▼20120214教室








『…ぅあっ』
「っおっと、大丈夫?」



忘れ物を取りに来た放課後の教室。
開けようと取手に手を伸ばした瞬間、扉が開いた所為でビックリしてしまった。



『う、うん!ごめん!』



バランスを崩して傾いた身体をレンのしっかりとした腕に抱き止められた。
ソレだけでも心拍数は上がるのに、暮れゆく陽のような橙色の髪を無造作に結い上げた彼は、雰囲気がいつもと違う。
少し大人びたその格好に不覚にも胸が鳴る。



『…珍しいね、髪纏めてるの』
「ん?あー邪魔になったんだよ」
『結構長いもんねー』



切ってしまえって煩い奴もいるんだけどねと、笑いながら纏めていたゴムを解いた。
ソレと同時に首を振ってバサバサと解す。

窓から鋭角に射し込む沈むまであと僅かの太陽の光が、それに乱反射して眩しい。
キラキラと輝くレンの髪が、金色に見えた。



『勿体ないよ』
「…」
『レンの髪、キレイだから』



金に輝く髪も、目を引く容姿も、堂々とした態度も。
全てがアイドルになるべく、授かったと思う程。


初めて出会った時は、ホントに軽くて失礼な奴だと思った。
常に自信満々なくせに本気を出さない。
夢を叶える為に必死になって此処に来た自分を、バカにされているような気持ちになったものだ。

そんなレンが徐々に打ち解けて、胸の内を晒してくれるようになったのは、夏が過ぎた頃か。
実は面倒見の良い彼が構ってくれる、そんな関係が心地良くて。
そこからはどんどんレンに落ちていった。



『こんな時間までどうしたの?』
「こいつの練習してたらいつの間にか、ね。もう帰りかい?」



寮まで送らせてよ、とエスコートするように馴れたその行動が少し気に触ったものの、黙ってその手を取る。



「…そう言えばさ、昼間の話」



歩くスピードも落として合わせる完璧なレンのエスコートで帰路に付きながら、思い出したように切り出した。



『昼?』
「本当に誰にもあげないつもりかい?」
『…チョコね』
「気になってさ」



口許を手で隠しながら話す彼はどこかばつが悪そうだ。
彼ならその両手でも足りない嫌と言うほどプレゼントを受け取って来たから、バレンタインはこりごりだ、なんて言っていた癖に。



『レンにはあげないよ、バレンタイン』
「オレにはって、他にあげる奴…、」
『レンにはコレ』



レンの数歩前に踊り出て、鞄をごそごそと漁る。
実はこないだの日曜日に買いに行った。
レンに愛想なブラウンとワインレッドのラッピングを差し出した。



「…開けても?」
『どうぞ』



ガサガサと包みを開けて姿を表したのは、ダーツの矢。
シルバーのボディに赤いラインが入ったソレはあまり見かけないデザインだ。



「コレは…」
『…親戚がソレ作ってて。あ、安物じゃないよ!と言ってもレンがいつも使ってるものよりは安物かもしれないけど…でも柄はアタシが描いたし!ソレに…っ!えっと…!』


言いたいことが頭の中に溢れかえった所為で、どもって上手く話せないアタシの頭を、ポンポンと撫でた。



「良いデザインだね」
『ハ、Happy Birthday レン』
「ありがとう」



ふ、と零す様に笑うレン。
彼のその柔らかく刻まれる笑顔に心拍数は上がりっぱなしだ。



『バレンタインよりもレンの誕生日の方が大切だから、ね』



同じ年に一回のイベントだとしても、その重みは全然違う。
彼の誕生日が無ければ、レンが生まれなければ、レンに出会えなかった。
こんなにも好きだと思える人に出会えなかった。



「ソレは嬉しいな。じゃあバレンタイン抜きで聞いてよ」



おめでと、と俯きながら言うアタシの頬にレンの手が添えられて、促されるまま上を見向けば、珍しく頬を染めたレンが見えた。

切れ長の目を細めて、再度ポンポンと頭を撫でてくれる。
背の高い彼が少し屈んで、耳元の口を寄せた。




“卒業したらさ、”



レンの隣は今日からアタシだけのモノだ。




end

20120215

昨日携帯さえフリーズしなければ…(´;ω;`)
誕生日も重なってたのにゴメンね、レン。





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