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  助けてくれました






時が止まる。
その表現が一番正しいような気がした。


私のせいでひらひらと柿の木の葉は地に落ちて、私を抱きとめたその男性の頭にも落ちる。
男性は無表情に私を見つめ続けていて、私は兎に角何が起きているのかわからなくて固まったままだ。


そっと私を降ろす動作は凄く優しくて、そこでやっと意識が戻る。




ー凄く、大きいひと。




首を思いっきり上にあげないと顔が見えない。
サラサラな長い黒髪がはらりと揺れる。
彼には見覚えがあった。もしかして、あの時に広間にいた、次郎さんのお兄さんではないだろうか。そうに違いない、現に、後ろからは次郎さんが焦ったように声を掛けながら走ってくる姿が見えた。
小夜さんもぽかんとしていて、なにが起こったのか分からないようだ。


彼は私の身体を無遠慮にペタペタと触って何かを確認する。時には私の脇に手を挟み、持ち上げてみたりもした。
え?え?と戸惑いながらもそのボディチェックを受け、満足したのか彼はふい、とそっぽを向いてゆっくりとした動作で歩き出した。



…え?





「こらこらこら兄貴?
ちょっと待って紹介するから。この間話した審神者さん、兄貴も見たことあるだろう?」



終始間抜けな顔の私達に追いついた次郎さんは、ぜえぜえと息を切らしてやっとの思いでお兄さんの襟元をつかんだ。
お兄さんは、足を止めてそれはそれはとても面倒臭そうな表情で次郎さんを見る。



「あー、ごめんね、審神者さん

これが兄貴の太郎太刀。んで兄貴、こちらが新しい審神者さん。ご飯がすごく美味しくて、酒まで振舞ってもらったって前話した人だよ。

アタシらこの辺が綺麗になってから、昼にブラブラするのが日課でさあ、審神者さんが木から落ちそうになってるのを見て兄貴が急に走り出すもんだから…助けたみたいだけど、どっか怪我はないかい?」


「お、お陰様で。あの、助けて下さってありがとうございました。」



捕まえておかないとどこかに行ってしまいそうなお兄さんの襟元をがっちりとホールドした次郎さんのおかげでお礼を言うことが出来た。
わたしは深々と彼に向かって頭を下げる。



「…ごめん、審神者さん。

兄貴声が出ないんだ。

多分、気にするなって思ってると思うんだけど」



その言葉に、顔をゆっくりと上げた。
気まずそうに笑う次郎さんと、私を見ないでぼんやりと柿の木を見るお兄さん。


声が、でない?


見ると太郎さんは決してどこも怪我をしていない。
喉元をつい見てしまうが、服も破れておらず綺麗なままで、ほんの少し汚れているくらいだ。


わたしが勝手に衝撃を受けるも、お兄さんはどこ吹く風、襟元を強く捕む次郎さんの手をそっと外すと、柿の木に近付いて柿の実に手を伸ばす。

彼の大きな体と長い腕は、意図も簡単に柿の身に届いた。



ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
いつつ、むっつ、ななつ、やっつ。
ここのつ、とお。


腕一杯に柿の実を取った彼は、私の隣に立つ小夜さんの前に膝をついて、柿を差し出した。


その動作が、目が。すごく優しくて。

小夜さんもおずおずと受け取る。


「あ、りがとう。」



お礼の言葉を口にした小夜さんの頭を軽く撫でて、ふと目を緩めさせる。先程の表情とは全然違う。そしてまた柿の木に向かうお兄さん。
私はこの短い時間で確信をした。

彼は、とても優しい刀剣男士だ。

ちらりと次郎さんを見ると、次郎さんはその行動がとても嬉しいといった風に顔を綻ばせていた。




「兄貴いいこと考えるじゃーん!
うん、アタシらも手伝うよ!柿の実、取りたいんだろう?」

「…ええ、そうなんですよ。なるべく沢山取ってみなさんに行き渡るようにしたいんですが…」

「それはそれは大変だ、幸い沢山実っているから、アタシと兄貴で手分けして取ろうか。」

「そうしてくださるなら助かります、小夜さん、お兄さんの横で柿を受け取って頂けますか?」

「うん、分かった」



私たちもいそいそと柿取りを再開する。

お兄さんと次郎さんのおかげで、かなりの量の柿を取ることができた。

ぽかぽかと辺りは暖かい。まだしっかりと和解をしていないのに、彼らはとても優しかった。
柿の実を取ってもらった事もすごく助かったのに、重いだろうとわたしと小夜さんが背中に背負っていた籠を持って本丸まで運んでくれて。

…彼等の、なにが和解を阻むのだろう。
私は、柿の実を剥きながらそんな事を考えた。




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