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  五虎退さんはぴっかぴか







部屋に着き、彼を寝かせるまではそう時間はかからなかった。私の布団に彼を寝かせ、虎さんたちもそれを囲うように眠っている。
眠りから覚めたこんのすけさんと小狐丸さんはお部屋にいて、神妙な顔付きをしていた。
分かっている。彼らがこんなに神妙な顔をしているのは、私が約束を破ったせいだ。



「主様、彼を、どこで…」

沈黙を破ったのは、こんのすけさんだった。

「どのような罰も受け入れます。許可なく手入れした事、約束違反だということも重々承知の上で手入れを行いました。
ですが、彼が目を冷めるまで、彼の側に居させて下さい。」

「……この粟田口派が短刀、五虎退殿は、行方不明になっていた刀剣だったのです。」

「……え?」

「政府も、刀帳に記載はございましたが本丸内、どこを探しても見つからなかった刀剣男子です。実の所、この本丸の前任者は検挙される前に自害しておりまして、他の刀剣男士たちも分からない、と。諦められ、もう折られていたとばかり思われていた彼を、一体…?」


こんのすけさんは俯きながら喋る。お顔の表情は見えないけど、きっと優しい彼のことだ、これから起こるいろいろなことを考えて、悩んでくれているんだろうな。

「私にも、わかりません。虎さんが厨にいらっしゃって、傷だらけの五虎退さんが後から私の目の前に現れたんです。その後一言二言会話をした後に、倒れられました。彼の状態は酷く、手入れは一刻も早く行うべき状況でした。

神様たちの許可を得ず、手入れをしたこと、反省はすれど後悔は一切ございません。」

でも、それはキッパリと断言できる。
彼をあのままにしておくくらいなら、代わりに斬られた方がよっぽどましだ。
すやすやと眠る彼の髪をさらり、と撫でる。こんなに綺麗だった。それを、あんな風に放置することなんて出来ない。


「ぬしさま。この小狐丸、ぬしさまと契約した以上、一連托生の身にございます。
同胞とあれど、ぬしさまを脅かす輩から、ぬしさまをお守りいたしますゆえ、御安心下さい。」

五虎退さんを撫でる反対側の手を握り、スリスリと頬を寄せる小狐丸さん。
…いつの間に、契約したのだろう。
でもわたしよりこの界隈にずっと詳しい小狐丸さんがそう言い、こんのすけさんがうんうんと頷くならばきっとそうなんだろう。

「でしたら、小狐丸さん。私の望みを聞いて頂けますか?」

きゅっ、と小狐丸さんの手を握る。
1人じゃきっと出来ない、私の目論見。
殺されてもおかしくない、そのリスクしかない。でも、でも。


「まず、この子のように折れかけの重症になっている方がいるか教えて下さい
お話できるようなら、五虎退さんの目が覚め次第、直接今からお話に参ります。
中傷や、軽傷の方は意思を尊重致しますが、重症の方は只今より、問答無用で手入れを致します。その方を運ぶお手伝いをして頂きたく思います。

こんのすけさん、資材と手伝い札は、買うことは出来ますか?」

「は、はい可能です!ですが、その、こちらは、出陣や遠征を促すために政府資金で降りない仕様となっておりまして…」

「私の審神者になった際に頂いた前金と、貯金。全て使って頂いて構いません。それで買えるだけの資材と、手伝い札を用意して下さい。
用意していただいている間、こんのすけさんに何かあってはいけないので、私の部屋に研修で習った結界を張っておきます。気休めですが、ないよりはマシでしょう」

「主様は、その間どうされるので?」

「その間に、皆さんとお話をして参ります。」

「せ、せめて、資材の準備が出来次第向かわれては如何でしょう!?資材の準備はたしかに、数刻ほどお時間がかかります。ですがそれを差し引いても危険すぎます!!」

焦ったようにひしっとわたしの膝に擦り寄るこんのすけさん。ありがたい事に、こんのすけさんや小狐丸さんからは信頼を得ることができているらしい。
モフモフのこんのすけさんを撫でる。昨日よりも、毛艶が良くなっている。良かった。


「こんのすけさん。
わたしは、重傷者の方への認識が甘かった。軽んじていたわけじゃないのに、甘くみていたんです。
昨日お二人に笑ってご飯を食べて頂いてとってもとっても嬉しかった。
この本丸のみなさんは、きっとたくさん辛い思いをされた事でしょう。
なので、これからその倍、更に倍、百倍幸せにならねばいけないのです。

その、お手伝いをさせて頂けるのなら、これ程わたしにとって、幸福なことはありません。」

ね?と、こんのすけさんと小狐丸さんを交互に見やる。泣きそうに歪められたこんのすけさんの表情。ああ、こんな顔をさせたいわけじゃないのに。ぐりぐりとおでこを膝に押し付けられる。ごめんね、の意味をこめてモフモフしておいた。

小狐丸さんはなぜか、ぽかんと呆気にとられた顔をしている。そして、少し間を空けてへにゃり。頬を染めて笑った。
何処からともなくヒラヒラと桜の花びらが舞い落ちる。…桜の木なんて、あったかな?


