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  ふたつのきんいろ




とても重苦しい雰囲気に、私は苦笑いをしていた。

布団のあった私の部屋にはリクライニングの出来るベッドが設置され、その横には、加州さん、長谷部さん、一期さんの心配性お三方が揃い踏みだった。

所謂吉川線が残り、鬱血してしまった私の首は骨には幸い異常がなかったものの、少しの間大事をとって固定し、安静にするように、とお医者様に診断を受けた。
担当さんの計らいでこういったベッドを頂き、書類仕事であればベットの上でできるように簡易的な机まで用意してもらった。ありがたい。

それはいいのだが、問題はこの横の3人である。私はとにかく困っていた。笑うしか出来ない。



「主、俺達をちゃんと頼ることにしたんじゃなかったっけ?」

その綺麗なお顔の眉間を皺寄せて、あからさまに怒っている加州さんは、腕を組みながら指をトントンと叩き仁王立ちでわたしを見下ろした。背後に怒り狂った黒猫が見えるのは私だけだろうか。キシャーとあからさまに怒っているその黒猫はまるで加州さんの心を表現しているかのようで、
…怒られるとは思っていたけど、まさかここまでとは。


「え、えーと、事態は急を要しまして、夜の事でしたし、皆さん寝ていらっしゃるのを起こすのは忍びないかなあ、なんて思ったり…」

「ほう、主殿は私達が主殿の為に起きるのを拒否すると?他ならぬ?主の危険を差し置いてまで惰眠を貪るとでも?」

にっこり。同じく仁王立ちの一期さんは穏やかな口調ながらも言葉尻に圧を感じる物言いで、わたしはたらりと冷や汗を流した。

「この様なお怪我を主がされているのにも関わらず眠っていた自分が情けない…っ!主!どうぞ!!どうぞ俺をどのようにでもして下さい…っ!!」


だば、神妙な顔つきから一転、漫画のように顔を覆い男泣きを披露するのは長谷部さんだ。勢いよく腰に抱きつかれ、少し驚く。…うん、それはちょっと面白くなってしまっていますよ?お説教が水の泡になってしまいますよ?
…そんなツッコミをしたら一生この部屋から出してもらえそうにないので、口をつぐむ。


「みなさん、ご心配をお掛けしてしまいましたね。もう今後はこういったことのないよう注意致します。

…ごめんなさい。」

「っ!…はー、俺達が主に謝られて、許さないわけないって分かってるでしょ」

「ふふ、少しだけ」

「主殿は当分の間、家事をしてはなりません。兎に角養生して下さい。一に安静二に安静。宜しいですかな?」

「はい、早く良くなって家事が出来るようになりますね

…あの、太郎さんの様子は、如何ですか?」


だばだばと涙を流す長谷部さんの頭を撫でながら、お怒りなお二人に謝れば、深い深い溜息と共に呆れた様子で許しを得ることが出来た。

そう。わたしは太郎太刀さんと、あれから会っていない。どうにも首が熱くて、呼吸もままならなかったので、あれから次郎さんに抱えられて、こんのすけさんの誘導の元、時の政府の運営している大きな病院へと連れて行って貰ったのだ。
呼吸がままならなかったのは、どうやら部屋の中に長くいたことで部屋の中の穢れと、図らずもがな太郎太刀さんに触れたことで太郎太刀さんの穢れまで一遍に払った為、霊力を使い過ぎてしまっていたらしい。
首の処置は直ぐに終わったが、それから霊力補給の為に兎に角眠りまくってしまった。でもこんのすけさんのお守りのおかげで、その時間もかなり短くて済んだので、今度こんのすけさんにはお揚げ丼を作って差し上げなければならない。

そんなこんなあり。
結局あれからどうなったのか、全く私は知らない。

…また、声を閉ざしてしまわないといいのだけど。


「あー、それは大丈夫。」
「そろそろ来る頃合ではないでしょうか?」


加州さんと一期さんは目を合わせて、私に笑いかけた。
ーードタドタドタドタスッパァン!!!
廊下から大きな足音が聞こえたと思えば、襖が勢い良く開く。汗をかき、私を一点に見つめる彼、…彼女?は、ニッとその白い歯を見せて笑った。


「おっはよぉ〜!審神者さん!やっと面会許可が下りたよ!ほんっっっとぉーーーに!ありがとう!」

桜がハラハラと舞い落ちる。そりゃあもう沢山の桜の花弁が部屋の中に散らばる様は見ていてとても綺麗だった。
次郎太刀さんはずりずりとベットまで歩みを進める。…ずりずり?


「次郎太刀…太郎太刀が目を回してるよ。どーせ面会って聞いて引きずってきたんでしょ」
「…あっ、兄貴ごめん!大丈夫?」
「…大丈夫、です」

随分と顔色の良い太郎太刀さんは、首根っこを掴まれここまで次郎太刀さんに引き摺られてきたようだった。ぱちくり。少し驚くが、ちゃんと喋っている姿にほっとする。

太郎太刀さんは次郎太刀さんに離してもらった後、私を見て、すぐ様深く深く頭を下げた。


「この度は、穢れを浄化して頂き有難う御座いました。左文字には謝罪をし、今後の私の対応で許す許さないを決めるとの事で話し合いを行いました。
我が弟とも、話を致しました。これから、私達はこの本丸で、貴女に仕え、貴女の為に刀を振るっていきたいと総意が合致致しました。その事をどうか許して頂きたい。
そのような怪我をさせて、何を戯言を、と思われても仕方ありません。

…ですが、どうか私に最初で最後の機会を頂けないでしょうか。」

「審神者さん、全てを任せてしまって…本当に申し訳ないと思ってる。
これからアタシ達は審神者さんに仕えたいんだ。他の誰でもない、アンタに仕えたい。どうか契約を受け入れてはくれないだろうか」


お願いだよ、
次郎太刀さんも、太郎太刀さんに習って深く頭を下げる。私は決して動けないわけではない。ベッドから下りて、彼等の目の前に座った。肩に手を当て、ぐい、と顔を上げていただく。
…もう、皆さんお分かりではないだろうか。
私がこれを拒否するわけがないことを。


「この本丸は、元々貴方達のお家なんですよ。私は後から来た者です。貴方達が受け入れてくれるかくれないか、それだけです。

これからどうぞよろしくお願い致します。
でも、刀を振るうのは少し先に致しましょう。先ずは、普通の生活を取り戻しましょう。
ゆっくりして、美味しいものを食べて、疲れを癒したら、またお仕事をお願いします」



ぶわり。
ちらほらと散らばっていた桜はまるで桜吹雪のように部屋中に広がる。
桜の中で輝く2つの金色は、頬を染め、泣きそうに笑った。



「…おや。現世に呼ばれるとは。私は太郎太刀。人に使えるはずのない実戦刀です」

「…こんにちは!綺麗な次郎で〜す!……なんだ〜、ノリ悪いなぁ。ま、今後ともよ〜ろしくぅ!」





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