分の恋愛の話をするのが苦手。
どう反応を返して良いかが分からない。



『あ、あげるわけないじゃん。…退学になっちゃうよ』
「ソレもそうですね」
『でしょ。卒業間近で辞めたくないよ!』



まぁ、上記の理由以上に、このネタを話すのは気まずいのだ。
この学園が恋愛禁止だと言うこともあるが、ソレ以上に言いにくい。

同じクラスと言うこともあって、この四人でよく行動を共にする。
この関係は卒業するまでも、した後も、この場所に居たいと思うほど居心地が良い。



「えーオレチョコ欲しかったのに!」
『良いじゃん、もう!この話はオシマイ!』
「もう行くのかい?」
『うん、レコーディングルーム予約してるの』



気まずい。
モヤモヤと居たたまれない感情が沸き起こるのは、この三人の中に想い人がいるから困ったものだ。
入学して間もない頃から、ずっと好きな人。
チョコを用意していないわけではないが、他の二人の前で容易に言える事でもない。

空になったタンブラーとプレートを乗せたトレイを返却口へ運んだ。





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