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  左文字さんの情報提供









私の自室兼仕事部屋も当初よりは大分マシになってきた気がする。


布団と机しかなかったこの部屋には皆さんが出入りする事を踏まえ、皆さん用の小さな机と座布団が置かれ、本棚や水を入れてスイッチを入れれば湧く便利で簡易的なポット、数人分の湯のみなんかも置かれている。

私は三人に緑色のカバーが付けられた座布団を出して、再度お茶を淹れ直した。

三日月さんも太鼓判を押す、私おすすめのお気に入りの緑茶だ。気に入ってもらえるといいのだけれど。



「どこからお話をすれば良いのでしょうか…」



ふう、と一口お茶を飲んで、一息ついた宗三さんが伏し目がちにそう言う。
江雪さんもことりと湯のみを机に置いて、私を見た。


「……先ず、このお小夜は四振り目だと言う事を…念頭に置いておいて下さい。


そして、私達も二振り目の宗三左文字と……江雪左文字です。

私達は、…二振り目、三振り目のお小夜をどちらも太郎太刀殿によって、目の前で折られています。

二振り目も三振り目も……私たちの大事な弟です。……和睦を謳いながら…お恥ずかしい話では有りますが、…当時は酷く憎みました……」


「一振り目のお小夜は僕たちは知りません。ですが、一振り目のお小夜は目の前で僕たちを太郎太刀によって折られているそうです。

…その場にいなかったので、それは定かではありませんが。」




「前任者は…親交のある刀剣…例えば兄弟刀。主に粟田口ではありましたが…

それらを戦わせて、破壊させる事を日常としていました…それが私達にとって何より苦痛だと言う事を知っていたからでしょう…」



「なぜお小夜が?と疑問をお持ちになるでしょう。


どうやらお小夜は毎度、鍛刀される度、面識の無いはずの太郎太刀を心配していたようなのです。

落ち着いていて、波長が合うのでしょうか。それが同情からくるものなのか、一振り目の記憶からくるものなのかは定かではありません」


「太郎太刀は、親交のあるお小夜の兄弟刀である僕たちと、お小夜。

そして自分の兄弟刀である次郎太刀に至っては二回、前任の命により手を掛けています。
江雪兄様と次郎太刀はレアですし、粟田口程の回数ではありませんが……

その、折り方が、恐らく問題がありました。」



「折り方…ですか。」



つらつらと知っている情報を話してくれるお二人に、小夜さんは俯いたままだ。私は漸く口を開けることができた。

からからと喉が渇く。それは恐怖なのか、嫌悪なのか。

しん、と静かになった部屋に、宗三さんの声が、戸惑いながら響いた。



「…その、首を、折るのです。

思い切りやらなければ重傷です。
それを前任は許しませんでした。手入れは確実にしない状況で、刀解の方がマシだと思える。

そんな状況を彼は作り上げました。一度で人間でいう絶命に達することができればましなのかもしれません。

それでも太郎太刀は躊躇をしました。

それを繰り返すうちに、太郎太刀の姿を見なくなりました。

…正直なところ、四振り目の次郎太刀がいつからいたのか、太郎太刀がいつから外に出るようになったのかまでは分かりません。


主が来た当初、お小夜が寝ていたのを覚えていますか?」



「…はい。
その時に、流れてきた記憶は、お三方で、柿を食べている時に。
前任者に連れていかれたこと、そこからは靄がかかりあまり見えなかったのですが…
小夜さんの気持ちだけは伝わって参りました」




「太郎太刀は長くに渡って神社に奉納されていた刀です。その神力が邪魔をしたのかも、しれませんね。

…八つ時に、前任に連れ去られ、我らは部屋に閉じ込められました。
その夜、私たちの元に帰ってきたのは、動けない重症のお小夜でした。


私たちが知っているのはここまでです。
それからは、私たちも部屋に篭り出ることはありませんでしたから。」




そう締め括った宗三さんの顔は暗く、俯いて口を噤んだ。
思い出すことも、嫌だったことだろう。



「…もう一つだけ、ご確認をしてもいいですか?」



私はそんな左文字の皆さんに、確認をしなければならない。
ああもう、この本丸の審神者というのは、この本丸の業という物はなんて奥深く、仄暗いのだろうか。
本当なら聞きたくないこと、本人でさえ話したくないことを根掘り葉掘り聞かなければ前に進めないだなんて。


心がギシギシと軋むのを感じながら、皆さんを見れば、思い出し辛そうな皆さんはそれでも優しく頷いた。



「貴方の力になれるのならば」



そう言ってくれるこんなに優しい神様たち。何故。思い切り奥の歯をぐっと食いしばる。

そんな事、今更思ってもしょうがない。

そんなことは随分前に悟ったはずなのに、どうしても頭を過る。
私は意を決して口を開いた。






「……太郎太刀さんを、恨んでいますか」
「恨んでなんかいないよ」






私の質問にいち早く反応したのは、彼に暴行された筈の小夜さんだった。
ぽつり。呟く。




「泣いて、いたんだ。



やめて、って、何回も言った。
それでもやめてはくれなかった。でも、僕の首を絞める手は震えていたし、きっと、あの人はやりたくなんてなかったんだと、思う。

……だから今日、会えて、歩いている姿を見れて、ほっとした。

でも、まだ、ケガをしてた。

ケガは、痛いよ。

…だから、主。貴方が受け入れてくれるのなら、ケガを治してあげてほしい。」




小夜さんは小さな体を震えさせながらひとつひとつ、やっとの思いで言葉を吐き出した。


私はというと。


その場で頭を下げた。そりゃあもう思いっきり。




「お三方、どうも、ありがとうございます。
口にするのも嫌な思い出だったでしょう。

…もしかしたらまた助けて頂くこともあるかもしれません。どうか、その時はお力添えをお願い致します。
私は太郎太刀さんも次郎太刀さんも治します。お約束します。」



顔を上げて紡いだその言葉に、左文字の皆さんは驚きながらも、ゆっくり、真剣にこくりと頷く。
太郎太刀さんの声が出ない原因。
それはきっと皆さんにも関係していることなんだと思う。

一層気を引き締めた。
泣くのは堪える。

本当はボロボロと泣いてしまいたかったけど、それを私がやってしまったら、耐えてきた皆さんにも失礼な気がしたからだ。





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