Memo | ナノ
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10/18(Thu):おしらせ

Memoにてお知らせ。
地味に移転中
メインの活動はこのままのサイトでします。
絶対に改訂しないものだけ移転先に移しています。
一方通行です。全部の改訂が終わったら双方向行き来できるようにして、メインの活動も移転先にします。
こちらを消すことはないのでご安心ください。
現在置いているのは「知人と言い張る君(改訂中)」、「透明の箱」、「Natural Wind」、「Innocent Zero」です。
カテなしランクに登録するか悩み中。(「僕、君の何」さまにお世話になろうかと。。。)
でも、しばらくまともな更新ができないんですよね。。。
それでも読んでいただきたいという欲求。。。
登録するとしても明日以降ですね。


10/18(Thu):知人

ハロウィンが近いので
イベントがあるということは新しいお菓子が出るということ。

「……じゃあ、秋一はパティシエになればよかったのに」
「僕は食べるのが好きなんだ」

瑞樹の作ったゼリーを食べながら(ちなみに材料は100均だ)、秋一が答える。

「来週はチョコパフェがいい。かぼちゃプリンが乗ったやつ。……あ、いいこと思いついた」
「それって、俺にとってもいいこと?」
「そんなわけないだろう。僕にとってに決まってるじゃないか」

ここまでくるといっそ清々しい。

「瑞樹がパティシエになって、僕の家に出入りすればいい」

案の定、俺様思考。

「なんだ不満か?」
「そうでない理由を聞きたいよ」
「じゃあ、瑞樹が僕と結婚すれば問題解決だ」





10/17(Wed):小話

暁と悠太
「一緒に死んで」
「嫌だよ。君なんかのために死ぬもんか」

 こんなちっちゃな会話にも愛がある。


10/17(Wed):小話

寛樹さんと亮介さんの冒頭予定
基本ヤンデレなふたり。
 とあるビルの一室には気まずい沈黙が流れていた。
「使えそうだったから」とあっさり言った部下の長谷-ハセ-が差しだしたのは昨日、海に浮いていたという身元不明の男。紺に近い黒の瞳と180センチ以上ある長谷を優に超す身長が印象的だ。
 男はつまらなさそうに窓の外を見ていて気に食わない。
 寛樹-ヒロキ-は内心の動揺を綺麗に押し隠し、机に頬杖をついて男を一瞥した。
「ふーん……。じゃあ君、私の世話でもする?」
 気だるげにこちらを向いた男がこっくりと頷いた。
「じゃあ、後は寛樹さんのお好きなように」
 長谷が上機嫌で去っていく。いつもテンションの高い男である。
「ねえ、亮介-リョウスケ-」
 相変わらずの無言。
「君、しゃべれないんだって?」
 肯定を示す頷き。
 聞こえよがしに大きく溜め息を吐くと亮介は戸惑ったように瞳を揺らした。
「じゃあ、俺が言ってあげるよ」
 少し背伸びをして亮介の首に腕を回して。
「愛してる」

------

「すみませんが、勘弁してやってくれませんか」
 絡みつくような視線を挑発的に受け止め、寛樹は妖艶に息を吐く。
「ちょうどいいことに、そこに私に惚れている男がいるんです。その男の目の前で、なんてどうです?」
 