「ぬしさま。
私は、いえ、私たちは、ぬしさまをぬしさまと呼ぶことができる事、とても幸運だったと。心から思います。
皆にも是非、あの稲荷寿司とやらを作ってやって下さい。ぜひ、ぜひに。」


両手で私の手を包むように握った小狐丸さんの手はとてもあたたかい。
私が知っている彼は、ニコニコと美味しそうにおいなりさんを口いっぱいにほうばって、お風呂あがりに髪の毛をとかしてあげればすごく嬉しそうにする小狐丸さんだけだ。
以前、なにがあったのかなんて聞いてもいないし、知らない。
でも、あの笑顔が一番だ、というのはわかる。
言葉を返そうと口を開いた所で、横でもぞもぞと動くのが見えた。



「……あれ、ぼ、ぼく、…?」

遠慮がちに目を擦りながら起き上がった彼。赤く染まっていた瞳は、綺麗な金色に戻り、こびり付いていた血も取れ、ふわふわな髪の毛が小さく揺れる。
元気になった姿にまた少し涙腺が緩くなるけど、ぐっと堪えた。
小狐丸さんがそっと手を離して、近くに、と小声で囁く。
わたしは彼の隣に腰を下ろした。


「おはようございます。ご気分は如何でしょうか?覚えておいでですか?」

「審神者、さまですよ、ね。ぼく、たすけていただいたんでしょうか…?」

「助けた、なんて大層なことはしておりません。ここまで頑張って耐えてくれた、貴方の強さのお陰で、わたしはあなたを治療することが出来ました。
…本当に、ここまで、よく…!ありがとう、ありがとうございます…っ!」

「さ、さにわ、さま…?」


だめだだめだ。この子が一番泣きたいんだ。なぜわたしが泣く必要があるんだ。拳を握りしめて、歯を食いしばる。
爪が食い込み、掌が裂けるのが分かるけど、そんなの、この子の痛みに比べたら、

「……

……ぼく、ずっと、ずっと冷たい、暗い、真っ暗な場所にいました。
ある日、あるじさまによばれて、お、おこらせて、しまって、それから、と、とじこめ、られて、しまいました…」

ポツリポツリ、と彼は言葉を紡ぐ。思い出したくない記憶を、教えてくれようとしている。
審神者として、この本丸でなにがあったのか。わたしにはきちんと聞いて、理解する義務がある。そして、二度とそんなことが起きないようにこの本丸を守る責任がある。


「虎さんも見えなくて、こわくて、かなしくて。痛くて痛くてしかたがなくって。

いちにいや、きょうだいもいなくて、いつからかどこにいるのかもわからなくなって、ぼくは、なんで、このせかいにうまれたんだろうと。
でも今日、どこからか優しい気持ちが流れてきたんです。ふわふわしていて…すごく、すごく気持ちの良い、暖かいひかりみたいなものが。それで目が覚めて、

…さにわさま、きっと、あ、あなたです。あなたが、ぼくを助けてくれました。


いま、ぼくの中はあったかい優しい霊気で満ちています。それが、すごく幸せです。冷たいあの気持ちから、ようやく抜け出すことが出来たんです。

……僕は、五虎退です。あの……しりぞけてないです。すみません。だって、虎がかわいそうなんで。
あ、るじさまと、よんでも、いいですかぁ…っ?」

大きな、それでいてとても綺麗な金色の眼からボロボロと涙を零しながら、五虎退さんはわたしに向き合った。
なんて、神様とは強くて綺麗なんだろうか。
虐げられ、邪険にされて尚、わたし達人間を許し、これから幸せになろうとしている。
わたしは、ぐいっと自分の眼をぬぐって五虎退さんの前で土下座の形で礼をした。


「昨日より、この本丸に参りました。新米の審神者にございます。
此度の人間による悪行、決して許されるものではございません。前任に代わりまして、わたしが謝罪をさせて頂きます。
申し訳、ございませんでした。
引き継がせて頂いたからには、これからはそのようなことが起きないよう、わたしが誠心誠意お勤め致します。より一層、気を引き締めて参ります。

…五虎退さん、私のことは、どうぞお好きにお呼び下さい。
どうぞ、これからよろしくお願い致します。」

「…あ、あ、あるじさまぁぁあ…っ!!」

顔を上げれば、泣きながらタックルかのように私の胸に飛び込んできた五虎退さん。ぎゅうっと抱きしめ返す。虎さんたちも私たちに身を寄せて、鳴いていた。
またもハラハラと桜の花びらが舞い落ちていた。布団の周りは何故か大量の桜で一杯になった。


____________





「さて、こんのすけさん、五虎退さん。小狐丸さん。わたしは今から皆さんの説得に行って参りますが、何かあってもいけないのでお三方の願いを先に聞いて起きたいと思います。
いま、一番して欲しいことはなんでしょうか?」

今の所、埋まっているのは三日月宗近さんの煎茶だけなノートを片手に、危険な場所に行く前に聞けたらと書く準備をする。
昨日のうちに2人には聞いておけば良かったのだが、掃除で1日が終わってしまったので聞くことが出来なかったのだ。


「このこんのすけ、我儘を言えるのであれば主さまのお作りになられるあぶらげ料理をたまに食べとうございます!」

はい!と手を挙げ涎を出すこんのすけさん。毎日、じゃないところに彼の謙虚さを感じる。

「…そうですね、ぬしさまに髪を撫でてもらうのがとても心地よかった。わたしは、当分風呂上がりに髪の手入れをして欲しいです」

昨日、確かにすごく気持ちよさそうだった。わたしの櫛で簡易的に行なったので、ロング用のブラシを買おう。

「ぼ、ぼくは、その、たまにぎゅうってしてもらえれば…っ!
あと、兄弟といちにいを、直してあげて欲しいです。」

…五虎退さんにはこれから沢山色々なことを経験してもらおう。その後に聞いた方が良さそうだ。取り急ぎぎゅうっと抱き締めておいた。
パタン、とノートを閉じる。4人。神様達の願いを1つずつ叶える為にも、まずは重傷者の手入れを早急に行わなければならない。

わたしは意を決して、立ち上がった。









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