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【名前はまだない 03】





「Santh la felella. Mol jutenya thoght, waquia chana.」


風が心地よい。私は教室の窓枠に腰掛けて歌っていた。今は昼休みで他の神々はみんな昼食をとっている。花である私は他の神々と違って人間の姿になっていないので、特に食べる必要はない。それよりもこうして太陽にあたっている方が元気になれる。
草薙の提案で、お昼ごはんは神々全員で机を寄せあって食べる決まりになっているらしく、時々だが私もそこへ混ぜてもらって、物珍しい人間の食べ物を楽しんでいる。

思いついた言葉で思いついたように歌うと、アポロンが特に喜んでくれた。音楽の神でもあるからなのだろうけれど、つられるようにディオニュソスが笑ってくれることが嬉しくて、私は時間があるとこうして歌うようになった。


「それにしてもォ、シャナが教室に来て2ヶ月でしょ?教室が華やかになったねェ☆」


そう。私はロキや草薙の意見によって教室へ授業を受けに来るようになっていた。ゼウスもトトも賛成だったようで、神々と机を並べるのは恐れ多かったが、こうして制服を来て授業を受けさせてもらっている。時折疲れてしまった時には、こっそりと植木鉢と花の姿に戻っていることは、授業中に後ろを向いたりする尊と授業をしているトトしか知らないだろう。
ともかく、私はディオニュソスやロキ、尊と同じ教室で楽しく過ごすことが出来ている。


「それって、私が華やかじゃないって言ってますよね…」


草薙のしおれた声に、アポロンが慌ててカバーに入っている。本当に仲睦まじいことだ。羨ましいと懷うが、私は人間よりも弱いような立場。この教室に居る誰かを好きになるなんて許されない。


「ロキ、私は華やかなのか?」

「あっれ、もしかして自覚ないのォ?困るなぁ〜戸塚弟なんてそれはもう惚れぼれした表情で、よくシャナのこと見てるジャン」

「ばっ!?…はぁ?見てねぇ、俺は断じて見てねぇ!!」


見られることに意味がある花に向かって、見てないを連呼するのはどうかと思うが…。尊のことだから照れているのだろう。ほんのり頬も染まっている。………つまり、これが照れ隠しということは、本当は私のことをよく見ているということだろうか。
確かに、授業中だというのに、教室の中央最後部に居る私の方を時折ちらっと見てくることはある。それをロキが知っているのは謎だ。


「尊は…私を見たくないのか?」

「そうは言ってねぇ!お前は…その、凄く綺麗な花だと思うし、俺は海を治めてるから、お前が海が全ての源だって思ってるのも…あーっと、悪い気はしねぇ。」

「戸塚尊、君はもう少し素直になるべきです」

「あにぃまで……」


この教室に来てから分かったことだが、尊は兄であるツクヨミ…戸塚月人に頭が上がらない。心酔している様子で見ていてとても微笑ましい。私もディオニュソスに対してあのようになっているのだろうか。
それからもう1つ分かったのは、私が尊と----というよりも、ディオニュソス以外の男神と話していると、ロキが不機嫌そうになるということ。名付け親として悪い虫が付かないように見はってくれているのだろうか。


「まぁまぁ、良いじゃない。結衣さんはアガナ・ベレアの恋人なんだし、女の子が増えて嬉しいのは皆一緒なんじゃないかな?」

「ば、バルドルさん…そうはっきり言わないでください…!恥ずかしいです!」

「そうだよバルドル〜、シャナにだって選ぶ権利あるんだし、そもそも興味ないかもしれないしィ?」


ロキの選ぶ権利があるという言葉に、アポロン以外の視線がこちらへ向いた。なんだなんだ、緊張するじゃないか。それに私は、ディオニュソスの持ち物も同然なのだから、選ぶ権利なんてないんじゃないだろうか。
困ってディオニュソスを見やれば軽く手を広げてくれたので、ふわふわと浮いて大人しく側に寄った。やっぱり彼の側は暖かくて居心地が良い。


「シャナは、誰か好きな人とか出来ないの?」

「…ディオニュソス、我が主。私を嫁に行かせたいの?」

「俺の認める奴なら良いんじゃないか?シャナは箱庭の生まれだから、俺たちの世界に必ず帰る必要もないだろうし、誰かと一緒に行くのもありだろ」

「そうか…」


すとんと足をつくと、ロキと尊の視線がこちらを射抜いていた。バルドルは相変わらず優しい目でロキを見ているし、月人も感情は希薄なものの気遣うような視線を尊に向けている。私に向かってはディオニュソスが諭すような顔を向けていて、私はこの平和な日々に1つ決断をしなくてはならないのだと思った。


「シャナ。アンタ、寒いの嫌い?じゃなきゃ一緒にお出でよ、退屈はさせないよ?」


ロキの伸ばされた手から、暖かいものを感じる。炎の神だからだろうか。最初は怖かった燃え盛る炎のような髪の毛も、時々見せる射るような視線も、今はとても素敵なものに見える。私をディオニュソスと引き合わせるきかっけをくれた大切な人だ。
視界のすみで、尊がふいっと他所を向いたのが見えて、私の目は自然と尊を追っていた。


「こんな奴選ぶなんざ、花粉のくせに見る目がねぇな!」


私たち植物の源、海を司る尊。不器用過ぎて笑ってしまうことがあるが、私が困った時には必ず気づいてくれる優しい人。怒鳴るのも照れ隠しだと分かってからは怖くなくなった。

2人に持っている感情に、名前はまだない。今それに名前を付けなくてはならないというのなら、私は多分…。

私は2人を交互に見て、そして1つ頷いた。


「私は…-------








■ロキと一緒に行きたい


■尊と一緒に行きたい


■ディオニュソスと一緒に行きたい










2014/06/13 今昔
さて、分岐します。各ルートは一気に卒業後。




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