10/16(Tue):小話

瑞樹さんと柚葉さん
一応ゆずちゃんが攻め
 焦ったように自分の手を引く弟の背を見ながら、瑞樹はのんびりと歩いていた。桜はとっくに散り、枝からは葉を覗かせどちらかというと夏に近い風。柚葉はそんな瑞樹に苛立つのか振り返って睨みつけてきた。
「瑞樹っ! 俺、怒ってるんだからな!」
「わかってるよ」
 苦笑しつつ返せば瑞樹の手を握る力が強くなる。たった一歳の差と言えども弟は弟、こんなところはまだまだ子どもだなあと思う瑞樹は中学一年生である。
 人通りの殆どない公園に辿りつき、柚葉がベンチに腰掛けたので瑞樹もその隣へ座る。
「4時に帰ってくるって言った」
 しばし無言の時を過ごし、柚葉がぼそりと呟いた。やれやれと思いつつ予め用意した言い訳をできるだけ誠実に聞こえるように言う。
「しょうがないでしょう。中学生は小学生より忙しいんだから」
「でも、恭介たちと遊んでたじゃん……。俺、見たもん。バス停で」
 恨めしそうに幼馴染の名を告げられ瑞樹もそれ以上の言い訳ができずにいると柚葉は諦めたように笑った。
「瑞樹の優しいところ、好きだけど嫌い」
 言うなり押し倒され唇を奪われる。小4のとき、ピアノ教室で彼女がいたというこの弟はませており、色事にも手慣れていた。
「ね、瑞樹……」
 瑞樹そっくりの柚葉が一度唇を離し瑞樹の肩を握る。お互いによく間違えられていたけれど、瑞樹は不思議で仕方がなかった。瑞樹はこの雰囲気、表情を作ることができない。
「なんか言えよ……」
 歳に似合わない切なげな息を吐いた柚葉は綺麗で、それに見惚れた自分はナルシストなのかもしれないと思いつつ弟の頭を撫でた。
「ごめんね、柚葉」
 妹が生まれてから、柚葉に両親の関心が向かなくなったことで情緒不安定になっていることは感じていたけれど、瑞樹は瑞樹で新しい生活に慣れることに必死で。“兄”であることから逃れたくて、こんな日はつい家へ帰りたくない、なんて思ってしまって。
「誕生日おめでとう、柚葉」
 そっと体を起こし耳元で囁くと、柚葉は満足そうに笑った。
 帰宅し風呂を上がって自室で宿題を片付けていると、柚葉が後ろから抱きついてきた。
「兄貴」
 とっくに声変わりしていた声は自分と似ているはずなのに、弟から発せられているというだけで特別に聞こえる。
「どうしたの。今日はいやに甘えるね」
「だって俺、まだ兄貴からプレゼントもらってない」
 次男特有の甘え上手と言うべきか、長男特有の人の良さと言うべきか。瑞樹は柚葉のおねだりに弱い。
 まったく、「おにーちゃん」とかわいらしく呼んでいた頃が懐かしい。
「な、兄貴。お願い……」
「ちょっとどいて」
 シャーペンを置き、首だけで振り返る。ぱっと目を輝かせた柚葉をベッドへ座らせ、通学鞄に隠していた包みを手渡す。
 包装紙をそっと撫でた柚葉は嬉しそうにそれへ口づけた。
「もしかして、遅くなったのはこのせい?」
「いや。普通に恭介と鬼ごっこしてた」
 肩を竦めて答えると、柚葉はにっこりと笑った。
「ね、兄貴。しようよ」
「断る」
 自慰を覚えた体では何を、と訊くのもあほらしい。この弟と両想いになったときから、幾度となく持ちかけられてきた誘い。今回もにべもなく断ると柚葉は膨れた。
「今日は誕生日なのに」
「あのね、柚葉。そういうのは大人になってからするものなの」
「大人になったら、してくれるの?」
 しまったと思うが柚葉はにやにやしていて、結局この弟が好きなのだと思い知らされるだけで。
「ああ。だからずっと俺の傍にいてね」
 返事の代わりに抱き締められた。
 家では「兄貴」、外では「瑞樹」。家では普通の仲良し兄弟、外では恋人――。
 この関係が歪であることはなんとなく感じ取っていたから、ふたりで決めたルールだった。家族にだけはばれてはならない。
「早く、中学生になりたいなあ……」
 二段ベッドは危ないということで買ってもらったふたりでひとつのベッドに寝転がると柚葉が洩らした。
「いちゃいちゃできないなんて拷問だよ」
 瑞樹は黙って弟の言葉を聞いていた。
 瑞樹と柚葉は幼小中高を併設する私立の男子校に幼稚園から通っている。そこは中高になると同性愛者をいじめ抜く校風があり、いくら兄弟でも今までのように周囲の目をごまかすことはできないだろうと瑞樹は思っている。
 家では今のところばれていない。その上、中高六年も隠し通せるかと考えるだけで気が遠くなる。
 いや、それ以前にいつまで互いのことを好きでいられるのだろう――。
「兄貴」
 柚葉が瑞樹を覗きこむ。
「まーた何か変なことを考えてる」
「んー……」
 恋人である前に、兄でなくてはならない。守らなくては、ならない。
 その晩、瑞樹は柚葉に抱き締められて眠った。



