茫洋に唸る、海主の背

 アトリが東アルデナード商会に出向き、そしてレヴナンツトールの様子を探っている間、冒険者はアルトアレールと共に一つ目の任務に当たっていた。
 クルザス西部高地にて、デュランデル家とゼーメル家の手助けをして施設の再建を行っていたものの、異端者のアジトの探索を行っていた部隊と連絡が付かないとの報せがあり、冒険者とアルトアレールは救助に向かった。
 そして、逃亡した異端者を捕まえるべく、冒険者は単独で奥へ進んでいったところ、そこで出くわしたのは、同じ『超える力』を持つ氷の巫女、イゼルであった。

「『犯した罪は償う』……そう仰られたのですね」

 皇都イシュガルド、フォルタン伯爵邸の外で、冒険者から一部始終を聞いたアトリは、神妙な面持ちで俯いた。どうしてもドラゴン族とイシュガルドの民の戦いは避けられないのなら、自分には何が出来るだろう。せめて、イゼルと再び会う事が出来たら――否、冒険者でも引き留められなかったというのに、『超える力』を持たない己に一体何が出来ようか。アトリは溜息を吐けば、改めて冒険者に向き直った。

「ひとまず、アジトの制圧お疲れ様です! ここまで功績を挙げれば、胸を張って皇都を歩けますね」

 アトリが笑みを作ってそう言うと、冒険者は苦笑しつつも頷いた。だが、アトリは更に何か言いたい事があるらしく、言い淀む素振りを見せていた。冒険者が「気になる事があれば聞いて欲しい」と告げると、アトリは遠慮がちに口を開いた。

「……不躾な質問ですが、アルトアレール様から嫌な態度を取られたりはしませんでしたか?」

 思わぬ問いに、冒険者は驚いて思わずまばたきしたが、タタルからアトリが酒場で不満を漏らしていた事を事前に聞いていた為、言わんとする事を瞬時に理解した。
 正直、初めは己の事を疑って掛かっていたらしいが、今回の件で考えを改めたようだ。冒険者がそう告げると、アトリは胸を撫で下ろした。

「はあ……御人好しなあなたの事ですから、あまり気にしていないのでしょうけど……本当にあの御方は、オルシュファンを目の仇にして、失礼にも程がありますっ!」

 つい感情的に言ってしまったアトリは、慌てて周囲を見回して、フォルタン家の者が辺りにいないか確認した。運良く誰もこの道を通っておらず、命拾いしたアトリは肩を竦めた。

「申し訳ありません。私も最初はあなたに酷い態度を取っていましたし、人の事を言えませんね」

 それはオルシュファンが己に好意的だったから、やきもちを焼いていただけだろう。冒険者がそう告げて笑みを浮かべると、アトリは恥ずかしそうに頬を染めて苦笑した。

「もう……あまり優しすぎると、悪い人に利用されちゃいますよ? 万が一あなたが不利益を被る事があれば、私が代わりに声を上げますからね」

 まさかそんな言葉を掛けられるとは思わず、冒険者は驚いたが、それだけアトリも精神的に成長したのだと頼もしく感じた。
 祝賀会での出来事がきっかけで、ロロリトの手から離れ、自らの意志で己たちを助けて、そしてオルシュファンの元で生きる事を選んだのだ。彼女は心強い味方になる。冒険者はそう思うと同時に、タタルから聞いた大事な事を思い出した。
 そして、笑顔でこう告げた。「オルシュファンとの結婚式には是非自分たちも呼んでくれ」と。

