ばーさす石切丸 4







「ああ、やっと来てくれたね。 

体の調子はどうかな?」


ここまでどうやって来たのかは、正直覚えていなかった。
本丸の皆さんに気付かれないようゆっくりと歩きながら、時折襲い来る咳を我慢してその場に蹲る。どのくらいの時間がかかったのかもわからないけれど、何故か私はこの部屋の襖を開けた。
ここだ、と思った。

その部屋に入ると、不思議なことにとても息が楽になった。

ずっと息苦しかった肺が生き返ったように、
…やっと、ちゃんと息ができる…!そう思えた事が本当に嬉しい。
部屋の中は白檀のような、ふんわりとしたとても安心するいい匂いがする。
今の私の部屋のようなじめじめとした陰鬱な雰囲気は一切無く、ポツリと佇む1人の男性が居た。


大きな大きな体。
優しそうな目元と表情、
若葉色の狩衣に灰と白の袴をはいて垂纓冠を被って、茶髪をおかっぱにした髪型。

まあ、座るといい。横になるかい?とその男の人は言った。

落ち着いた、父性のある雰囲気。

どこか暖かく、安心するその人に、限界値をとうに迎えていたわたしは泣きそうになる。


ー石切丸さん。


今剣さんと岩融さんの言っていた事は、やっぱり正しかった。
こんなに優しく温かく笑う方が、わたしを呪うだなんてする筈がない。


「私が其方に行けないことの事情を説明したいのだけど、どうやら時間が無いようだね。

…君を見た時から、どうしても気になっていたんだ。
さ、少し休むといい。ここまで歩くのもとても大変だっただろう。」


その場から動かない私に、立ち上がって近寄ってくれた石切丸さんは、ぽすり、とわたしの頭に石切丸さんの温かな手を乗せる。

少し屈んで、私と目線が合うようにしてくれて、
一頻り撫でて、わたしの手を取り座布団を敷いてある柱にもたれかからせてくれた。


「あ、あの、
あなたは私のことが嫌いなのでは…」


その一連の動作があまりにも手慣れていて、そして予想していたかのような行動にびっくりして、わたしは彼を見上げた。

彼は目を見開く。



「おや、そんなわけないだろう。

君が来るまで、自分を犠牲にしていた三日月に、小狐丸。私の祈祷で少しは楽になったとしても、審神者の力で根本的にはどうにもならなかった今剣。それを守ろうと誰しもを頑なに受け入れなかった岩融。

仲間を救ってくれて、命を賭してまで霊力を与えてくれた。
そんな君には感謝こそすれ、憎むことなんて私には出来ないよ。
…少し、厄介なものを持っていたからね。君は気付いていないようだったけど。


でも、やはりこれはまた別なものだ。どこで貰ってきたんだい?」



石切丸さんは突然私を抱き寄せて、その大きな手で目を塞いだ。

その瞬間にとてもとても大きな眠気がわたしを襲う。
もっとちゃんと話がしたい。

この部屋に来た事で、すごく身体が楽なのだ。眠ってはいけない。


そう思っても、彼に触れられたところから身体はどんどんと力が抜けていく。


「…全てが終わったら、君と契約をさせてくれ。今は安心してお眠り。」


眠りに着く瞬間、あの光の正体は石切丸さんだったんではないかと、そう思った。










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