10/15(Mon):図書室

真司と恭介
中1くらい
「なあ、恋って性行為がつきものなのか?」
真顔で緒方に問われ、動揺しすぎてかえって冷静になった樋山の脳は答えを模索する。
「人によると思うよ」
「ふうん……」
彼の片手には源氏物語が握られていて、なぜ古典を読みながら突拍子もないことを訊くのかと考える樋山は実は授業で扱った竹取物語以外の古典を読んだことがない。
「俺は、恋人がいても性行為をしたいとはたぶん思わない。結婚したら少子化対策のためにするかもしれないが」
「う、うん」
なんだか話が壮大になってきたぞ。
そんな樋山へ彼の瞳が近づいてきて。
ーーちゅ。
「樋山とはこういうことをしたいと思う」
実際はかさついてそんな音はしなかったけれど、樋山の中では確かに聞こえた。
彼が何かを言っているが認識できない。
きっと今、自分は真っ赤だ。
そっと自分の唇へ触れる。
ああ、好きだ。


10/15(Mon):小話

暁さんと悠太さん
「要するに君が好きだってこと」
「また気障なことを」
「でも、そんなところも好きでしょ?」
返事の代わりに銃口が向けられた。
「ねえ、悠太」
銃声に掻き消された愛の言葉も、ちゃんと聞いているから。
「あき、ら」
そんなに泣かないで。


