とある長閑な昼下がり。
城の一室で執務に勤(いそ)しんでいた若き女王の元に、いつものように窓から恋人が訪れた。
「あ、ジタン!いらっしゃい!」
ペンを置き、ジタンに元気よく駆け寄るガーネット。
「今日も可愛いぜ、ガーネット。」
「え!?ちょっと、もう!…そうだあのね、聞いて聞いて!」
「何だい?」
「じゃーん!」
「ん?何だそれ……グルグ温泉?」
彼女が出したのは、一枚のチラシだった。山々に囲まれた旅館らしき建物と、湯気の立つ温泉が描かれている。
「そう!ある貴族からの勧めでね、疲れてるだろうから行ったらどうかって。」
「へぇ…いいな。」
何を想像したのか顔をにやけさせるジタン。
「2泊3日で、女王様用に貸し切りにしてくれるんですって。だからみんなで行きましょう!」
「みん…!?…そうだな。」
どうやらジタンは[二人で]と言われる事を想定していたらしい…自慢の演技力で動揺は何とか隠し通したものの、金の尻尾が少ししょげている。
「だからジタン、みんなの予定聞いて来て!」
「…ん、分かった。じゃあ行って来るわ。」
はしゃぐガーネットの笑顔は輝く様で……幸せを噛み締めたジタンは窓から颯爽と去って行った。
数刻の後。
「ガーネット。」
「ジタン!おかえり、どうだった?」
「まあ案の定…サラマンダーが見つからねえ。後はミノンが家にいなかった。他は見つかったぜ。この感じだと明後日からの3日間ってとこかな。」
「そう…二人共どこにいるのかしら。ミノン、最近顔見せてないけど。」
「サラマンダーはともかくさ、ミノンは呼んだら来るんじゃね?」
「そうね。ミノン〜?」
「はい。」
どこからともなくミノンが現れる。
「うおっ、来た!」
「…呼びになったでしょう?何かご用ですか?」
「ミノン、温泉に行きましょ!温泉!」
「温泉…?」
「そう、明後日からの3日間。予定空いてる?」
「…はい。……温泉…ですか?」
少し煮え切らない表情で聞き返すミノン。
「嫌?」
「…えっ…と…あの…その…。」
「行こうぜ!みんなで旅行なんて滅多にねえぞ?」
「…旅行…。……はい。ご一緒させて下さい。」
「決まりね!あ、それと、サラマンダーの居場所って知ってる?」
「…大体は……予定を聞いてくれば良いですか?」
「ああ。あいつの事だから行かないって言うとは思うけど、そこは何とか説得してくれ!」
「わかりました。」
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