ばーさす石切丸 3
______________
夢を見る。
いつもと変わらず、内番を終えた皆さんの笑い声が響くお日様の出た天気の良い日に、いつもと同じように三角巾を被り割烹着を着て、機嫌良く、鼻歌なんか歌いながら私が本丸の掃除をしていると、その足元がどんどんと暗く変色していく。
そして誰だかわからない、
黒緑色の無数の手が、突然わたしの足に絡みついて、ごぽごぽとこの世の地獄のような色をした沼のようなものに引き摺り込むのだ。
真っ白だったいつもの雲は、いつの間にか真っ黒に染まって、綺麗になった筈の壁や襖はみるみるうちに真っ赤に染まる。
いつもと同じ本丸が、黒赤に染まる。
突然のことにびっくりしながらもわたしはとにかく焦って、
「だれか、だれかだれかだれかだれか!!たすけて!!」
そう、段々と身体が冷たく生々しい沼に沈んでいく様がとても現実的で、兎に角怖くて。
私は私自身が死に近づいていく姿を黙ってみていられるほど私はこの世を悟ってはいなくて。
叫んで泣いて、焦って、もがくのだけれど、泥と水に塗れて次第に息が出来なくなって、声も出なくなって、誰も助けには来てくれなくて、
しぬ、と思った瞬間に目が覚める。
ーなにか、光がちらりと最後に見えるのだが、これは何に関係しているのか。
いつも、わたしのかいた冷や汗はぐっしょりと服を濡らして、静かな部屋に私の粗い息遣いが響く。
そんな夢ばかりを見るせいか、精神もどうやらやられはじめていて、私はこのまま死ぬんじゃないか、そんな思いがぐるぐるとまわる。
こわい。がくがくと震える奥歯を噛み締めて、涙を堪える。
…やはり、わたしは死ぬ前に彼に聞きに行く他ないようだ。
現在の時刻は夜中、私は重過ぎる体を引き摺りながら、襖を開けた。
→[
back]