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  きつねさんのおもいです






つい先日、ぬしさまと呼んでいた前任の審神者が、ブラック本丸認定を受け政府に捕まり、あの地獄の様な日々が呆気なく終わりを告げた。
我が本丸での三条の刀剣男士は、基本的に夜伽を命じられる確率が多く、粟田口や来派のようにとても痛い思いをせずには済んでいたが、たかが人間如きに身体を暴かれるのなら、出陣してこの身が朽ちるまで闘いたいと、何度願った事か分からない。

もう、刀解されたい、と皆が皆願っていた。
それ程までに劣悪な環境だった。

政府の者たちは、本丸をある程度浄化し、前任の物品を処分したあと、我らの手入れをさせてくれ、と申し出て来たが、手酷く扱われていた鶴丸国永や弟たちを何回もその手で折らされた一期一振、前任の近侍であった加州清光は頑なに拒み、怒り、憎しみ、その身か穢れを放出した。

浄化しきれない、殺される、と悟った政府はその日のうちに帰っていったが、音沙汰がないと思ったら、数日後、新しい審神者がやってきます。と、どこかに閉じ込められていたらしいこんのすけは俯き気味にか細い声で私達に告げた。

またひどい審神者だったら?
抗う術はないのか。

皆で話し合った結果、もし、その審神者が酷い者であったのなら、俺が殺そう。と言い出したのは三日月殿だった。
これ以上、加州や鶴丸、一期が穢れるわけにはいかないだろう?と。そう笑った三日月殿は、どこか寂しそうだった。



就任当日。
その審神者が入って来た瞬間に、淀んでいた本丸が爽やかな風に包まれた。
大広間で待機していた我々は驚き、その審神者の足音が聞こえるたびにその方向を向く。
浄化しきれていなかった本丸が、その審神者が歩くだけで、どんどんと浄化されていくのだ。息をするのも苦しいこの本丸で、なにも気にせずに息を出来たのは久方ぶりだった。


「本日より、この本丸に配属致しました審神者にございます。一ヶ月前、審神者の適性があると診断された、ひよっこもひよっこ、卵と言っていただいても構いません。そのような者が審神者として配属されること、皆さまお怒りかとは思いますが、どうかご挨拶をさせては頂けないでしょうか?」


障子の前に、審神者がいる。影だけで顔はわからない。だが、なんて、なんて清浄な霊気だろうか。
今まで人を憎んだ事など一度もないような、優しい、それでいて暖かい霊気。
頭を下げ、障子を開けない審神者に、どうしていいか分からず、皆固唾を飲んで見守る中、動いたのは三日月殿だった。


一言二言会話をした後に、三日月殿がした質問は、前任の審神者が行った所業の一部だ。それでも一部でしかないのだが、それに関連する望みを少しでも言えば、三日月殿は抜刀して審神者を切るつもりだったんだろう。


「………んーーーー。個人面談させてください。」

刀に手をかけていた三日月に対する審神者の回答は、呆気をとるには十分すぎた。

願いを叶えたい?我らの?それはお前にとってなんの得がある??

そう問い質したくなるような答えに、三日月殿の口角が上がったのがわかった。
そこからはもう早く、ツカツカと障子の前に行き、結界を張っていた障子の結界を破り審神者と契約すら交わした。


障子を開けて見る審神者の容姿は平凡、化粧っ気のないその顔立ちは、前任と違うんだ、と、どこか安心できた。巫女服に長い黒髪をゆるく結び、フワフワと笑うその表情には毒気さえ抜かれる。

あれに触れれば、どれほどのこの体の中の穢れが祓われる事だろうか。羨ましい。とさえ思うほどに、遠くからでもわかるその審神者の霊力は心地いいものだった。


ああ、触りたい
ああ、笑いかけてほしい


審神者が去った後も、話し合いをしている最中も、お開きになった後も。それしか考えられなくなったのは刀としての本能なのか、主人を書き換えられた事からくる忠誠心なのか。悶々としたその気持ちに頭を抱えている時。

とんでもなく芳しい香りが鼻孔を掠めた。



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「いかがでしょう?お口に合いますか?」

お茶を啜りながら、一口食べたあとに凄い勢いで無言で食べる2人(正確には一人と一匹)に、不安な思いを抱きながらおずおずと聞く。
2人にわたしの声が届いたのか、ピタッと止まり、首が取れるんじゃないかという勢いで私の方を向いた。

「このように美味しいものこんのすけめ食べた事がございません!!感動!感動のひとことでございます!出来うる事なら永遠にこの時が続けば良いと!そう思う次第です!!」

「…申し遅れておりました。
相槌を打ったのが狐故、小狐丸と申します。
神々への感謝ゆえ、小鍛冶と称し、相槌を打った狐も小狐です。けして、図体が小ではありません
本日よりあなた様をぬしさま、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

こんのすけさんは案の定涙目で、次いで、お名前を教えて下さった小狐丸さんは、ほっぺたにお米粒を付けたまま、キリッと私の手を握った。
カッコいいんだろうけど、ちょっとだけ格好良くないので、ほっぺたについたお米をとってぱくりと食べる。
うん、これで男前だ。

「小狐丸さんがお嫌でなければ、お好きなようにお呼び下さい。おかわりをお作りいたしますか?お揚げさん、まだありますけど」

きょとん、とする小狐丸さん。直ぐにパァ、っと花が咲くように笑った。こんのすけさんもいかがですか?と聞けば、とても嬉しそうに。

「「お願いいたします!!!!」」


我が本丸のおあげ消費量は、これからとんでもなく多くなりそうな気がする。




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