「……では、私はこれからご飯を作らなくて良いのですか?」

いくらか拗ねた様な表情で少女がまっすぐ上を見る。

「………。……それは困る。」

少しの沈黙のあと不服そうに顔を背けて紡がれた言葉に、少女は一転にこりと笑った。彼とて美味しさがわからない訳ではない。ただの漬物より彼女の手料理の方が食べたいに決まっているのだ。

「はい。すぐ作りますね。」

瓶を取るが早いがパタパタと台所へ消えた後ろ姿をじっと見送った後、彼はまた溜め息を吐いた。もう一度新聞を読む気にはならず、かといって何をする気にもならず、ただ彼女の行った方を見つめる。

しばらくして、彼は気だるげに動き出した。向かった先は──台所。何をしているのかガタガタと物を動かす音が聞こえて来たからだ。彼の優れた聴覚は彼女が悪戦苦闘しながら漏らしている声まで捉えていた。どうやら何か上にあるものが取れないらしい。

扉を開けた彼が目にしたものは、踏み台に爪先立ちになりながら適う限り手を伸ばし……備え付けの棚の上段から籠を降ろそうとしている少女の姿だった。あと少しのところで指先は惜しくも届かず、届いたと思えば余計に奥へやってしまう。それを取ろうと更に爪先立ちになるものだから、掴まれるものもない状態では狙いも定まらなくなってきている。

ふらふらと危なっかしい足元に、彼は小さく溜め息を吐いた。

「取ってやるから動くな。」

少女の背後へと大股で歩み寄り、少し屈んでそう囁く。さっと手を伸ばすと後ろからだというのに軽々と籠を取った。またもや集中していた為に遅れて驚いたのか、少女の肩がびくりと震える。

「さ、さら…っ…!?……きゃあっ!」

その瞬間に均衡を失い後ろへ倒れた彼女の身体は、頑強な体躯にしっかりと受け止められた。ある程度は予想出来ていたのか彼に動揺した様子はない。

「……本っ当に危なっかしいなおまえは。」

くつくつと笑いを漏らしながら料理台に籠を置き、少女の細い身体を支え自分と向かい合う形で踏み台の上に立たせてやる。彼の笑い顔を目の当たりにした彼女は、恥ずかしさから染めていた頬を殊更に紅潮させた。

「す、すみません…!……あ……ありがとうございます。」

耐えられず俯いてしまってから謝罪と礼を述べる。そんな彼女を見てまた笑った彼は、すっと少女の顎に手をかけて顔を上げさせた。そしていつもとは違う高さにある細い腰へ腕を回す。

何が愉しいのかそのまま彼女を抱き寄せると、彼はぽんぽんとあやす様に華奢な背中を叩き始めた。



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