10/15(Mon):知人と言い張る君

秋一さんと瑞樹さん
冒頭部分。
柚葉と梓紗の問題をちょっと後半に持ってきて、話の軸を変えました。
でも岸本兄弟の仲は悪い。
 大学が終わりアパートの階段を上ったときまでは心地よい疲労感に包まれていたのに自宅の扉の前に男が佇んでいるのを見つけたときは心臓が跳ねあがった。
 こんなとき一人暮らしは嫌だ。親は遠くにいるし隣近所は殆ど水商売のお姉さんたちだからあてにはできない。男はリュックを背負い、両手に白いビニール袋を提げている。
 大学の友人を呼ぼうかとも思ったが待っている間に事件に巻き込まれるかもしれない。
 ケータイで写真を撮り警察に通報しようとしたとき男が振り返った。
「遅い」
 ああ気づかれた。せめて顔だけでも憶えようと男の顔を見る。
 自分と同じくらいの身長、黒目黒髪、不機嫌そうな声と表情、なのに妙にいたずらっぽく輝く目。
「――秋一!」
「遅い。中に入れろ。手が痺れた」
 高校時代の友人は更に不機嫌そうに目を細めると吐き捨てた。
「ああもう来てくれるなら事前に連絡くれればいいのに!」
「思い立ったが吉日」
「帰ってこなかったらどうするつもりだったの!」
「帰ってくるまで待つだけだ。早く中に入れろ」
「ごめんごめん。散らかってるけど」
「お邪魔します」
 律義に断り部屋に上がる秋一を見てもまだ現実じゃない気がする。冷蔵庫を開けお茶とジュースのどちらがいいか迷っていると顔の横に白いビニール袋が差しだされた。
「岸本。食材だ」
「あ、ありがとう。てことは泊っていく?」
「迷惑でないならば」
「全然構わないけど。どうしたの」
「岸本に会いたくなったから」
 真っ直ぐに見つめられさらりと言う秋一に思考が固まりかけたがそういえばこんな奴だったと諦めに近い気持ちになる。
「そういえば岸本」
「ん?」
「僕はここで待っているから」
「え?」
「片付けたいものがあるなら片付けてこい。キッチンからはどの部屋も見えないから今のうちに」
「え……。秋一が座るスペースぐらいはあったと思うけど」
「そうじゃない。エロ本があったら隠してこいと言ってるんだ」
 真面目な顔で言われリアクションに困っているこちらをどう思ったのか秋一は真面目に続ける。
「岸本も健全な青年だからそういうものの一冊や二冊持っていたところでどうも思わないが僕に見られると気まずいだろう。だから」
 早く行ってこいと消え入るような声で言われたときやっと彼が耳まで真っ赤なことに気づく。
「そんなものないから安心していいよ」
 言っても疑いの目で見られていたたまれない。
さてどうしようかと考えていると秋一が踵を返す。
「ど、どうしたの」
「手料理と言ったらカニ玉だな」
 それって秋一が食べたいだけじゃんと思ったが友人のよしみで黙っておく。
「安心しろ、レシピも袋に入れている」
 言われて袋を探ると確かに入っていたが。
「俺に作れってことだよね」
「当たり前だ。客人に料理させようなどと言語道断」
「なんか腹立つなあ……」
「この家が火事になってもいいなら僕が作っても構わないが」
「遠慮しとくよ。カニ玉ね、はいはい……」
 キッチンから出ていった秋一のことは頭から追い出す。
 袋にはレシピに書いてある材料以外にもいろいろ入っていた。
これも全部使えということだろうか。
 卵を机に載せたとき口端があがりそうになるのを必死で留める。
 久しぶりに会えてうれしいとか、久しぶりにひとりじゃない食事でわくわくする、とか。
 あいつには絶対に言わない。
 いつもより作る分量が多かった割にはあまり時間もかからなかった。
 ふたりでとる少し早めの夕ご飯。秋一が咀嚼するのをまじまじと見てしまった。
「悪くない」
「そりゃどうも」
 勝手に訪問してきて料理を押しつけたくせになんたる言い草だと思うがこんなことで腹を立てていては秋一の友人なんてやってられない。
 日々を生きることに忙しく過ぎた年月を懐かしむ間もなかったが、こうしてふたりでいると思い出に目頭が熱くなりそうで。
「岸本」
 そんなときに秋一が呼びかけたものだから少し焦る。
「元気そうだな」
 その声が微かに笑みを含んでいて思わず秋一の顔を凝視するも彼はいつも通りの不機嫌そうな顔で聞き間違いだったかと首を傾げたが。
「お前が一人暮らしを始めた頃はどうなることかと思ったが……。急にお前の手料理が食べたくなってな、すまない」
「俺の手料理って……。まずいかもしれないじゃん」
「岸本は器用だからな。それに、現に急に言ったものも作ってくれたし味は……悪くない」
 今度こそ、本当に彼は笑っていた。
「ごちそうさま。おいしかった」
 天変地異の前触れだろうか。
 早鐘を打ち始めた心臓を無視してそんなことを考えていたら、秋一は食器を手早く洗ってしまった。
「だから、岸本。一緒に住もう」
 一緒に住む。それは、どこに。誰と。それに、“だから”の使い方を間違っているよ秋一。どんな表情を作ればいいかわからず、黙り込んだ岸本をどう思ったのか秋一はなにやらごそごそとリュックの中身を広げ始めた。
「ああ、金ならちゃんと払うから心配するな」
 こちらを見ずに言われても。いやそれ以前に岸本の意思はどこに。
 自由気儘な親友は上機嫌で鼻歌を歌いつつ、更にとんでもないことを言った。
「今から一週間、僕と岸本は恋人同士だ」
 そう、岸本秋一とはそんな人間だった。

