「え?え、ええ……構わないわ。」

滅多に食事の用意など頼まれない故に最初は驚いた様だが、ダガーはすぐに了承した。不思議そうな顔をしながら近寄って来る。

「見てるだけで良いアルよ!何も加えなくて良いアルよ!……あ、火の勢いだけは注意して欲しいアルね!」

「ひ、火の……?それってどうしたら良いのかしら……ごめんなさい私、やったことなくて……。」

「……フライヤ、ダガーのお手伝いしてもらえるアルか?」

当初はヤリの手入れをしているからと遠慮したクイナだったが、料理未経験の姫君に任せるには喩え鍋一つの火の管理といえども不安が残り過ぎたらしい。会話が聞こえていたフライヤは小さく笑うと任せろとばかりに頷いた。彼女は過去の一人旅の間にやむを得ず野宿したことが幾度もあり、必然的に野外での調理にも慣れているのだ。

「ちょっとあの森行って来るアルよ〜!」

申し訳なさそうにするダガーに「お願いするアルね」と明るく声を掛けると、クイナはミノンの手をとって駆け出した。よくよく考えれば自分に任せれば良いものを、あの二人に何故?と考えていたミノンの思考回路がやっと現実に追い付く。

「わ、私も行くのですか!?」

「もちろんアルよ〜手伝いお願いアル!」

「は……はい!」

慌てて走り出すミノン。てっきりカエルか何かとばかり思っており、駆り出されるとは予想だにしていなかったのだ。突然のことにエプロンも外せず、クイナからの借り物である為ゆるゆるの肩紐をたくし上げながら懸命に追いかける。

「……ムムム……こっちアル!」

ヒトには感じられないが確かに匂いがしているのだろう。状況に置いていかれたミノンを半ば引き摺る様にして、あちらへこちらへとクイナは森を掻き分けて行った。ミノンの息が少々切れてきた時、突然止まる。

「あったアル!」

肩で息をしながら顔を上げたミノンの目に映ったのは──たわわに実をつけた大樹だった。緑の葉から零れる様に、金にも近い色の果実がいくつもいくつも生っている。

「コレ、とってもおいしいフルーツアルよ!みんなに持ってかえ、持って……もっ……て……。」

しょんぼりと肩を落とすクイナ。

「……高いアルね……。」

何度か下の枝を目掛けて跳んでみるが、残念なことに掠りもしなかった。もともとジャンプ力が低いこともあるが、それ以上に逆らい難い高さが阻んでいる様だ。

「む、無念アル……サラマンダーなら届くアルか?」

「……そうですね……どちらかというと、ジタン様に登って頂いた方が早いかもしれません。」

少し離れたところから見守っていたミノンが樹の下まで歩みを進める。近付いてみれば樹の幹は思ったより凹凸がなく、枝も細かった。

「………少し、木登りは難しいかもしれませんね。」

一番下の枝までですら、10フィート(約3メートル)以上はありそうなのだ。サラマンダーが協力してくれたとして届くのは一番下の枝のみ……ジタンが登るには少々危険な高さだろう。

「……せっかくこんなたくさんアルのに……無念アル。」

輝く果実を前にして、クイナがガックリと項垂れる。ミノンは考えると、少しだけ顔を綻ばせた。

「………あの……もしかして、なのですが……私に、気を遣って下さってますか?」

「……?……ナニをアルか?」

「あ……違うなら、良いのです。……ありがとうございます。」

「……オヨ?」

忘れているはずがない、避けていないはずがない。気遣われている、守られているのだ。──そう心の中で呟き、ミノンはゆっくり目を閉じた。

「ミノン?……どうかしたアルか?」

小さく頷いてから目を開ける。すっと樹の根元まで歩み寄ると、大事そうに幹に触れた。

「──汝が恵み、我等に分け与え給え。」



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