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  お掃除しましょう


あれから、わたしの願いである個人面談は皆で話し合い誰が最初に行うかはこんのすけを通し追って伝える。と、あの髪の長い神様に睨まれながら言われた。
嫌々ながらも、どうやら面談はさせてくれるらしい。
ふむ、個人面談用のお茶を早く仕入れなければ。審神者ってどこで買い物をするんだろうか?あとでこんのすけさんに聞いてみよう。と考えていると、その間もわたしをペタペタと触っていた三日月宗近さんは、髪の長い神様に首根っこを掴まれ大広間へと引きずり戻され、

「あなや、俺は主と共に居たいのだが」
「三日月!!話がややこしくなるからこっちにいろ!
オイ!俺らはまだアンタを主と認めたわけじゃねえ。勝手なことしたら、今度こそブチ殺してやる…!」

ーパン!
せっかく開かれた障子は、また固く閉ざされてしまった。
なんだか怒涛の展開にわたし自身、頭が追いついていないような気がするけど、まずは皆さんの顔が見れただけ、良しとしよう。

「お掃除は、させて頂いてもいいですか?」
「…好きにしろ!!」

「はい。好きにさせて頂きます。
あと、勝手が分からないついでなんですが、皆様、身体がお辛いようなら直ぐに手入れをさせて頂きますが、如何でしょう?」

「いらん」

三日月宗近さんでも、髪の長い神様でもない声がまた聞こえた。即答。
まさかこんなに早く拒否されるとは思わなかった。果たして痛くはないのだろうか?わたしは存外痛い事に弱く、転んで擦りむいただけでも直ぐに治療をしてもらいたい人間なので、逆にあそこまで大怪我をしているのに我慢されているのを見るとハラハラしてしまう。
小さな子たちも居たはずだ。神様といえど、個体が小さければその傷の痛み具合も違うんじゃなかろうか?

「手入れをされるということは、審神者の霊力が直に俺たちに注がれるということ。君が信頼に足る人物だと証明されるまではオレたちは手入れを受けるわけにはいかないな。」


なるほど。
信頼に足る人物じゃないものの霊力を体内に取り入れるのは、確かに抵抗があるかもしれない。
そもそもその傷を治す行為自体、彼等が嫌がり、望まないのであれば無理に行うこともないのかもしれない。先ずは様子を見ることにしよう。
横で心配そうにわたしを見つめる小さな狐をそっと抱いて、立ち上がる。障子に向かって一礼をした。


「それでは、わたしが信頼に足る人物と認識して頂けましたら手入れをさせて頂きます。朝でも昼でも夜でも夜中でも、皆様が望まれましたらその時間をお手入れを致しますのでお申し付けください
…今日のところは、ご挨拶までに。失礼致します。」


なにかが動くような音がした気がしたけど、そっと障子から、その大広間から離れる。あまりイレギュラーな存在がいても、きっと居心地も良いものじゃないだろう。

大広間から離れて、わたしは今後わたしの自室となる部屋や厨と言われる台所、大浴場、トイレ、手入れ部屋や鍛刀部屋を案内して貰っていた。
またも半ば無理やりに抱っこさせて頂いたこんのすけさん。最初程抵抗は無くなったのか、少し頬を染めながら一生懸命小さな前足で次はあちらでございます!だとかここを左でございます!とナビしてくれるこんのすけさんはとっても可愛かった。ナデナデしておいた。

あらかたの説明を受け、二階の自室に入る。座布団もなければ布団すらない。ただの埃っぽい六畳一間のその部屋は、これから生活していくにあたって必要なものが無さすぎた。
というか、この本丸自体、政府が介入した時に全て押収されてしまったのか、入浴用品や食器なんかもなにもないことを確認した。
そしてなにより全てにおいて、血や何かの汚れがとにかく目立つ。
掃除がしたい。

汚いお部屋というのはいかんせん苦手だ。ある程度の生活水準は維持したいし、皆さんにも清潔に毎日を送っていただきたい。


「さて、それではこんのすけさん、案内ありがとうございます。取り急ぎ清掃に入りたいのですが…お掃除道具など、この本丸に必要そうな物資をわたしのお給金から買おうと思います。なにか手続きが必要でしょうか?」

「はい!審神者様専用の通販サイトSanizonなるものがございます。こちらのパソコンからログインして頂いて、必要なものがあれば全て購入することができます。
ブラック本丸対策といたしまして、こちらの本丸の担当様が掛け合ってくださり、生活に必要なものは政府経費から落ちるようになっておりますので、さにわのときのなまえ様のお給金から引かなくともご安心してお買い物を行なって下さい!」

