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  こんにちは、よろしくね?






僕ね、解ってたんだ。


僕のあの人に対する気持ちは、ただの八つ当たりだって。兼さんが折れた日に僕を助けてくれた人。本当なら、助けてくれたことにありがとうって言わなきゃいけないって。
でもどうしてもその言葉が出なかった。なんで、どうしてって、八つ当たりしか思い浮かばなかった。
でもあの人は、僕の手を握った。若い女の人にしては、かさかさで、荒れた手だった。
僕、どうしてそうなるのか知ってるんだ。冷たい水での家事、手がささくれてむけても放置して、仕事をする人の手。誰かの為に、尽くす手。

僕だって、手入れされる前はそうだった。
主のご飯を作って、主の服の洗濯をして、手入れする間も無く出陣して、出陣が終わったらまたご飯を作って、洗い物をして、主の世話をして。
口に合わなければ椀を投げられた。怒鳴られ、殴られた。
辛い日々だった。

手がそんなになるまで尽くせる人間が、悪い人間な訳がないんだ。
薄皮は剥けて、指紋が無くなった指先はヒリヒリと痛い、それでも誰かに尽くしたいと思っている人間だ。僕を助けてくれる人間なんだ。

だから、受け入れた。新しい本丸に行くことにした。




次に会えたら、ありがとうって、言わなきゃ。





そう思って、僕は刀に戻った。




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「美味い」


和泉守さんは、そう一言呟くとばくばくと凄い勢いでおにぎりを食べ、たくあんを摘んで、豚汁を啜った。
堀川さんもそれに習ってか無言で、それでも凄い勢いでご飯を食べ進めていく。
…足りるかしら、胃が受け付けないかと思って小さめにしたんだけれど、どうやら杞憂だった。

ここは大広間。
鍛刀部屋からお二人にこの部屋へ移動して頂き、いつも皆さんが食べている場所で食事をして頂いている。


ちらりちらりと襖の向こうからは和解した刀剣の皆さんが顔を出す。やはり気になるのだろう。私は深呼吸をして、お二人を見る。


「お二人は、これからどうしたいですか?」




ぴた、とご飯を食べる手は少しだけ止まって、お二人は同じタイミングで私を見る。



「アンタが、俺を許してくれるのなら、どうか、国広だけはここに置いてやってはくれねえか」



箸を置いて、少し後ろに下がり、頭を下げる和泉守さん。その姿はやはり誰かを守ろうとする人のそれだ。

打ち合わせも何もしていなかったんだろう、堀川さんはその姿に驚いた様子で、


「…え、兼さん!?何言って…」

「俺は何回もアンタを本気で殺そうとした。刃を向け、首を締めた。そんな俺を危険だと判断するのは当然の事だ。
でもどうか許して欲しい。…その代わりに、俺は刀解でもなんでも受け入れよう。

ただ、国広は俺の行動になにも関係無い。悪くねえ。どうか、そこのそいつらと同じ待遇で迎え入れてやってほしい」


「そ、そんなの言ったら僕だって同じだよ!この人に八つ当たりして、本気で殺そうとした!浄化の時にこの人を巻き込んで入院までさせたんだ!!」

「…その国広の無礼も、俺が背負う」

「兼さんの分からず屋!!なんで、勝手に決めちゃうんだよ!僕は嫌だ!もう兼さんが居なくなるなんて…!!」





…埒があかない気がする。
そして、とんでもなく不毛な喧嘩を始めさせてしまった気がする。
苦笑いをしながら、私は、ぱん、と一つ手を叩いた。



「よし分かりました、
全てを許しますのでお二人とも当分のんびり過ごすことに致しましょう。
なので喧嘩はダメです。せっかく会えたのですから。



まずはこれから和泉守さんのお手入れをします。それからお風呂に入って、お風呂上がりのアイスなんかも食べて、ゆっくりして、早めにお布団で寝ましょう。
…薬研さんー!?」

襖に声をかければ、そこに居たのかひょっこりと薬研さんが顔を出す。

「お、呼んだか?大将」

「お手入れが終わったら、シャンプーの場所とかタオルの場所とか、お二人に教えてあげて下さい。乱さーん!」

「はーい!呼んだ?」

ぴょこっと手を上げながら顔を出す乱さん、その顔はなんだか嬉しそうで。

「和泉守さんは御髪が長いので、今日は乱さんの洗い流さないトリートメントを貸してあげて貰ってもいいですか?あと、ドライヤーのやり方も教えてあげてください。
江雪さーん!」

「…なんでしょう、主」

ゆっくりと、静かに顔を出すのは江雪さんらしい。

「今日のご飯当番さんでしたよね?
これからお手入れをするので、夜ご飯のうどんのお汁だけ用意しておいて頂いてもいいですか?冷蔵庫の中にストックのお出汁が二リットル程入っているので、温めておいて頂ければそれで大丈夫なので、あ、あと。

加州さん!」

「はーい、俺の出番だね」


加州さんも小さく手を上げて、にんまりと悪戯っ子のように笑う。


「お二人のお世話を、当分の間お願いしても良いでしょうか。同じ新撰組の刀という事もありますし、加州さんは細かいところにも気がつくので。」


「りょーかい、…なにポカンとしてんの。主が許すって言ったんだからそれで終わり、分かる?

さ、2人とも、これから改めてよろしくね」




呆気に取られ、喧嘩をしたままのポーズで固まる2人は動かない。…わたしが刀解を望むわけがないでしょう。





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