ばーさす石切丸 序




変わらず本丸に雨が降っている。

それも、綺麗にゆっくりと本丸を彩る綺麗な優しい雨ではなく、横殴りの、ざあざあと音を立てるとても乱暴な雨だ。風も強い。畑はビニールシートを杭で固定したそうだが、果たして無事だろうか。お馬さんたちだって心配だが、そんなにやわな作りの馬小屋ではありませんよ、と報告を受けたので、心配だけに留めておこう。
本丸中の雨戸を閉めて、本丸の中は静かだけれど、時折やたらと強い隙間風が入ってくるのを見て、外の雨の強さをより一層感じる。
それを横目に、私は自室に引き篭もっていた。


「主、加減はどうだ!!」
「いわとおし、うるさいですよ!あるじさまはおやすみになってるんです!しずかにしなさい!」


「いらっしゃい、岩融さん、今剣さん。」


勢いよく開いた襖を見て、つい笑みが溢れる。

岩融さんの手には今日のお食事当番である加州さんが作ってくれたであろうおじやの乗ったトレーがあって、今剣さんはお茶の入ったポットとコップを持ってきてくれていた。
…加州さんのおじや、あたたかくて美味しくて、私は大好きなんだよなあ。

お二人はずかずかと部屋に入り、小さなちゃぶ台にそれらを乗せて私の食事の準備をしてくれる。


「あるじさま、きょうのおかげんはいかがですか?ちゃんとねむれましたか?」
「はい、お陰様でたっぷりと睡眠を頂いています。きっとすぐに良くなりますよ、ごめんなさいね、ご飯が作れなくって」

「今は薬研や加州や長谷部が主のれしぴを元に飯を作っているが、やはり俺は主の作った飯が食いたい!早く治られよ!」

「ふふ、そう言っていただけるのなら早く治さないといけませんね」



部屋に設置していた簡易ベッドを担当さんに引き取ってもらって、久しぶりに自分の敷布団を敷いて、毛布をかけて。
やはり私はこちらの方が落ち着くし、何よりスペースを取らない。その横で、からからと扇風機が静かに回る。

燭台切さんが私の部屋に突撃訪問されてから、早いものでもう1週間。
それからあちらの動きは無く、私が自室に引き篭もっている以外は変化がない。


決して、引き篭もりたくて部屋にいる訳ではない。

私だってご飯を作りたいし、掃除だってしたい。家事は私の日常の中の一部で、それをしないとそわそわと心が落ち着かない。
それに身体だって、眠るよりは動いていた方が回復だって早いのだ。


梅雨だから。偶々、すこし体調が悪いだけ。 
それだけで済めば良いのだが、私は薄々感づいていた。

どうにも身体がだるくて、眠い。
そんな状態は少し前から続いていたが、それが最近になって突然襲ってくるようになった。体に力が入らない。とても起きてられないような睡魔が襲う。
そして、眠り、悪夢で目が覚める。


考えられるのは2つ。
1つは、私の霊力とやらの枯渇。かなりの浄化を行ってきているわけだから、キャパシティオーバーというやつが私の体で起こっている可能性。これは政府の病院で調べてもらった結果、順調に回復しつつあるとの診断を受けたので、可能性は低い。


もう1つ。
それは他者の呪い、なんだそうだ。

これはこんのすけさんに聞いたのだけれど、この本丸には1人だけ、そういったものに精通している神様がいらっしゃるらしい。
そして厄介な事に、それはこちら側ではなく、あちら側にいるのだとか。

ゆっくりゆっくり神様の呪いが私の中をまるで細菌のように蝕んでいるのだとしたら、それを止めてもらう他無いのだと。


それは皆さんには伝えていない。そもそもそれが確定すらしていないのに、予想の段階で刀剣男士同士の争いの種を生んでしまうのはわたしとしても本意ではないからだ。


「…あるじさま?どうなさいました?」


はっとする。
つい考え込んでしまったようで、今剣さんは私の手をそっと握って心配そうに顔を覗き込んでいた。
…いけないいけない、要らぬ心配はして欲しくない。


「なんでもありませんよ、…あの、三条のお二人に聞きたいのですが、


石切丸さんは、どのようなお方だか分かりますか?」


2人は大きく目を見開いた。




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