「…あら、担当さんが。それはあとでお礼の文を書かなければなりませんね。」


あの涙ぐんでいた担当さんがいい仕事をしてくれた。正直、大人数の生活用品となると私の頂いた前金と貯金だけで足りるかどうか心配だったので、それはとても助かる。
こんのすけさんに指示されるがまま、パソコンを開きカートの中に必要なものをドンドン入れていく。
まずは掃除用品。箒や雑巾、バケツ、洗剤など。ベットを置くスペースが無さそうなので、普通の敷布団に掛け布団。毛布。あとは食器やタオル、食品なんかも取り扱っているらしいので、取り急ぎお米と味噌、醤油なんかの日持ちする食品と調味料各種。

野菜はこの本丸が正常に機能し始めたら、種を買い育てれば、霊気で普段の数十倍のスピードで成長する、とこんのすけさんが教えてくれた。
…刀剣男子の皆さんは、ご飯をきちんと食べているのだろうか?きっと食べていない、食べたくなったら食べれるように、お米は多めに買っておこう。

ある程度のものをカートに入れて、購入するを押せば瞬時にどさどさどさっ!と隣にダンボールが大量に届いた。
…買いすぎたかもしれない。

「…さにわのときのなまえ様!?この量は…!?お一人で…!?」

「いえ、皆さんも食べるかなぁ、使うかなぁと思って色々買ってみたら、このような有り様に…でも、全て必要なものですよ」

パソコンの前から腰を上げ、あらあら、と部屋から溢れんばかりの物資を一つずつ整理していく。食料を取り急ぎ廊下に出して、掃除用品を漁る。あ、あったあった、箒とついでに割烹着と三角巾。
審神者服というものはとても動き辛いので、エプロンではなく袖口がゴムになった割烹着にしたのだ。これである程度は動きやすくなったに違いない。割烹着と三角巾を装着して、どんどんと仕分けを行なっていく。
あ、これ三日月宗近さんにオススメしたい煎茶の茶葉。普段なら一ヶ月は予約待ちなのに。即座に来るだなんて流石政府だわ。

お米と調味料以外の食品は、腐ってもいけないので少し少なめに頼んだ。ここまで案内してくれたこんのすけさんが好きそうなものも。
きちんと届いているそれを取り出して、にっこりとこんのすけさんを見やる。

「因みに、こんのすけさん油揚げはお好きですか?狐さんといえば油揚げかなぁ?と安易な考えで買ってみたんです。あとで焼いて鰹節をかけたものと、おいなりさん作りますから一緒に食べましょうねえ。お味噌も買ったので、お味噌汁もできますよ」


こんのすけさんに届いた油揚げをほら、と見せれば、目を見開きや俯いてふるふると震えるこんのすけさん。え、まさか…油揚げはお嫌いだったのかな。

「このこんのすけ!!!さにわのときのなまえ様に…いえ!主様のお心遣いに感激致しました!!この世に生を受けてから、あぶらげにはとても憧れを抱いておりました!!主様、ありがとうございますぅう!!」


おーいおいおいと泣くこんのすけさんに目を見開く。そうなのね!食べたことなかったのね!
慌ててこんのすけさんをそっと抱き上げてその大きな目からボロボロと溢れる雫をハンカチで拭い、背中を撫でる。そこまで感動してくれるとなんだかとても嬉しい。食べる前からこれだ。美味しいおいなりさんを作って上げなければ。

「そんなに楽しみにしてくれるのなら、わたしも張り切っちゃいましょうか。先に厨とその周辺のお片づけをして、ご飯の仕込みをしちゃいましょう。冷蔵庫や家電は担当さんか用意してくれて新品でしたし、少し出汁につけて、味のしみたお揚げさん作りましょう。美味しいですよ」

「あ、あるじさまぁ…一生をかけてお仕えさせていただきますぅぅ〜…」

さめざめと泣くこんのすけさん、油揚げ如きで忠誠を誓っちゃダメですよ〜〜と諭す。こんのすけさんを抱えている手じゃないもう片方の手に掃除用品と、要冷蔵の食品を新品のバケツに入れ厨へと向かう。
もうお昼時だ、わたしもお腹は空いているが、先ずは厨をなんとかしないとご飯にありつくことが出来なさそう。
レトルト食品はどうにも好きじゃない。文明の利器にたまには頼ることもあるけど、出来る限り自分で作ったご飯を食べたい。


たどり着いた厨は、血の染み込んだ他の場所よりは綺麗だった。というかあまり使われていなかったんじゃないだろうか?

