ある野宿明けの朝。

ジタン率いるパーティーのメンバーは、快晴の空の下で銘々に朝の日課へ打ち込んでいた。騎士の二人は武器の手入れを、年少組は体操を。クイナとミノンは朝食を準備している。──冒険の真っ最中とは思いがたい程、その雰囲気は平和だ。

「サラマンダー?どこ行くのよ!」

「……るっせえな……てめえには関係ねえだろうが。」

「ちょっと、てめえってなによそれ!それがレディーに対する口のきき方?で、どこ行くのってば!」

それが少しだけ騒がしくなったきっかけは、エーコとサラマンダーの会話だった。よく何も言わずふらりとどこかへ行ってしまうサラマンダーを、エーコは幼心に気にしているのだ。今日も見咎め、服の裾を引っ張りながら甲高い声で問い質す。

「……………身体が鈍(なま)ったから鍛えようとしただけだ。……何も面白いことはない。」

対照的に低い声で、ひどく面倒そうにサラマンダーは返した。だんだん慣れては来たものの、まだ騒がしい集団とずっと一緒にいるなどという行為は煩わしいのだろう。

「あら、じゃあどうしてどこか行っちゃうの?みんなのいるとこでも良いじゃない!何するの?エーコ興味あるわ!」

だが「一人」を「寂しい」と感じるエーコには、それを理解するのが難しい様だ。持ち前の明るさで集団の中に引き留めようとする。

「おお、鍛練であるか?感心なことだな!自分もやろうと思っていたのだ、共にやろうではないか!」

サラマンダーが苛立ちも顕に振り解こうとした時、やりとりを聞き付けたスタイナーが会話に加わった。先程まで鎧の点検をしていた為、珍しくまだ軽装だ。

「何だおまえら楽しそうだな。オレ達も混ぜろよ。」

続いてビビを引き連れたジタンもやって来る。結局集団に囲まれてしまったことに、サラマンダーは大きな溜め息を吐いた。いくら嫌だとはいえ、大人数に逆らうほどの気力もそうそう湧かないのだ。特に今は早朝である。低血圧の彼は活力に欠けていた。

「何から始めるのだ?上体起こしか?腕立てか?」

「よっし、じゃあ腕立てで回数勝負な!」

「ビビ、あたし達は応援しましょ!」

「うん!みんな頑張って!」

「………。」

「サラマンダーもやるのっ!」

眉を顰め抵抗の意を示したサラマンダーだったが、グイグイと背中を押すエーコと期待するビビに逆らえなかったらしい。渋々姿勢をとる。

「楽しそうで何よりじゃ。」

「ええ、ほんと。」

何が面白いのか男達の筋トレを見てキャイキャイとはしゃぐ子供達を、フライヤとダガーはやや離れたところから見守っていた。どうやら純粋な筋肉量と体力勝負の腕立て伏せでは、まだ発達途上のジタンが不利な様だ。

「くっそ、おっさんにすら敵わねえのかよ!」

「まだまだ鍛練が足りぬな!……じ、自分にすらとはどういうことだ!」

「………もう良いか。」

余裕で最高回数を叩き出したサラマンダーが溜め息を吐く。亜人の彼にとってはそもそもの基準が違う様なものなのだ。競うことにも何の意味も覚えないのだろう。

「うーん、ねえ、エーコ次サラマンダーの上乗ってみたい!」

「……はあ?」

「だって楽チンそうでつまんないんだもの!楽しそうだし。ビビはスタイナーの上ね!」

「え、ええ〜!?」

「自分は構いませんぞ、ビビ殿!負荷がかかる方が鍛練になりますからな!ささ、どうぞ。」

構えたスタイナーの上に、ビビが遠慮がちに乗っかる。耳元で「やるのっ!」と叫ばれうんざりしながら従ったサラマンダーに、エーコは嬉しそうに飛び乗った。

「うわ、こんなハンデありじゃ負けらんねえな〜。」

「ジタン〜!頑張って!」

向こうから響いた想い人の声にジタンの頬がデレデレと緩む。やがて響いたいっそう楽しそうなはしゃぎ声に、フライヤは優しい溜め息を吐いた。

「ム〜……やっぱりするアルね。」

「……何がですか?」

一方で朝食作りに勤しんでいたクイナは、スープを煮込み始めるとほぼ同時に突然そう言った。手伝っていたミノンが首を傾げる。

「おいしいニオイアル!絶対あっちにあるアルね!」

どうやら近くの森から漂う何かの匂いを嗅ぎ付けたらしい。しばらく考えた後、何を思ったのかダガーに叫ぶ。

「……ダガー!少しの間、このナベ見ていてもらっても良いアルか?」



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