#formInput_#

#formStart#




  ばーさす太郎太刀 その4







どうしたって許せないものがある

わたしにだってあるのだから、彼等は沢山の許せないものに囲まれて、それを許すしかないから許して今もここにいる。
太郎太刀さんは誰かにきっと、許して欲しいのだろうと思う。ただ、自分がやった罪を償いたいのだと思う。ただ、やり方がわからないだけだ。
それで一番安易でいて、一番の楽な道へとたどり着いただけである。

だってそうでしょ?
もし、わたしが太郎太刀さんと同じ状況だとしたら、わたしだってそうしたいに決まってる。

何かから許されるという行為は、本来であればとんでもなく大変で、気の遠くなるような長い時間がかかるのだ。

よく、信頼を得るのは難しいが信頼を捨てるのは簡単だ。なんて言ったりするけど、本当にその通りで、その捨ててしまったもの、捨てさせられたものの後始末を自分でするなんてしたくもないし、考えたくもない。

だって自分がやりたくてやったんじゃない。自分で選んでそうなったんじゃない。
もし、自分の意思でやったんだとしたら喜んで償えた事だろう。でもそうじゃないんだ。

前任者がいかに可哀想で、いかに愚かだったとしても、わたしはやはり彼を許すことは出来ないと思う。たとえ、彼が本当に許しを請うたとしても。
宗三さんも、もしかしたら、同じ気持ちなのかもしれない。でも。前任の彼と太郎さんの違うところは、やりたくてやったか、と、やらざるを得なかった。の違いだ。
これは些細で居て本当に大きな違い。

だからこそ私は彼の口から言葉を発して欲しい。
きちんとした場で、左文字の皆さんとお話をして欲しい。


私の中でたくさんのいろんな感情がごちゃごちゃになりながら、必死に次に言う言葉を考えていると、ふと、彼は金色を濡らして、わたしを見上げた。
少し子供らしさのある表情で、私を見る。

そのあどけない表情に、どうしたって守ってあげたい衝動に駆られてしまうけど、そんなことしてはいけない。

喉がやけに引っ付いて、言葉の邪魔をした。



「…わ、わたし、は、あなたは、まだ、何もしていないようにみえ、ます。」


絞り出して絞り出して、なんとか声を発する。
震えていて、なんとも情けない声。


「嫌なことから目を背けて、全てに蓋をして、心配してくれている方を蔑ろにしているような気がします」


「口を、言葉を閉ざして、目を瞑って、それが貴方の自責の念ですか。反省ですか

でも、そんなの誰にも伝わりません。
私達は残念ながら脳内で言葉を共有する術を持ち合わせていないのです。」


「人の身というものは、言葉を発して、表情を見て、声色で、空気で、それを漸く感じ取ることの出来るものです。

だからこそ、言葉があり、意思の疎通が計れるのだと、私は思います。」


「言葉を閉ざすのではなく、ごめんなさいを言いましょう。


そして、許してもらうにはどうしたらいいかをちゃんと聞きましょう。許して貰う事ができて尚、絶望が溶けずに刀解を望むのならそれはそれで良いでしょう。でも、先ずは努力を致しましょう。

土下座でも何でもお付き合いします。だから、」



諦めないで、と。薄暗い部屋の中で、なにかが頬を伝っていく生温さを感じた。

静か過ぎて鼓膜を刺激するものがなにもない、耳が変になりそうだ。
太郎さんは少しだけ、震えて


「そんな、ことで、許してもらえるなんて、」


小さな小さな声でつぶやいた。
私はその言葉を聞き流すことはなかった。


「何度だってやり直せます。この世に取り返しのつかないことなんて、ほんの少ししかないんです。」


「やめて、下さい。

どうか、私にこれ以上、」



「だって、見て欲しいんです。血溜まりなんて、どこにも無いんですよ。
貴方を操るものも、貴方に仕返しをしようとしているものも、なにもないんです。

何もないものに怯えて、いつくるかも分からない自分を貶める何かに怯える日々を繰り返すのなら、一緒に居ましょう。
手を繋いで、ご飯を一緒に食べて、私の命が尽きるまで、私が側にいます。私だけじゃないです。仲間だっています。


貴方が居る訳が無いと思っている、貴方のことを大切に思っている人は、案外沢山いるものですよ。」



どんどんと太郎さんの力は緩んでいく。

強く握りしめていた手は少しずつ離れて、太郎さんはゆっくりと、立ち上がる、
大きな彼を今度はわたしが見上げる側であった。
少しでも太郎さんが左文字の皆さんと話すきっかけになれればいいと思った。だから長々と自分語りまがいのことを太郎さんに伝えたのだ。
太郎さんは途中から目線を下げて、あのつぶやき以降黙ったまま。話す気にはなってもらえただろうか。これで、左文字の皆さんと和解に近づいてくれれば…と、思った。矢先。



ー刹那。一瞬。




彼は少しだけ笑って、わたしの首に手をかけた。






prev next

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -