2日後。
エーコが父にねだって用意してもらった小型飛空挺のデッキには、風に吹かれる大小2つの人影があった。
「………。」
「来てくれてありがとう、サラマンダー。」
腕組みをしながらミノンの傍らに立っていたサラマンダーに、ガーネットが歩み寄って優雅な礼をする。
「ミノンもありがとう。流石ね。」
「え?…何がですか?」
きょとんとして聞き返すミノン。
「色々と。…そんな顔しないでちょうだい、サラマンダー。たまには旅行も良いでしょう?」
「………。」
「…あの…私と一緒に行くの…やっぱり嫌ですか?」
ミノンが上目遣いで不安げに問う。肯定しようものならひどく沈みそうだ。
「………それは、嫌じゃ…な」
「着いたぜ!」
サラマンダーの答えは、船内に響き渡る大声に遮られた。飛空挺を操縦していたジタンの声だ。
「ガーネット様。お足元、お気をつけ下さい。」
地上へ降りる階段で、ベアトリクスがいつもの様に手を差し出す。
「ありがとう…でも大丈夫よ。私、旅の間は一人で降りていたもの。心配性ね、ベアトリクスは。」
「…そう…ですか。」
「おーい!何やってんだ?早く行こうぜ!」
「うん、今行く!」
一人で軽々と降りて行くガーネット。
「………。」
いつもの女王らしさはどこへやら、旅の途中…まるでダガーの様な振る舞いに、ベアトリクスは少し戸惑う様に微笑んだ。
「ここがグルグ温泉であるか…。」
「ボク、温泉って初めて!」
「エーコも!」
「美味しいものいっぱいアルか?」
「さてな。中に入ればわかるじゃろう。」
ぞろぞろと旅館の中に入る一行。するとすぐに、揃って頭を下げる女将達に迎えられた。
「ようこそいらっしゃいました。」
「わぁ…!みんなミノンと同じ様な格好だわ!」
「…浴衣…。」
この世界に和の文化があるなんて…とミノンが小さく呟く。
「皆様、お部屋まで案内致します。」
女将頭に通されたのは、とても美しい景色が見える部屋だった。男女で別れて泊まる事になり、しばらくの議論の結果クイナは(人数の都合上)男部屋に入った。
「うわー、広ーい!何かしらこの床…寝転ぶと気持ち良い!」
ごろごろと畳の上を転げ回るエーコ。
「エーコ様、それは畳と言います。こちらでは珍しいですか?」
「ええ、わたしも見たことがないわ。ミノンのいた世界にはあるの?」
「はい。服…浴衣も、畳も…私の世界の[日本]と言う所の文化です。どうしてこちらにあるのでしょう…?」
「細かいことは気にしちゃダメよ!」
エーコが半身を起こしてそう言った時、涼やかな声がして女将が入って来た。
「失礼致します。お着替えを持って参りました。」
浴衣を手渡され、風呂についての説明をされる。
「では、ごゆっくり。」
「…ねえ、エーコ早く入りたい!行きましょ!」
「ええ。」
皆が準備を始める中、立ち止まったまま動かないミノン。
「…どうしたの?」
「えっとその…私…後で…。」
「えー!?何でよ!やだ、エーコはミノンと一緒に行くの!」
消えそうなミノンの声とは対照的な大声でエーコが反論する。
「やだ!ねえ何で!」
「えと…あの……ふ、船酔い…で…。」
「大丈夫よ、さっき、ヤッコーにフカイカンのカイショーっていうのがあるって言ってたじゃない!ねえ行こうよ、ね?」
エーコが意味を理解しているのかは不明だが、不快感の解消と言われては…ましてこんなにも強く同行を望まれては、ミノンに異を唱える事は出来なかった。
「………。……はい。」
「ミノン?無理をしてエーコに付き合わずとも…気分が優れないなら部屋で休んでいなさい。」
「…いえ。大丈夫…です。」
少し戸惑いを浮かべながらも微笑むミノン。
こうして一行は、風呂に向かったのだった。
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