#formInput_#

#formStart#




  ばーさす太郎太刀 その6












たとえば、もし、私がこの本丸に顕現せずいたら、多くの悲しみは生まれなかったのだろう。
あの資材が一でも違えば、私はここには来なかった。全ては偶然が重なって起こった現象に過ぎないが、私はそれでもこの本丸に顕現した。

私の行った行為で、沢山の涙を見た。沢山の叫びを聞いた。


もう、心から逃げてしまいたかった。千切れそうだった。裂けて裂けて、もう跡形も無い位に。目を塞ぎ、耳を塞ぎ、口を閉ざして、何もなかった事にした行為を愚かだと、貴方はそう笑うだろうか。
この本丸に存在していることで負が生まれるのであれば、私は存在してはいけないと。そう思っていたからこそ、私は願った。



私より遥かに小さく、私を唯一本霊に還せるこの審神者は、それを許さなかった。
何故この審神者は泣くのだろう。何故この審神者は怒るのだろう。

私の代わりなんて、幾らでもこれから顕現すれば良い。それが出来るのが審神者なのだから。
私に固執する必要は無い。左文字達も然りそうだ。また私と同じ太郎太刀がこの本丸に来たとしても、視界にすら入れたく無いようならば直ぐ様、刀解して仕舞えば話は早いはずなのだ。

審神者の言葉のひとつひとつは、私を突き刺すものばかりで、何故、どうして、が頭を巡る。


ああ、貴方はまた、私に同じ事をさせようと、


何故かそう思った。

ならば。此方から先に対処すれば良い。審神者の首に手を掛けた。細い細い女の首は柔らかく、ぽきりと折れてしまいそうなほど弱かった。
笑った。あの前任者を、漸くこの手で始末出来ると思った。





_____________





「ねえ、兄貴。

兄貴が審神者さんを殺してしまったら、今度はアタシが兄貴を憎まなきゃいけなくなる。審神者さんが兄貴を刀解しても同じだよ、アタシは審神者さんを絶対に憎むし、許せないと思う

…ねえ、もうさあ!やめない!?もう、充分だろう?充分悲しんだし、反省もしただろう!?

もうやめようよ、兄貴。お願いだ、お願いだから、」



次郎太刀は泣いた。

ボロボロと、心配かけまいと小さく咳き込む審神者をしっかりと抱き寄せて、子供のように。

次郎太刀は顕現されてからというもの、太郎太刀の声は一言も聞いたことがなかった。
何故だろうかと聞いても兄は困ったように笑うだけで、何故兄がこの様な状況になってるのかすら、本丸に来て数ヶ月、前任者に説明されるまで知らなかった。

この本丸が普通とは違うことは少し生活をすればすぐに分かったが、レアな大太刀である為かめったに手入れはされないまでも重傷を放置される事はなかった。
その、たまの手入れの日。自分が数振り目の次郎太刀であること、太郎太刀がしてきたこと、左文字のこと。全て話し終わった後に、前任者はいびつに笑って、


【太郎なりの反省なのだろう、はは、滑稽だなあ、そう思わないか?】



殺してやろうと思った。


つい拳を握り締めて、振り上げた。
それも近侍によって止められ、そのことが原因で次郎太刀は長いこと納屋に幽閉されることになるのだが、その間太郎太刀は足繁く納屋に通って、何もしないまでも側にいてくれた。

兄は変わっていない、優しい兄のままなのだとその時に確信した次郎太刀はずっと待っていた。兄を守らなければ、大切な存在を。そう思いながら、隣に居た。


この本丸を、太郎太刀を解放してくれる人が来るその時が来るまでは、と。

その日は呆気なく訪れる。

三日月、小狐丸、五虎退に次いで、一気に粟田口や来派、今剣や岩融、左文字を一気に懐柔し、今では長谷部や加州、和泉守までも審神者に信頼を寄せていた。

次郎太刀は考えた。
早く、早くと焦り、本当は一番最初の手入れの時に名乗りを上げたかったのだが、前任のせいか審神者に対しての不信感が拭えなかった。そのせいで少し遅れてしまったが、和泉守と話す前、少しの時間だがこの審神者は信頼に足る人物だと確証を得た

たかが1人の刀剣男士の為にここまで考え、尽くせる審神者であれば、兄を放って置くわけがない。この審神者は、良くも悪くも酷いお人好しだと思ったのだ。


案の定、審神者は次に話す相手を兄に決めたようだった。
そして、今。兄を任せた結果、危険な目に合わせてしまった。目は泣いたせいで赤く、首も跡が付いて息をするのもやっとな状況にしてしまった。

審神者に頼んだ事に後悔はない。ないけれど、


「審神者さんを、ちゃんと主と呼びたいんだ、
きちんと契約して、これからは普通にここで、歩いていきたい。

でもそれは、アタシだけじゃ意味無いんだよ兄貴。兄貴と一緒じゃなきゃ駄目なんだ」


守っていきたい存在を傷付けられた、その傷付けた相手が兄である事に、沢山のものが込み上げていった。涙は止まらない。次郎太刀は初めての感情に、希望に、これからに。戸惑って、それでも縋りたいと思っていた。



そんな弟を見て、自分を叱り、許す左文字達を見て、太郎太刀は立ち尽くす。その涙はもう、乾いていた。








prev next

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -