ばーさす??? 5



少し汗ばんだ彼女の額に手を置く。額は熱く、手を握ればその手はとても冷たかった。



彼女を初めて見たとき、厄介な物を抱え込んでいる女性だと感じた。


【本日より、この本丸に配属致しました審神者にございます。一ヶ月前、審神者の適性があると診断された、ひよっこもひよっこ、卵と言っていただいても構いません。そのような者が審神者として配属されること、皆さまお怒りかとは思いますが、どうかご挨拶をさせては頂けないでしょうか?】


初めて聞いた凛と響いた声はとても心地良く、耳にこびり付いて離れる事はない。
至って平凡でいて、至って優れた容姿も持ち合わせていないその人の子は、兎に角自己犠牲の精神が強い特異な浄化力を持った子だった。



彼女の背後に鬱蒼とした暗いものが付いている事は知っていた。
ーあれは、きっと彼女の今までの人生で受けて来た妬みや嫉みの塊であった。


あれだけ人が良いのだ。
今までだって人を助けて、人の為に生きてきた彼女を妬む人間も勿論居たのだろう。

難儀なもので、沢山の人を助けた彼女の行動のせいで、ああなりたい、ああ生きていられる彼女が羨ましい妬ましいと。知らず知らずのうちに助けた人間の分だけその黒いものは増していったことは分かっていた。


鬱蒼としたものの他に、1人の老婆と1人の老人が居ることも知っている。


その人間は、もうこの世には居ないようだったが、彼女をその何かから守っていた。
きっと彼女の浄化の能力は生まれ持ったものではなく、後天的な、その老婆と老人の与えたものであることも。

それが働いているうちは、大丈夫であると理解しながらも、この審神者がこの本丸を諦めることのないように。
鶴丸国永の無理難題である全員を今日中に手入れせよ、との命令の時だって、せめてそれの力を増す為の祈祷を捧げられるだけ捧げた。


力及ばず彼女は倒れてしまったが、それからも彼女は無茶をする。
苦笑いをしつつも、それが彼女の、人間としての良いところであると、彼女の為に密かに力を貸していた。


それが出来るのはこの本丸の中で自分だけであった。
もし、この場に、にっかり青江が居たのであれば話は違ったのだが、彼は前任者によって折られてからこの本丸には顕現していない。

太郎太刀の一件があり、しっかりと休養を取っている今のうちにこれまたひっそりと力を分け与え、ある程度力が増したら自分から彼女の元に会いに行き、契約を済ませ、たまに自分の元へこっそりとやってくる今剣が自慢していた、美味しい朝食でも頂く予定であった。



【あるじさまのごはんがすーっごくおいしいんですよ!ぜひ、たべていただきたいのです!】

【それはそれは、そんなに言うのだから、さぞ美味しいのだろうね。】

【それに、すっごくやさしいんですよ!きのうもいっしょにおふろにはいったのですが、てぬぐいでくらげをつくってくださいました!
しっていますか?くらげをつぶすとぶくぶくとてのなかではじけておもしろいんです!あるじさまはくらげをにがすのがすごくおじょうずで、なかなかつぶせないのがまたおもしろくて…】

【…それは、私は決して味わう事が出来ないかもしれない】



幸せそうに笑いながらたくさんあった審神者との思い出を聞いて欲しい今剣を見て、早く自分もと思わないわけがない。


ーその巨大な穢れが彼女を包んだのは、つい最近のことだ。


それはまさに恨みの塊。嫉妬される事はあれど恨みを買うことなどしない筈の彼女の部屋に、なにか呪具か、札のようなものが貼られた。
丁度太郎太刀から受けた怪我を治療していた時だ。

その原因のものを処分したのちに、祈祷を行い彼女に害が及ぶ前に始末してしまおうと思っていたが、突然この部屋から出る事ができなくなった。
何故?と考えたが、どうやらこの本丸の中にその審神者を恨んでいるものの手のものがいるとしか考えられなかった。

彼女が、この部屋にやってくるのを待つしか出来なくなってしまった。


ただ、彼女は来てくれた。
歩くのもままならないその小鹿のような震える足で、導かれる様に来てくれた彼女。


閉じていた目を開ける。
ここからは、私の本気を見せる時である。







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