*******

 緑茶をおいしそうに啜る秋一を見ながら、岸本瑞樹は本日何度目かの溜め息を吐く。
 秋一が言うには、同じ名字を持ったせいで出席番号が前後したことから続く腐れ縁のただの知り合い。
 瑞樹の中では、幼馴染と同じくらい大切な親友。
「瑞樹。お代わりをください」
「はいはい」
 物を頼むときは丁寧に。中高時代の教えが生きている、なんて苦く思いながら瑞樹が急須から注いでやると秋一は嬉しそうに笑う。
 ちなみに、なんで急に呼び方を変えたのかというと「恋人だから」だそうで。
 まだ瑞樹が何も言っていないのに。
「秋一。俺と恋人になろうとした経緯を教えてください」
「そんなの、好きだからに決まっているだろう」
 珍しくまともなことを言う。眩暈がしそうになるが大きく息を吸って気持ちを落ち着ける。
「あのね、両想いか片想いかは別として、双方の合意のもとに付き合うんだよ」
「泊まっていっても構わないと言ったじゃないか」
「それとこれとは別!」
 不機嫌に瑞樹を射抜く視線も、内心の不安さを押し隠すように揺れる。そうだ、この目だ。瑞樹は秋一の脆さに弱くて、でも今流されるわけにもいかなくて。
「岸本は――瑞樹は僕のことを親友だと言った」
 自信なさげに伏せられた瞳、言葉を選んでいるような息遣い。
 いつもの秋一と違うようで戸惑う。
「秋一は俺のことを知り合いって言い張るよね」
「僕のことが嫌いなのか?」
「好きの種類が違うの」
「一週間だけなのに?」
「秋一。真っ直ぐな君が偽りの恋で満足するとは思えない」
「よくわかってるじゃないか」
 開き直られた。
「とにかく、泊まるのは構わないけど恋人ってのはなし!」
「黙れ優男」
「やさっ、……ちょっとやめてよ」
「僕が一週間だけでいいと譲歩しているのにそんなひどいことを言うのなら」
 どちらがひどいのかと言いたい瑞樹を無視して秋一はなにやらごそごそと取りだした。
「脅迫もやむを得ない」
「ちょっ……!」
「ちなみに、岸本柚葉と梓紗ちゃんの協力のもとに作成した」
「見ればわかるよ!」
 見せられた写真は弟の柚葉が10歳離れた妹、梓紗にちゅーしようとしているところで、問題は柚葉が瑞樹と間違えられるほどそっくりで、梓紗が兄ふたりにはまったく似ていないことだ。
「これを大学にばらまく」
 冗談とも本気ともつかぬ声。
「瑞樹はロリコンと噂が立ち、後に弟妹だとわかっても今度は柚葉が後ろ指を指されるだろう。さあどうする」
 冷静な頭で考えればそんなはずがないとわかっていても、頭に血が昇った状態。
 こうして瑞樹は秋一の脅しに屈した。


10/14(Sun):旅の終わり

愛って何なのでしょうね。
 泣くなと言われた日から泣くのを止めた。
 泣いてもいいよと言われたから、恭介に縋って泣いた。父の物を奪った優越感が、葵を大胆にさせた。
 呆然とする恭介はかわいい。
 もう、父と同い年には見えないくらいに。
「葵くん、だめ」
「なんで? お父さんとはしたのに?」
「……昔の話だよ」



 四十九日が過ぎて、心に穴が空いたみたいで。
 急にすみれが恋しくなった。
 すみれそっくりと葵と茜、しかし求めているのはそこにない。
 怜司に三人を預けて、夜の街へ飛び出した。


「なんで、気づかなかったんだろうな」
「嫌だ、真司、だめだ――!」



「葵くんたちの前で俺を殴るのを止めてください」
「教育に悪いって?」
 剣呑に細められた目。
「お前の存在自体が教育に悪いんだよ!」
 脇腹に食い込む脚、唇から垂れた唾液を拭う間もなく首を絞められて。
 それでも、あれ以来真司は恭介を葵たちの前で殴ることはなく。



 あいつは、殴られることを嫌とは言わなかった。
 ただ、うわ言のように。
「真司。すみれちゃん。ごめん」その声が聞きたくなくて。



 ホストは辞めた。
 真司は人から見えるところに傷はつけないけれど――見えないところは、つける。
脱いだら一発でばれる。真司が捕まったら葵たちはどうなる。



10/14(Sun):箱庭の光

拍手をありがとうございます。
真司視点の図書室冒頭
今、図書室を改訂のために読み返していますが旅の途中と別人すぎて年月って怖いなあと思います。
真司視点の図書室を書いて、図書室改訂して、Vocal書いて、旅を加筆して。。。本当にすみません。
「好きだ」告げた声があまりにも真剣で切なくて優しかったから。
「俺もだ」真司は答えてしまったのだ。いくら気が緩んでいたとはいえ本心を言うなんて、迂闊にも程がある。平和ボケしすぎだろう。
 案の定樋山は目を見開いており、後悔するも遅い。樋山へ笑いかけ、さてどうやって切り抜けようかと時間稼ぎのつもりで本に目を落とすもまったく頭に入ってこない。
 そんなに人恋しかったのだろうか。焦る思考で真司は考える。
 まさか――男に恋をしてしまうなんて。
 幼小中高大学を同じ敷地内に併設する私立冬炉学園に緒方真司は幼稚園、小学校と通った。エスカレーター式は生徒を駄目にするということで節目ごとにすべて外部生と同じ条件で試験を受ける。点数に満たなければ内部生といえども不合格、当然だ。
最初、真司はそのまま冬炉中学へ進学するつもりだった。しかし、いざ中学受験を控えたときすぐ高校受験が来ることに気づきうんざりした。夏扇学園は幼小中高併設しているが一旦入ればエスカレーター、しかも中高一貫。面倒臭がりの真司にとって、高校受験がないことは男子校という点を差し引いても魅力的で、こうして真司は夏扇を受験し合格した。
 いったいなんのために存在するのか首を傾げたくなるほどこの学校の図書室は真司以外に利用者がいない、しかし人間嫌いの自覚がある真司にとっては快適この上なく、日々を図書室で過ごす。
 時の流れは非常に緩やか、今が何月で何時でなんて図書室にいると忘れてしまう。そんな訳で真司は樋山恭介がいつから存在していたかを知らない。
 同じクラスであることどころか名前を知ったのがたった今、それ以前から図書室で真司の周りをうろついていることは気づいていたものの、なんで本の貸出手続きをしてくれるのかとか昼休みの終わりを知らせてくれるのかとか面倒臭くて訊かなかった。
 樋山恭介は真司にとって、ただそこに存在する者だった。
 そんな樋山がなぜ真司の心を大きく占めるようになったのか自分でもわからない。
 中学に入ったからといって無理して好きでもない連中と群れることなく、ひとり穏やかに図書室で過ごす。担任を含む担当教師陣は憶えたが他は特に印象に残る人間もいない。無口無表情の真司へ話しかけてくる物好きもいない。つまり、話す人がいなかった。誰がクラスメイトで誰が同じ班で誰が同じ通学路で――そんなことはどうでもいい。空虚に過ぎていく日々は本が埋めていった。
 何年もまともに使われていなかったであろう図書室の扉は、つい先日までギィと嫌な音を立てて開いていた。特に気にすることもなく、両手に本を抱えて教室と図書室を行き来する。その音がしなくなった日、真司は初めてこの図書室に自分以外の存在を感じ取ったのだ。
 名前が知りたくて、でも訊けなくて、それどころか話しかけるのも怖い。やっとのことで蝶番のことで礼を言ったときは緊張して名前を訊き忘れた。それから数日。
「緒方」あいつに、呼ばれた気がしたから。
「なあ、お前の名前って何」
 やっと訊けたのだ。樋山は呆れたようでしばらく黙っていた。らしくもなく心臓が早鐘を打つ。
「樋山恭介だよ。……同じクラスって知ってるよね?」知らない。とは言えなくて樋山から目を逸らす。でも、やっと知ることができた。
「樋山。もう、憶えた」嬉しくてもう一度「樋山」と呟くと彼は固まってしまい、真司も気恥ずかしくて読書を再開しようとしたそのとき。
「好きだ」
 それがあいつの声だと認識してしまったから。
 真司は、答えてしまったのだ。



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