#formInput_#

#formStart#




  お手入れさせていただきます



あれから、小狐丸さんはどこに行くにも付いてくるようになった。
小狐丸さんにも手伝ってもらってお風呂掃除とトイレ掃除を済ませ、なんとか本丸の水回りを綺麗にした後に、夜ご飯のきつねうどんをこんのすけさんと小狐丸さんとまたも一緒に食べ、お風呂上がりには小狐丸さんの長い御髪を解いて差し上げて、夜は荷物で溢れた審神者室になんとかお布団を敷いてこんのすけさんと共に眠った。
もう肌寒い本丸で、こんのすけさんはとてもいい湯たんぽになって下さった。

AM:4:30。バイブ機能にしておいたアラームで目を冷ます。ふぁ、と欠伸をして部屋を出れば、夜に別れた筈の小狐丸さんが部屋の前で胡座をかいて座りながら眠っていたので、気付かなかった事に申し訳なさを感じながら毛布をかけた。

本丸に就任して2日目。昨日の曇り空とは打って変わって、朝焼けの綺麗な空が広がっている。
きっと今日は晴天になる。これなら水を撒いても、すぐに乾く。

髪をとかしたり顔を洗ったりといった身支度を終えて審神者服に着替え、厨へ到着した後に割烹着と三角巾をまた装着する。

今日は早めのご飯の用意だ。
とりあえず廊下と壁と、玄関とお庭の清掃を終わらせてしまいたい。
朝早かったせいか、こんのすけさんはまだお布団ですやすやと眠っているので、起きたらこちらへきていただけるようメモは置いてきた。
小狐丸さんも、起きたらきっと食べるかな?
また美味しいって言ってもらえるといいなぁ、なんて妄想しながら、多めにお味噌汁とおにぎりを作っていく。付け合わせはまたもや昨日の残りのお漬物。
…うーん、少し、質素すぎる気もする。
昨日ある程度食材を追加で注文して、卵も追加注文したから、厚焼き卵でも作ろうか。あと焼き鮭を焼こう。これでボリュームのある朝食になるだろう。


「………」
「がう」
「くぅーん…」

きゅう
そして今現在。朝ご飯の準備を進めていると、小さくお腹のなる音が聞こえた。

足元に違和感を感じて、下を見れば小さな真っ白い子供の虎。ひー、ふー、みー…なんと5匹もわらわらとわたしの足に擦り寄っている。

「……あら、こんにちは。おはようございます。お腹、空いていますか?」


突然の来訪者に驚きながら、虎さんに人間の言葉が通じるのかは謎だけど、しゃがみ込んで頭を撫でれば再度がう、と虎さんは鳴いた。
…この本丸は動物セラピー的要素がとても強い。こんのすけさんといい、この虎さんといい。ついつい頬が緩んでしまう。
でもなんだかこの虎さんも、ちょっと煤けている。汚れを払いおとすように丁寧に撫でれば、虎さんは気持ちよさそうに目を細めた。


「はじめまして、わたしは審神者です。虎さんの食べれそうなもの…あ、ささみとご飯があるので、ねこまんまならぬ虎まんまを作って見ましょうか。ちょっとだけ待てますか?」
「がうー?」

やはり動物性タンパク質が欲しくて、昨日通販で買った鳥のささみ。
実家でうちの猫も美味しそうに食べていたから、きっとそれなら虎さんも食べられるだろう。
レンジで5分ほどチンしたささみをほぐして、冷ましたら鰹節とご飯に混ぜる。これだけの簡単レシピだけど、意外にこれが猫達には大好評だったのだ。


「はい、召し上がれ」


5つのお皿に分けて、虎さん達にあげたらどうやらこの子達のお口にもあったようだ。心なしかキラキラとした目で見つめたあと、がつがつと勢いよく食べている。

ご飯中に撫でるだなんていけないとは分かりつつ、ついつい手が出てしまう。
…これが審神者の力とやらなのか、撫でれば撫でるほど、虎さん達が真っ白になっていく気がした。よほどお腹が空いて居たんだろう、彼等は撫でられているのなんて意に介さず、ご飯に夢中になっている。
それにしても、この子達はどこからやってきたんだろう??飼い主が刀剣男子の方だったとしたら、心配していないだろうか。


