ばーさす 太郎太刀 その1
話をしない事には何も始まらない。
そうは思っていたけれど。
私は、太郎太刀さんの部屋の前にいた。
あまり焦りたくはなかったんだけど、こうなってしまったのには理由があった。
突然の出来事だった。
【審神者さん、アタシ部屋追い出されちゃってさ、なんでかは教えてくれないし、分からないんだけど、あの兄貴のことだからどうせお前は幸せになりなさいとか考えてると思うんだ。
…お願いだよ、兄貴と、話をしてくれないか】
同じ部屋だった次郎太刀さんが私の部屋にやってきて、そう言った。
その表情は、口角を上げて、目尻を下げて、笑おうと頑張っても、それでも笑えない次郎さんを見て、ああ、これは早くしなければと思った。
また怒られてしまうと思うけど、私は1人で太郎さんの部屋の前にいた。
次郎さんは私の意思を組んでくれたのか、私の部屋で待機してくれている。
対穢れ用のお守りもしっかり懐に入れている。これはこんのすけさんが私に、と政府に頼んで作って貰ったものだ。
加州さんや他の方の浄化の一件以来、度が過ぎる穢れは私の命を蝕むということが分かった。
これを持っていれば、ある程度の穢れは体内に取り込まなくて済むと、こんのすけさんは心配そうに差し出してくれた。
部屋の前からも伝わってくる重圧、苦しさ。耳が蓋をされたような違和感を感じる。
私は引き戸にそっと手を掛けた。
「失礼します」
部屋を開けて、ぶわぁ、と何かに包まれた気がした。何回目の感覚だろうか。
お守りのおかげが、ある程度はマシだけど、それでも穢れは穢れ、冷や汗が止まらない。
目の前には、太郎太刀さんが部屋の真ん中に座布団を敷いて、静かに鎮座していた。
目を瞑り、背筋を伸ばす彼の姿は凛としていて、何物をも寄せ付けない空気を感じる。
ゆっくり、ゆっくりと目を開けた彼の瞳は、酷く暗い。
部屋へと入り、襖を閉めた。
部屋の中はある程度綺麗であった。
以前の本丸浄化のお陰か、こびり付いていた血も綺麗で、彼の周りも目立った血は見受けられない。
本人はやはり中傷くらい。小夜さんが怪我をしている、と言っていたから、心配していたけれど、動けないほどの怪我ではやはり無いらしい。
「お話をしに参りました。太郎太刀さん。」
声をかけても、彼は一点を見つめて微動だにしない。
私は流れる冷や汗をぬぐって、笑った。
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