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  朝ごはんと可愛い子








紫陽花が咲き、ざあざあと本丸に雨が降る。


季節は梅雨。夏の前に大地を洗うその姿は決して嫌いじゃないけれど、どうにも洗濯物が乾かないのが難点である。
足を踏み入れた厨は、雨のせいで素足ではひんやりと冷たく、石が濡れて湿った匂いで充満していた。


お陰様で首もだいぶ良くなり、薄らと痣は残るものの、動いても支障のない程度には回復した。

割烹着を身につける。
ずっと寝ていたのだ。久し振りの厨に立てる事に喜びを感じる。

今日の朝ごはんはなににしよう。
最近和食と洋食を交互にしているから、今日はちょっと趣向を変えて中華粥なんてどうだろうか。

鶏胸肉を細く切って、塩を振る。しょうがと青ネギをとんとんと細かくみじん切りにして、大きなお鍋にお水を入れて沸騰させた。
ふつふつと湧いたお鍋のお水に、昨日炊いておいたご飯を入れて、好きな固さまで煮る。
私は少し粒の残ってある方が好きなので、煮る時間は少し短めだ。
鶏肉と生姜を入れたら火が通るまで煮て、顆粒の中華出汁と薄口醤油を入れたら完成である。

これもまたズボラな朝ごはんではあるが馬鹿にしてはいけない。胃袋から足の爪先まで温まるようなこのレシピは、昔、わたしの祖母が教えてくれたものだ。
朝が今よりも苦手で、朝ご飯なんて食べられなかったわたしに作ってくれたこのお粥は、そんなわたしでもさらさら食べることができた。
…今となっては、朝ご飯をもりもり食べる人間となったわけなんですけど。


ネギの端っこと鶏胸肉の皮をごま油で焼いて、大量のお水を入れて中華出汁を入れただけのスープもまた美味しい。シンプルイズザベストである。


そんなこんなでとんとんと朝ご飯の準備をしていれば、ぽふ、と、腰に柔らかい衝撃が走った。


「おはよぉ、ございます。あるじさま。」

「あら、秋田さん。おはようございます。お早いですね?」
「んー…トイレに起きたら、良い匂いがしたので、もう起きて平気なんですか?」


ぽやぽやと寝ぼけ眼を擦ってわたしの腰に抱きつく秋田さんは破壊的に可愛かった。
そりゃあもう破壊的に。っっぎゅうん、と胸が締め付けられるが、顔に出してはただの変質者なので、手を拭いて秋田さんの頭を撫でる。
ピンクの髪はもふもふとしていて、寝起きで体温が高いせいか手のひらに温かな体温を感じる。


「ふふ、もう大丈夫です、ご心配をおかけしました。
まだ早いので、朝ご飯が出来るまであと少し眠っていても平気ですよ?」

そう言えば、寝ぼけている秋田さんはまだぽやぽやとしていて、私を見上げてへにゃりと笑った。
その姿にもまたぎゅぎゅんと母性本能が刺激される。…可愛すぎやしないでしょうか??


「…ここで、ちょっとぼーっとしてちゃ、だめですか?」

いいともーーー!!
内なる私がそう叫ぶ。このネタが分かる人が果たしているのであろうか。それでも理性を保ち、私はにっこりと笑った。そりゃあもう満面の笑みである。朝であるとか関係ない。可愛くて仕方のないこの子に、見合う表情が出てしまっただけだ。

「もちろん!
ならお座布団とブランケットがそこにあるので、お使い下さいね。ホットミルクでも飲みます?」
「あの…はちみつ…」
「ありますよ、秋田さんは甘いものがお好きですから、少し多めに入れましょうねえ」
「えへへ、わーい」


まだ頭が覚醒しきっていない秋田さんは、ぐりぐりとわたしの腰に頭を擦り付けたり、離れる様子はない。私的にはすごくそれが可愛いので、秋田さんを腰に装備したまま小さな鍋に牛乳を入れて火にかける。

…もしかしたら、少し寂しい思いをさせてしまっていたのかもしれない。最近忙しなく色んなことが起きていたから、こういった皆さんとのんびりする時間が少なかった気もする。

温まった蜂蜜入りホットミルクを渡せば、とても可愛らしい朝ごはん製作監視員さんは厨の簡易スペースに座りながら、わたしの朝ごはん作りを眺めた。



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「胃に…しみるっ…!」

「あは、そんな大袈裟な…」


がやがや。

この広間も段々と人が多くなってきた。皆さん7時になればぞろぞろと寝室から身支度を済ませて広間に集まる。

私が広間でご飯の準備をしていれば、喜ぶ人もいたり心配する人もいたり、その反応は三者三様だ。笑いながら大丈夫ですよ、と伝えると、皆さん大抵引き下がってご飯を運ぶのを手伝ってくれた。有難い。
お茶碗には契約した方から名前を書いていて、もちろん最近契約したばかりの次郎太刀さんと太郎太刀さんも、真新しい座布団に腰掛けて、名前入りのお茶碗を持ち、一緒にいただきますをする。

一口汁物を飲んだ次郎さんは、突如噛みしめるように感想を口にした。漫画のような涙を浮かべ、よよよよ、と。
その姿がなんだか本当に大袈裟で、少し面白い。


「いやほんと…朝から食事を取るって、すごい幸せだね…ねえ!?兄貴!?」
「食事はとても美味しいですよ、主。次郎、少し静かに食べたらどうですか?」
「だって!!美味しいよ!?こんなに!!」
「知ってます。食べてます。」
「なんでそんな鉄仮面なのさぁ!ちゃんと味わってる!?」
「言われなくとも味わっておりますので、少し落ち着きなさい」


「はっはっは、次郎太刀は感動しぃだなあ、それはそうと主や?この間の韃靼蕎麦茶はあるか?」
「はいはい、あったかいのでいいですか?因みに久しぶりにジャスミン茶を買いましたが、そちらはとても中華のお味に合いますよ」
「ではそれで宜しく頼む。主の薦める茶は外れがない。信用しているぞ」

「あーーーーるじーーー!!おれ!おかわり!!」
「あらお早い。いっぱい食べてくださいね、愛染さん。」
「主!こっちもだ!」
「…もうこの際、岩融さん用の丼でも買いましょうかねえ。」



いろんな方がそれぞれ幸せそうにご飯を食べている。その光景がなんだかとっても幸せで幸せで。私はほっこりとした気持ちを抱えながら朝ごはんを頂くことができた。

平和。そのひと時は、まだ仮初でしかないけれど、早くこの本丸の皆さん全員で食事を囲みたいなあ、と思うのだ。

その為には、私は休んでいる暇なんてない。
次に向けてまた進まなければ。






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