こんのすけさんを下ろし、頭を撫でる。そこでまっていてくださいね、と一言付け足して。すんすんと鼻を鳴らすこんのすけさん。
さーて片付けようかなぁと小さめの箒を手に取り、裏口のドアを開け外へと埃を出していく。
そこからは早かった。というかとてもスピリチュアルなことが起こった。

「主様、ご自分のお足元をご覧くださいっ!」
「……ンン?何故にこんなにピカピカに??」

箒で掃いたところ、雑巾で拭いたところ、水を流せばどんどんと見違えるように、それはもう新品のようになっていく。掃除だけでは落ち切らないと思っていた所も、軽く掃除をするだけでみるみるうちにピッカピカだ。
…最近の掃除用品とは、こんなに素晴らしいものだったのか。そんなに高いものではないし、普通のものをパチリしたはずだったけど。早く買えばよかった。


「これは、主様の浄化のお力でございますっ!箒や掃除を媒介として、綺麗になってほしいと願えば、それが形として現れ、この穢れた本丸にとって一番の浄化になるのです。
かといっても、このように顕著に現れるのは流石でございます。」

「買い被りな気もしますけどねえ…早く綺麗になる分には、それはそれでいいことかもしれません。どんどんお片づけをして、早くご飯を食べましょう!」

最新の掃除用品の力な気が拭えないが、兎に角綺麗になれーと願いながら丁寧に掃除をしていく。冷蔵庫もシンクも、こんのすけさんが閉じ込められていたかがめば人が入れるくらいではあるが小さな小さな地下室も見違えるほどに綺麗になっていく。
こんのすけさんが閉じ込められていた地下室は、びっくりするほど暗い靄が掛かっていた。前任者の穢れのせいだ、とこんのすけさんは言う。問答無用で水を流し、ブラシでごしごしと拭けばこちらも見違えるほどピッカピカだ。
使っても大丈夫ですか?思い出したりしませんか?とこんのすけさんに尋ねれば、こんのすけさんは俯いて、

「嫌な気持ちにならないといえば嘘になります…ですが、その地下室は便利です!沢山の野菜や漬物なんかを保存しておくにはうってつけです!
本来の役割として、ぜひに使って頂きたく思います。」

とのこと。なので、美味しいぬか漬けとキムチを漬けることを心に決めた。

掃除をすること三十分。リフォームしたてのような厨に満足しつつ、お昼ご飯作りに取り掛かる。
本日のお昼ご飯は、油揚げのサクサク焼きにおいなりさん、豆腐と乾燥わかめの味噌汁、Sanizonレビュー1位のお漬物というすごくお豆さんに溢れた質素なメニュー。日持ちする食材買ってたらこうなってしまった。夜ご飯は是非にお肉が食べたい所だ。

油揚げを数枚取り出し、めん棒でコロコロと引いたら、グラグラと沸騰する鍋にそのままドボン。油抜きを1分程行う。
そのあとは砂糖、醤油、みりん、お酒、お出汁をお鍋に入れて、落し蓋。味を染み込ませる。
その間にお味噌汁と、油揚げのサクサク焼きを作っていく。
ゴマ油を引いて熱したフライパンに、油抜きをして水気を切った油揚げを両面カリカリになるまで焼く。その後に鰹節、麺つゆをお好みで。本来ならネギが欲しい所だけど、狐さんにネギはどうなんだろう?と考えた結果今回はやめておくことにした。

ご飯を作っている間、こんのすけさんがものすっごいキラキラした目で油揚げを見つめている。涎が垂れそうになるのを必死で抑えている姿は、なんだかとっても可愛い。

本来ならあまりしたくない早炊き機能で早く炊き上がったお米の中に投入していた昆布を取り出し、切るように冷まして、いりごまとお砂糖とお酢を投入してまた冷ましながら切るようにかき混ぜる。
本来ならお野菜も煮て入れたいところだけど、これから浄化された本丸で育つお野菜に期待しよう。
煮染まった油揚げに、ご飯をどんどんと詰めていく。ツヤツヤしたおいなりさんは、我ながらすごく美味しそうだ。

わたしの自室は沢山の生活用品で溢れてしまっているため、厨の中にあった小さなスペースの。小さなテーブルにどんどんとご飯の用意をしていく。
あとはお茶を淹れれば完璧だ。先程お取り寄せした煎茶を用意する。

ひとつ、こんのすけさんの分。ひとつ。わたしの分。ひとつ。ちょこんと座った男の人の分。

………ん??


「いつの間に、すこし驚きました。」

「こんにちは、はじめまして。いやなに、自室に戻ろうと歩みを進めていたところ、こちらの芳しいにおいに誘われてしまいましてな、私もご相伴に預からせて頂けないでしょうか?審神者様」

ニコニコと小さな椅子に腰掛ける大きな男の人は、どこか狐に似ている気がした。





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