「………とらくん?とらくん、いるんですか??」

「……っ!!」


虎さんたちが食べ終わり、満足気にゴロゴロと喉を鳴らしていた時。

突如、現れたのはボロボロの小さな男の子。

彼の状態は、ヒュッと心が萎むほど酷い状態だった。

片腕がまずないのだ。千切れてしまっているのか、白い骨が見えてしまっている。そして片目も、きっとない。ポタポタと流れる血に、本来なら動くことすらも出来ないんじゃないかと予想する。髪の毛も血だらけで、衣服は所々破れていて、ボロボロだった。

ぼんやりと正気の無い真っ暗な目。ほぼ見えてないのか、壁伝いにズルズルと身体を引きずって歩く様は、ブラック本丸の刀剣男子たちは怪我をしていると聞いていた、わたしの想像以上だ。
昨日、大広間に彼は居たのだろうか??
いや、ざっと見渡した限り、彼は居なかった。なぜ?動けなかったから??


「なん、ですか、それ、」


目から何故か涙がぼろっと零れ落ちるのが分かる。わたしが泣くだなんてちゃんちゃらおかしな事なのは分かってる。この子が一番辛いのも分かってる。
でも、
酷い、酷い。これは、酷い。
なぜ、こんな子を放置できるのだろうか。
なぜ、手当てをしてあげないんだろうか。
なぜ、なぜ、なぜ。そんな思いばかりが頭をぐるぐると支配する。
虎さんたちは彼に駆け寄る。それと同時に、私も彼に駆け寄った。




「…あの、お、お願いです、お願いです。
どうか、わたしにあなたを治させて下さい。治ったら、約束を無碍にしたと斬り殺していただいても構いません。どうか、どうか…っ」

「…あ、なた、は…?」

「ああっ、ごめんなさい、そうですよね、わたしは、昨日からこの本丸に来ました。新しい、審神者です。」

「さに、わ、さま…ああ…だから、こんなに、空気がきれいで、暖かい、のですね…。


ごめんなさい、ぼ、ぼく、あまり、目がみえないんです…あたまも、ぼーっとしていて…あの、とらくんを、見ませんでしたか…?おきたら、いなくて、」


駆け寄り、立つのもフラフラな彼を支える。そうか、彼が虎さんたちの飼い主か。
きっと心配で、探しにきたんだろう。虎さんたちは心配かけてごめんね、と言わんばかりに彼に擦り寄る。彼もそれに気がついたのか、虎さんを撫でて確認した後、ふにゃっとした柔らかい表情を浮かべた。


「さにわさま、とらくんを、きれいにしてくれて、ありがとうございます。出来たら、いちにいや、きょうだいも、なおして…」


虎さんたちが見つかってホッとしたのか、限界だったのか。恐らく両者の理由で、気を失うように倒れた彼を抱きかかえた。
とんでもなく軽い、小さな身体。血は尚流れていて、これで折れていないのが不思議なくらいだ。

虎さんたちは心配そうに足元をウロウロしている。ついてきてください、と目線で訴えれば、賢い虎さんたちはわたしを先導するように走り始めた。
あまり衝撃を与えないように、そっと、それでも早く小走りで虎さんたちの後をついて行く。

彼等が走っている方向は、昨日案内してもらった手入れ部屋だ。


はやくはやくはやくはやくはやく。

治してあげないと、直してあげないと、痛いのは辛い。怖いのは悲しい。そんな気持ち、お願いだから感じないで欲しい。


手入れ部屋に入る。
厨と同じく、あまり使われていないそこは、煤けてはいるが他の部屋よりかはまだマシだ。
こんな事なら手入れ部屋を最優先で掃除すれば良かった。
正直、こんなに酷いと、思ってなかったのだ。自分の認識の甘さに反吐がでる。ごめんね、ごめんねとボロボロ出る涙を拭いながら、震える手で彼をそっと布団に寝かし、資材と手伝い札を用意する。


研修で習っただけの知識だ。それでも、失敗することは許されない。
彼の本体に、打ち粉をポンポンと優しく叩いていく。


痛いのが飛んでいきますよう、元気になりますよう。そんな思いを込めながら。


どれだけ辛かったことだろう。
どれだけ怖かった事だろう。
もう大丈夫、もう、大丈夫。


彼から、どんどんと血の気が戻っていく。
服も、腕も、目も。綺麗になっていく姿にホッとする。
手伝い札のお陰だろうか。早急に手当ては終わったが、彼は目を覚まさないままだった。
ここには綺麗なお布団がない。それに、ここを早急に掃除しなければ。わたしは穏やかな顔で眠る彼をまた抱き上げ、審神者室に向かった。














prev next

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -