Security President
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キャ…!!ムぐっ!!(え!?ななにっ?!)
突然腕を引かれ押し込まれたのは使用していない会議室。あっという間の出来事に私はどうすることも出来ない。
背中は壁に押し付けられ、両腕は取られ身動きが取れない。もがく分荒くなっていく息遣い。裏腹に、物静かな空気はそのまま強い威圧感を放つ。
(もしかして……)
薄暗い中で何とか目を凝らせば浮かび上がる、絶対と言っていい、こんな所にはいるはずがない人。
「お前、俺が好きって割りには匂いを嗅ぎ分けられないみたいだな?……」
バカにする冷めた言い方と自分の息苦しさで今なら死ねるかもしれない…それだけは明確。
「みょうじなまえ」
『………』
ドンッーーーー!!
力の差も歴然。
大きなテーブルに肩ごと押さえつけられぶら下がる脚、長い前髪の隙間から見える目はただの男。この会社の代表。
相名字相なまえ。
好きだと誰かに打ち明けたことも、まして本人に伝えたこともない。
『あの…別の女性と勘違い、されていませんか?』
やっと出たこの言葉はいかに男を不機嫌にさせ2人を纏う空気をも一瞬で変えた。
ガブリッとまるで紙に書いたような無機質音で、冷たい唇を受ける。肩を押さえつけていた社長の左手は私のブラウスのボタンを器用に外していく。
愛など到底ないおざなりなキスは、自分に想いを寄せる女への哀れみか。ジリッと感じる痛みに社長を見やると無関心かつ試すような視線を私に向けている。
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