次郎さんとおさけ
「っかぁ〜〜っ!!
サイコー!!審神者さん、アンタこんな日本酒何処から持ってきたのさあ!」
「お口に合いました?私も少し、頂いていいですか」
「もっちろぉん!一緒に呑も呑も!」
夜になり、みなさんの夜ご飯が終わり、みなさんのお風呂が終わっても太郎太刀さんと次郎太刀さんは現れなかった。
今日はワンプレートの大きめのお子様ランチなお夕食だったので、洗い物が少ない。
政府への報告ももう終えてあった。
なので、皆さんには最近頑張って頂いている分、今日は早めに自由時間を取って頂いたのだ。
皆さん片付けと洗い物をお手伝いしてくれると申し出てくれたが、私はへらりと笑ってそれを断った。
そんなに手伝いが必要な作業じゃないし、それに皆さん最近良く仕事をしてくれている。これくらいやらないと私が申し訳なさにそわそわしてしまう。
そう言えば皆さん呆れたように笑った。
その少ない洗い物を私が1人でしていた時。
申し訳無さそうに、残念そうな笑顔を携えながら次郎太刀さんがひょこっと厨に顔を覗かせた。
良かった、来てくれた。
正直な感想。
拒絶されて、来てくれないよりは全然良い。マシだ、という表現があっているのかは分からないけど。
太郎太刀さんは来なかったらしい。でも、良い。
私は洗い物の手を止めて、冷蔵庫からお二人用に作っておいたご飯と、冷酒を取り出す。
次郎太刀さんはそれはもう喜んで、厨の簡易テーブルに腰を落ち着かせた。
ナポリタンに、チーズハンバーグ。サラダにポテト、チキンライス。太郎太刀さんはいらっしゃらないようだったので、2人分あったそれをお出しすれば次郎太刀さんはよほどお腹が空いていたのか、ペロリと平らげた。
…なんだか、少し前にもこんな感じでご飯とお酒を出したなあ。しっかりしたテーブルを買うべきかしら。なんてぼんやりと思って。
食べてもらっている間に、洗い物を済ませ、私も正面に座る。
お酒を飲まれると思って作っておいたなめろうと薬味と共に。だ。
「次郎太刀さんは本当にお酒がお好きですね?」
「いやあ、そうだねえ。でもこんなに美味しい飲み物飲まないなんて…
人生の損ってモンじゃないかい?」
「私、お酒の美味しさなんて昔は分からなかったですよ。寧ろあまり好きじゃなかったんです。」
「アラ!なんでさ!?」
「んー……大学通ってた時に初めて飲んで、なんでこんなに苦いものを美味しそうに飲むの!?ってビックリしちゃったのはあります。
初めて飲んだビールは冷たくて苦くて、それを美味しそうに飲んで酔う皆さんをあまり理解できなかったんです。
こんな苦いものを飲むくらいなら、楽しそうにされているのを見ていればいいな、って思っちゃって。
それに、酔った人を介抱することが多かったので、私が酔う事があまりなかったんですよね?」
「……審神者さん、アンタのそれは最早自己犠牲の領域だよ…!
酒は自分が気持ちよく酔ってナンボでしょお!?目の前で酔われて介抱だけなんて…!!
アタシには耐えられないッッッ!!」
「あ、でも社会人になって、どうやら私ビールより日本酒とか焼酎か好きなことに気がつきまして。
そこからは少し頂くようになりましたよ?」
「そーーーゆーー問題じゃーないーー!!!」
「ね、審神者さん。アタシ次揚げ出し豆腐食べたいんだけど作れる?」
「あら、いいですね。今作りましょうか?片栗粉つけて揚げるだけならすぐですよ。お酒のアテも少なくなってきましたし」
「わーーい!!今夜は飲むぞお!」
「薬味、ネギと生姜で良いですか?」
「鰹節あるー?」
「勿論、削り立てです」
「最高!」
「次郎太刀さんはお酒のアテは何が好きですか?私はなんだかんだで卵焼き一択なんですけど」
「アンタお子ちゃまだねえ!アテなんてうまけりゃなんでもいいのさ!美味い酒はアテを選ばない!」
「え…それカッコ良いですね…」
「でもこの間のマグロの漬けは美味しかったー!また作ってよ!」
「勿論です。あれ、実はめちゃめちゃ手抜きなんです。ぜひ明太子マヨネーズの卵焼きも食べて頂きたいので、また今度一緒にお作りしますね」
「審神者さん、アタシこの夜のお礼に、取り敢えずこの場で腹踊りとかしようと思うんだけどどう思う?」
「うふふ、お礼なんていりませんよ。お腹壊しちゃうのであったかくして下さい」
「アンタって子は…っ!!」
次郎さんとたわいもない会話をしながら、お酒を飲み交わす。
果たしてどれくらいの時間が流れたんだろう。ダラダラと飲み続けられるのがいいところだが、いかんせん飲み過ぎてしまう気がある。
少しずつ、舐めるように飲んでいた筈なのに久しぶりに私も酔っ払ってしまっているらしい。
ふわふわと気持ちが良くて、昔の飲み会とは大違いだ。
昔の飲み会は昔の飲み会ですごく楽しかったけど、こうやって一対一でお酒を飲むことってすごく少なかった気がする。
私は、大勢で飲むよりこっちの方が好きだったらしい。ゆっくりと流れる時間がすごく好きだ。
ぐでえ、と机に突っ伏す次郎太刀さんを見て、お布団に連れて行きたいけど皆さん寝てしまった時間だ。せめて毛布をお掛けしようと席を立った。
いや、立とうとした?
手首をそっと掴まれる。次郎太刀さんは、ふにゃり、と凄く可愛らしく笑って。
「アタシさあ〜〜…3人目なんだよねえ。
さんにんめの、次郎さんなわけ。
この本丸のねえ?
…兄貴は1人目と2人目のアタシの最期を見ててさあ…
1人目のアタシは、兄貴が首を切り落としたんだって。じゅつ、かけられて、たっくさぁーん殴って、そのまま?みたいなさ。
2人目のアタシは、兄貴にやられる前に自分で腹切って腹切って腹切ったんだって、兄貴が辛そうなの、見てられなかったんだろうなあって思うよ。
兄貴がさあ、アタシを見るの。
声にならないのに、音なんか出てないのに、謝りながらさあ。
毎晩毎晩毎晩、毎日毎日。
アタシ、怒ってなんかないのに、その話を聞いた時も、聞く前も。聞いてからだっておこってなんかないんだよ。
みーんな、きっともう許してるのにさあ…
…最近やーっと外見るようになったんだよぉ。今まで、動きゃしなかったんだ。
アンタがこの本丸を綺麗にしてくれてるお陰だねえ…ありがと、ねえ。
…ほんと、悪趣味だよねえ……
自分たちの都合で呼んでおいてさあ、
本当に、悪趣味だ」
気の抜けた笑みがどんどんと崩れていった。
ぼろり。ぼろり。ぼろり。
大きな身体は俯きそれは小さく見えて、次郎さんの目からは大きな粒の涙が溢れた。
隣に座る。私は着ていた羽織とも言えない薄手のストールを次郎さんの肩にかけ、手を握る。
ぐすりぐすりと鼻をすする音が響く。
普通じゃ言えないから、お酒に頼ったのかな。
なんて。私の予想でしかない。
でもせめて、酔っ払ってでも泣くことのできた、伝えることのできた彼の精一杯の勇気にありがとうを伝えたい。
きゅっと手を握る。握り返される手はすごく強くて、ギリギリと骨が軋んだ。
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