「ど、どこでその話を……! ……タタルさんですね?」

 冒険者が頷くと、アトリは頬を更に赤く染めた。とはいえ、タタルに対して怒っている素振りはない。どうやら仲良くやっているようである。

「まあ、ドラゴン族がいつ襲って来るか分からない状況では、式を挙げられるかも定かではありませんが……楽観思考になりたいところですが、イゼルの言葉が気掛かりです」

 籍を入れる事はいつでも出来るが、式を挙げるとなると、情勢を鑑みる必要がある。アトリはその点に関してはあまり急いでいなかった。

「それよりも、後はエマネラン様の任務のお手伝いがあるのですよね? アルトアレール様と違ってとても気さくで良い方なので、きっと楽しく過ごせると思いますよ」

 自信を持ってそう告げるアトリに、冒険者は安堵したものの、それはアトリの過剰評価だったと気付くのは、任務でエマネランと共にアバラシア雲海に渡ってからの事であった。

 確かにエマネランは気さくではある。だが、そもそも彼は数年前にアトリを無断で皇都に引き入れて雲海に渡るという騒動を起こしていた。更には建物の上から落ちそうになったところをアトリに助けられ、結果下層の一部分が破壊されてしまうなど、実質彼がトラブルメーカーと言っても過言ではなかった。例え、アトリにとってアルトアレールよりも『良い人』であったとしても。



 翌日、キャンプ・ドラゴンヘッドでアトリはオルシュファンと穏やかな時間を過ごしていたものの、それは唐突に破られた。

「隊長! アインハルト家から救援要請です!」

 慌てて室内に入って来た騎兵に、オルシュファンとアトリは飲んでいたジンジャーティーをすぐに机上に置き、慌てて立ち上がった。

「何事だ!?」
「アバラシア雲海のラニエット殿より、エマネラン卿がバヌバヌ族に連れ去られたと――」
「…………」

 オルシュファンは思い切り肩を竦めれば、飲みかけのカップを一瞥すれば、アトリに向かって告げた。

「アトリ、私はこれからアバラシア雲海に向かう」
「私も同行致します!」
「駄目だ。お前に万が一の事があれば、ロロリト殿に合わせる顔がない」

 オルシュファンはアトリの申し出をきっぱりと拒否したが、彼女にも引けない理由があった。

「冒険者様もいらっしゃるのですよね? 『ばぬばぬ族』とやらの脅威は分かりかねますが、異端者よりはマシなのでは?」
「……だと良いのだが」
「私、冒険者様に『エマネラン様と一緒なら楽しく過ごせる』と言ってしまったのです。それで油断してしまったのかも知れません」
「いや、それはさすがにないだろう。……とはいえ、お前が気にするのも分かる」

 このままアトリを残したところで、余計に心配を掛けるだけである。それに、冒険者がいるなら最悪の事態は免れるだろう。なにせ、先日異端者のアジトを潰したというのだから。

「……止むを得ん。アトリ、共に向かうぞ! だが、無理は禁物だ。いざとなったら逃げるのだぞ」
「ありがとうございます! ちょうどラニエット様にもご挨拶したかったので、嬉しいです」
「全く、遊びに行くわけではないのだからな」

 オルシュファンは苦笑しつつも、アトリに万が一の事があってはならないと、以前着せたことのある装備をすぐさま準備して、共に揃いの格好でアバラシア雲海へと向かったのだった。





「か、勘弁してくれぇ……。俺なんか喰っても、美味くないって!」

 アインハルト家の支援。それがエマネランに与えられた任務であった。フォルタン家と友好関係にあるだけに、特に問題ない――にも関わらず、エマネランはバヌバヌ族の集落に連れ去られてしまい、呆気なく拘束されてしまっていた。
 だが、異変に気付いたオノロワが冒険者とラニエットへ助けを求め、先行して冒険者が集落に潜入し、エマネランを発見した。

「こっちだ、早く助けてくれよ!」

 だが、冒険者に訴えるエマネランの声が長老ホヌバヌの耳に届いてしまい、長老はすぐさま仲間たちに号令をかけた。

「偉大なるブンドに逆らう愚か者め! バヌバヌの勇士たちよ、奴らを雲に沈めるのだ!」

 冒険者は拘束されているエマネランの縄を急いで解き、無事動けるようにしたは良いものの、多勢に無勢、どう考えても冒険者とエマネランだけでは不利であった。

「た、助かったぜ……に、逃げるが勝ちってな!」

 即座に逃げ出すエマネランに剣技の心得があるとは、冒険者は思えなかった。アトリには申し訳ないが、これではアルトアレールとの任務の方が遥かに良かったと思えるほどである。

