ばーさす石切丸 1
驚いたようなしぐさの後には花が咲く。
ぱぁっと目を輝かせた今剣さんは、身を乗り出して頬を染め、その次には喜びをいっぱいに笑顔を見せた。
後ろの岩融さんもどこか嬉しそうに、口角を上げて。
なんだか、嫌な予感がする。
「つぎは、いしきりまるですか!?
いしきりまるは、とてもよいかたですよ!
すごくやさしくて、どくにくるしんでいたときも、かれのきとうのおかげで、だいぶらくになりました!」
「そうだなあ、何故彼方側に居るのかは謎だが、我ら三条の仲間だ。是非に主の飯を振る舞いたい!」
わたしの信じる彼らは、
あるじさまのごはん、いちばんさいしょになにをすすめるべきでしょうか…?だとか、
やはり味噌汁ではないか!?あの出汁巻きも捨て難いが…だとかを言い合い始めて、その姿はとても微笑ましい。
「…とても、素敵な方なんですね?」
「はい!あるじさまのおからだがわるいのも、いしきりまるさえいればきっとすぐになおしてもらえます!いしきりまるは、なのあるじんじゃにまつられていたかたな、なんですよ!」
今剣さんはまるで自分の事のように自慢げに胸を張った。
ー神社に奉納されていた刀。
で、あればやはりきっと神力は高いだろう。わたしのような一介の人の子なぞ一捻りであることは明らかだ。
「主、もし、石切丸と会うのであれば、我らも同伴させてはくれないか?
万が一にもないとは思うが、主にもし危害を加えることがあるのならば理由を知りたいのだ」
少し心配そうな岩融さん。その表情を見て、つい固まってしまった。
いけない、とすぐ布団の下で手の甲を思いっきりつねる。
「…ええ、勿論。
その時は岩融さんと今剣さんにお願いしますね。」
…なるほど、すごく困ったどうしよう。
それが正直な感想である。
首筋の裏では冷や汗がたらりと流れた。
その言葉に嘘偽りがないのだとしたら、私のこの体の不調は謎に包まれてしまう。
生まれて初めての経験であり、尋常ではないこの眠気と怠さに。勝手にこれは確実にわたしを嫌う誰かの呪いなんじゃないか、とどこかで思って、決め付けていたからだと、私はその時に気が付いた。
が、あくまでも、私は来たばかりの何処の馬の骨とも分からぬ新参者で、この本丸の一部にとっては未だ悪である。
歴史修正主義者と戦争を行う審神者、という任を背負っている以上、それは決して変わることはない。
皆さんにとってとてもとても優しい刀であるからこそ、仲間を心配して、私に対し排除をするような、そういった行動をとっている可能性だってある。
私を信じることができないのであれば、私は仲間を誑かす女だ。
でも、今剣さんや岩融さんの反応を見る限り、呪い、だなんてとても口には出来なかった。
岩融さんの言葉についついひゅっと喉を鳴らして息を飲み込んだのは、
教えてくださったときのそれは、あまりにも仲間を信頼しているような表情で、ポッと出の私なんかの言葉で壊していい絆ではないと悟ってしまったからだ。
もし、私のその一言で、彼らがそれを憎んでしまっては話がまた変わってしまう。
私は決して、彼らを不幸には出来ないし、彼らの人間関係を壊すなんて持っての他である。
私は笑って、お二人に話してくださった有難うございました、と、お礼を言った後に、加州さんお手製の卵おじやに口をつけた。
あつい。
舌を火傷して、じんじんと痛む。私はどうやら、焦っていたらしい。
体の至る所が少しずつ悲鳴を上げているような、そんな気がした。
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