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暖かい太陽。日差しを綺麗に跳ね返す川。その上を気まぐれに流れていく花びらたち。
私はギリシャ神話の世界で、穏やかな陽だまりを目一杯に堪能していた。小鳥がさえずる声だったり、遠くからアポロンの竪琴が聞こえたり。たまに鹿や兎たちがやってくるこの場所は私のお気に入りの場所だ。
卒業してから私は、やはり生みの親であるディオニュソスの側を離れることが出来なくて、彼に迷惑をかけるかもしれないがと但し書きをつけて頼み込んだ。彼は優しい。迷惑だなんて思わないと言って私をギリシャ神話の世界へと連れ帰ってくれた。
「ディオニュソス…」
ぽかぽかと心地よい日差しにまどろみながら、大切に、噛み締めるように、彼の名前を呼んでみた。
「どうした?」
まさか返事があるとは思っていなくて、私は蜂に刺されでもしたかのように飛び起きた。神の姿に戻っているディオニュソスは…その、露出が多くて困る。それはアポロンも同じなのだが、彼には緊張したりしない。「え?あぁ、そう。」といった感じだ。
「ディオニュソス…いつから居たのだ……」
「ついさっきだよ。シャナが気持ちよさそうにしてたから、声かけるの申し訳なくって」
しっかり者で頼れる存在であることは周知の事実なのに、彼は時折こうして弱々しい声をだす。そうされると私は胸が苦しくなって、ディオニュソスを抱きしめたくなるのだ。
「問題ない!ディオニュソスが居るのに声をかけてくれない方が、私は寂しい!」
「え?あっはは、そうかそうか。ありがとな、シャナ」
彼の手が私の頭に乗り、わさわさと撫でられる。力加減が調度よくて、私は心地よさに目をとじた。すると能力が少しばかり漏れだしてしまったのか、足元の地面からたくさんの花が芽吹いたのが見えた。
私の嬉しいやら楽しいやらという気持ちに応じて時折咲いてしまう花々は、どうもギリシャ神話の世界が私にもたらした影響らしい。初めて花が咲いた時にはディオニュソスも偶然一緒にいたアポロンや草薙もとても驚いていた。
「お前が喜んでるって分かりやすくていいんだが…少し寂しくもあるな」
「ん?わかりやすいのは駄目なことなのか?」
「いやー、悪いっていうか…」
ディオニュソスは頭をかいて恥ずかしそうに苦笑いした。言いたいことがうまく出てこないのか、私の頭を撫で、そして視線を彷徨わせる。
「分かりやすいと、オレがシャナの気持ちを汲み取る努力を怠りそうで…」
照れたように顔を背けたディオニュソスが、なんだかとても可愛らしく思える。私は遠慮することなく、日差しの下に晒されている彼の胸元に顔をすり寄せて抱きついた。足元でまた花が成長していく。
「安心してほしい。私が嬉しいのはディオニュソスが嬉しい時だ。私が辛いのも、ディオニュソスが辛い時だ。こんなに分かりやすいことは無い、そうでしょう?」
ディオニュソスが笑ってくれたら嬉しい、だから歌う。
ディオニュソスが褒めてくれたら誇らしい、だから綺麗に咲く。
私の生きる意味はすべてそこにある。
「そうだな。オレも…オレが嬉しいのも、シャナが嬉しい時だよ」
そういってまた頭を撫でて額に唇を落としてくれる。父と子を超えた関係に気づくまで、もう少し時間がかかったのは、また別の話だ。
【この気持ちに、名前はまだない】
「ままー!」
「どうしたの?」
「ディディ伯父さんが来たよー」
「ディオニュソスさんが?」
「お腹大きい女の人連れてきた!」
「そう…シャナさんが。」
「まま、嬉しそう」
「うん、私もすごく嬉しいの。シャナさんが幸せになれたのが…すごく嬉しいの」
FIN
2014/07/18 今昔
こうやって濁して終わるの得意じゃないんですが、今回はふんわり終わらせてみました。
ディディにてタイトル回収完了です。お付き合いありがとうございました。
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