「なんと、なんと、ゲイラキャットよりアホウな生贄が逃げ出そうとしておるではないか! 者共であえであえ!」

 来た道を必死で戻る冒険者とエマネランを、大勢のバヌバヌ族が追い掛ける中。

「助けに来たぞ!」

 オルシュファンが颯爽と現れ、何体ものバヌバヌ族を薙ぎ倒した。恐らくは状況を把握したラニエットが、オルシュファンに救援を要請したのだろう。冒険者は光明が見えたと心の中で安堵した。

「オ、オルシュファン! お前も来てくれたのか! 恩に着るぜぇ!」
「ここは、私が引き受ける! エマネランの護衛を頼むッ!」

 オルシュファンに続いて、フォルタン家の騎兵とアトリも駆け付ける。同じ装備を身に纏い、槍を携えるアトリの姿は、傍から見ればフォルタン家の騎兵そのものである。

「冒険者様! エマネラン様! ご無事ですか!?」
「アトリ! お前まで……さすがオルシュファンの未来の嫁さんだな!」
「えっ!? あ、ありがとうございます!」

 決して礼を述べるような事を言われているわけではないというのに、咄嗟にそう返してしまったアトリに、冒険者はなんとなくこの二人の関係性を理解した。エマネランにいいように使われているのだろう、と。

 バヌバヌ族を撃退しながら、なんとか逃げ切る事は出来そうだ――そう思ったのも束の間。

「くっ、また増援か!?」

 バヌバヌ族はまだ冒険者一行を追い掛けていた。一体どれだけいるのか、アトリは見当も付かなかった。そもそもアトリが過去にアバラシア雲海を訪れた時は、バヌバヌ族の影もなかった。何らかの理由で人里に降りて来たのだろうか。
 どちらにせよ、バヌバヌ族が襲い掛かって来た理由を考える余裕などなく、アトリは槍を振るって追い払いながら、オルシュファンたちと共に来た道を戻っていく。

「バヌバヌ治める偉大なブンドの長、このホヌバヌは、沸き立つ雲のように怒りに満ちている! ホヌバヌを怒らせる、地の底を歩く者たちは、泡立つ雲の神に捧げなければならない〜!」

 バヌバヌ族の長老ホヌバヌは突然そんな事を宣うと、空高く杖を掲げ、祈祷のような動きをみせた。

「……来たりませ、白き神!」

 ホヌバヌがそう叫んだ瞬間。
 突然大地を揺るがすような鳴き声が轟いた。そして、空に巨大な魚のような、あるいは鯨のような、なんとも形容し難い生物が飛沫を立てて現れた。それはまるで、海にいるかのように空を泳いでいる。

「おぉぉ、白き神! 白き神! 大いなる雲神『ビスマルク』……!」
「なっ、雲神……だと? 新たなる蛮神だというのか!?」

 オルシュファンは思わず立ち止まり、驚愕の声を上げたが、そんな事などお構いなしに、エマネランはひとりでさっさと走り出した。
 だが、オルシュファンはそれを咎める事はせず、ここで下手に立ち向かっては自分たちもテンパードにされてしまうと判断し、エマネランの後を追う事にした。

「……確かに、ここは逃げるが勝ちか!」

 オルシュファンはそう言うと、真っ先にアトリの手を取って走り出した――ものの、あちこちからバヌバヌ族の追手がやって来て、アトリたちは瞬く間に崖の傍まで追い込まれてしまった。これ以上後退したら、雲の下まで真っ逆さまである。

「くっ……!」

 万事休す、オルシュファンが歯ぎしりした瞬間。
 突然、空から一隻の飛空艇がこちら目掛けてやって来た。
 そしてアトリたちの横に着地すれば、見慣れた顔が姿を現した。

「急げ、離脱する!」

 そう叫んだのは、シド・ガーロンド――オルシュファンとアトリにとっても馴染み深い男であった。

「シド様! どうして……!」

 事情は後で聞けば良い。とにかくここでシドの飛空艇に乗らなければ一巻の終わりである。真っ先にエマネランが飛び乗り、フォルタン家の騎士たち、冒険者、そして最後にオルシュファンが、アトリの手を取ってふたり同時に飛び乗った。
 飛空艇は間一髪で舞い上がり、アトリたちは無事バヌバヌ族の手から逃れる事が出来た。
 だが、一息吐いたのも束の間、蛮神ビスマルクが飛空艇めがけて襲い掛かって来る。

「蛮神が……! シド様!」

 アトリが叫ぶと同時に、シドは間一髪でビスマルクを躱してみせた。
 飛空艇はビスマルクから逃れるように空を舞い、無事キャンプ・クラウドトップへ着陸したのだった。



 アトリはオルシュファンと共に飛空艇から降りると、思わず地面にへたり込んでしまった。オルシュファンはすかさず、アトリの身体を抱きかかえる。シヴァに続き、新たな蛮神召喚が起きたのだ。緊急事態ゆえに、ふたりが抱き合っていようと誰も気に留めないだろう。

「アトリ、よく頑張ったな」
「ちょっと今回は……生きた心地がしませんでした……」
「うむ、まさか蛮神が現れるとはな……。今夜はゆっくり休むとイイ」

 ふたりのすぐ傍で、冒険者はシドに向かって礼を述べた。

「やれやれ、どうなる事かと思ったが、無事で何よりだぜ。おっと、礼なんてよしてくれよ。俺たちは仲間だろ?」

 シドはそう言って笑みを浮かべたが、そもそも何故彼がイシュガルドにいるのか。他国への門を閉ざしているのだから、本来ならばシドたちも立ち入り禁止の筈である。
 冒険者の問いに、シドは事の顛末を説明した。

「実は、イシュガルド教皇庁から、飛空艇技術の顧問を頼まれてな。連中が作った大型飛空艇『プロテクトゥール号』の問題を解決する手伝いのために来たんだ」

 なんと、教皇庁直々にシドを皇都に迎え入れたのだという。ならば冒険者たちと違い、まさに堂々と皇都を闊歩できるというものだ。

「そうしたら、お前も来てるっていうじゃないか。オマケに、お前の仲間が獣人に捕まったと聞いてな。慌てて、エンタープライズに飛び乗ったってわけさ!」

 シドがいなければ、冒険者たちは今頃どうなっていたか分からない。テンパード化しない冒険者はともかく、オルシュファンやアトリ、エマネラン、フォルタン家の騎兵たちは、あのままでは蛮神ビスマルクのテンパードと化していただろう。

「さてと、俺は大型飛空艇とやらの様子を見てくるとするかな。少しは仕事をして社に金を入れろって、部下に怒られてるんだ……」

 シドはそう言うと、部下のビッグス、ウェッジとともに飛空艇に乗って、再び飛び立って行った。助けに来たのも突然だが、去るのも突然である。とはいえ、暫くイシュガルドに滞在するのであれば、今後いくらでも会う機会はある。アトリは後日改めてシドに礼を述べようと心に決めたのだった。

「しかし、エマネランの能天気ぶりには、呆れ果てて物も言えん……」

 飛空艇を見送った後、ぽつりとそう呟くオルシュファンに、アトリは思わず冒険者に顔を向ける。視線に気付いた冒険者と目が合うと、アトリは深々と頭を下げた。

「冒険者様、申し訳ありません……なんとお詫びしたら良いのか……」

 冒険者は、アトリが「エマネランは良い人だ」と言った事を気にしているのだと察し、気にするなと首を横に振った。

「アトリもエマネランには散々振り回されているのだがな。喉元過ぎれば何とやら、だな」

 オルシュファンの独り言に、冒険者はただただ苦笑するしかなかったのだった。




「な、なんと……蛮神『ビスマルク』だと!? ビスマルクと言えば、雲海を遊弋すると伝わる『伝説の白鯨』だぞ……。それを、バヌバヌ族が蛮神として呼び下ろしたということか」

 ローズハウスに出向いた一行は、早速ラニエットに事情を説明した。皆神妙な面持ちをしていたが、騒動を起こしたエマネランだけは楽観的であった。蛮神を発見したのだから、ラニエットも自身の実力を認めてくれるだろうと思い込んでいたのだ。

「バヌバヌ族……本日初めてその姿を見ました。私が過去に雲海を訪れた時は見掛けませんでしたが、一体何があったのでしょうか」

 ふくよかな鳥のような獣人は、間違いなく以前は見掛けなかった。不安気に呟くアトリに、オルシュファンが補足する。

「バヌバヌ族は、以前は人間と友好的であったのだ。それが一転して態度を翻したのも、今となっては理解できる。蛮神の影響を受けていた、ということだろう」

 その言葉に、オノロワが反応した。

「神は、信徒となるテンパードの心をねじ曲げる……。『暁』から提供された資料で読んだことがあります、はい」

 だが、事態を重く受け止める従者とは対照的に、主人のエマネランは上機嫌でラニエットに話し掛けた。

「なぁなぁ、お手柄だろ? これでオレ様も、男爵位くらいもらえるはずさ。そしたら、ラニエット、オレの嫁さんになってくれよ!」
「…………はぁ。こんな男のために、命を懸けさせてしまうとは……何と詫びて良いものやら」

 当然ながら、相も変わらずつれない様子のラニエットに、オルシュファンは苦笑いを浮かべつつ、話を切り上げる事にした。

「ともかく、蛮神の件を上に報告せねばなるまい。教皇庁と神殿騎士団には、私から伝えておこう」
「助かる、オルシュファン卿。皆、助かったよ。当地での任務を終了とし、皇都に戻るといい」

 ラニエットはそう言うと、アトリの傍に歩み寄れば、労うように優しく髪を撫でた。

「アトリ、すっかり強くなったな」
「いえ、まだまだ修行中の身です。ラニエット様のような強い女性になれるよう、これからも精進します!」
「ふふっ、嬉しい事を言ってくれる」

 ラニエットは笑みを零せば、アトリを抱き締めて耳元で囁いた。

「オルシュファン卿との挙式には、是非私とフランセルも招待してくれ」
「ラ、ラニエット様までその事を……!」
「皇都の者は噂好きが多いからな」

 ラニエットがアトリから名残惜しそうに手を放すと同時に、エマネランの能天気な声がこの場に響く。

「えっ、なに、任務もう終わり? それじゃ、オレも疲れたから帰るわ。……ラニエット、色よい返事を待ってるぜ? じゃあな!」

 繰り返しとなるが、当然ラニエットから望む返事がない事など、エマネランは知る由もないのであった。



「それにしても、久しぶりの共闘……イイ戦いであったな! この胸の熱さ、未だに冷めぬぞ!」

 キャンプ・クラウドトップへ戻る道中、オルシュファンはアトリと手を繋ぎつつ、冒険者に向かって熱く語っていた。以前ならアトリはやきもちを焼いていたのだが、今となってはこの関係が心地良かった。
『暁の血盟』の皆が見つかり、ナナモ陛下を殺した罪も冤罪と分かれば、皆は晴れてエオルゼアに戻る事が出来る。そうなった後も、オルシュファンと冒険者の友情が続けば良い。アトリは心からそう願っていた。

 皇都イシュガルドに到着すると、オルシュファンは冒険者に簡潔に告げた。

「では私は、これより神殿騎士団本部に向かい、アイメリク卿に事の次第を報告してくる。お前は、フォルタン家の屋敷に戻るといい」

 冒険者は分かったと返して、まっすぐフォルタン家の屋敷へと向かった。
 アトリはこの後どうするか迷っていたが、オルシュファンがすかさず声を掛けた。

「お前も疲れていなければ、一緒にどうだ? 久々にルキア殿と話せるかも知れんぞ」
「良いのですか? 是非!」
「無論だ。お前も此度の任務に協力した、イシュガルドにとってもかけがえのない存在だからな!」

 バヌバヌ族と戦って疲労困憊だというのに、オルシュファンはいたく上機嫌であった。アトリも疲れなど吹き飛ぶほどの高揚感に溢れていたが、この後起こる騒動に、アトリは皇都で留守番していれば良かったと後悔する事になるのだった。

2023/11/12

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