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  かみさまにあいました



「さにわのときのなまえ様、こちらのお部屋です。」

こんのすけさんが指を指す方向を見ると、そこだけ障子が張り替えられ綺麗になっていた。
ただ、中が見えないのがこれ程までに恐ろしかった事があるだろうか。
…確実に、この中の人々は怒っている。1人じゃない、複数、それも何十人もいる。前までそんなスピリチュアルなこと少しも分からなかったのに、それが分かるのは、一ヶ月の研修の賜物じゃないだろうか。

わたしは、こんのすけさんを床にそっと降ろして障子の前に膝をつき、頭を下げる。土下座の体制だ。こんのすけさんはびっくりしたように声を荒げるけど、聞こえないふりをする。


「本日より、この本丸に配属致しました審神者にございます。一ヶ月前、審神者の適性があると診断された、ひよっこもひよっこ、卵と言っていただいても構いません。そのような者が審神者として配属されること、皆さまお怒りかとは思いますが、どうかご挨拶をさせては頂けないでしょうか?」


礼をしたまま、なるべく聞こえやすいように大きな声を出す。…障子は、彼らが開けるまで開けてはいけない。
きっと、そんな気がする。
頭を下げて返答を待っていれば、一拍置いて男の人の声が聞こえた。


「政府が寄越してきたからどんな者かと思えば。…まだ、話が出来るもののようだ。審神者よ、お前は我らになにを望む?夜伽か?手合わせと言う名の殺し合いか?

我々はもうお前を主人として認識するよう働きかけられている。お前の命なら命すら差し出すだろう。

我らに、なにを望む?」


彼は誰だか私にはわからない。

けど、彼もとても怒っていて、私なんかを信用していないことは空気でわかる。
わたしは少し顔を上げた。こんのすけがあまりにも隣でお顔をお上げください!!審神者さま!!ときゃんきゃんなくもので、仕方がなく。…


「政府からの指令は、歴史修正主義者を殲滅すること。…ですが、猶予はございます。
此度ご迷惑をお掛けしたのは政府の不徳の致すところです。ですので、私のできる範囲での日課をこなせば、数ヶ月は出陣、遠征を免除して頂けるそうです。」

「それは、政府の命だろう」

「はい、そうです」

「お前は、我らに、なにを望む?」


…この本丸を運営するにあたって、
やりたいこと。
一つだけ心当たりがあった。


「………んーーーー。個人面談させてください。」

「……………は?」


「いや、正直申し上げますと、わたし人の不幸ってとても苦手なんです。悲しいこととか、辛いこととかとっても苦手で。
幸せそうな人を見ていると、わたしは幸せになれます。

ただ、皆さん自我があると聞いていて、個人個人の性格がある、と聞いています。
私が一概にどうぞご自由に!ってしてあげたいところなんですけど、そうもいかない場合があるやもしれません。
だって出陣したい方もいるかもしれない。日がな一日お茶飲んでお菓子食べて、のんびりしたい方もいるかもしれない。どこか行きたいところがあるのかもしれない。なにかしたい事があるかもしれない。なにか欲しいものがあるのかもしれない。

一人一人の願いを叶えて差し上げたい。これがわたしの願いですかねえ?あ、あとはこのお屋敷のお掃除をさせて欲しいです。」


一気に捲し立てるようにペラペラと喋る。

障子の向こうからは、なにも感じない。
怒っているのか、悲しんでいるのかさえわからなくなってしまった。無言。無音。そんな時間が少しだけ経った後、ばんっ!!と障子が一気に開く。

そこにいたのは、青い髪の、瞳に三日月を従えたとんでもないイケメンだった。


「ああ、これはいい。今一度ひどい審神者が来たら追い返してやろうと思ったが、新しい主はとても清い気を持っているなぁ。

俺の名は三日月宗近。まあ、天下五剣の一つにして、一番美しいともいうな。 十一世紀の末に生まれた。ようするにまぁ、じじいさ。ははは。これから、よろしく頼むぞ?主。」


私の頬に触れる指はなんだか優しくて、私の存在を確かめるかのようにペタペタと三日月宗近さんは私の体を触る。
…ちょっとばかしくすぐったい。けど刀剣男士の皆様のナワバリに入るんだ。ボディチェックは必須なんだろうと我慢する。主に頬や髪を触られるがなんか仕込んでると思われているのだろうか?流石に頬に仕込むのはハムスターくらいな気もするのだが。


「三日月!!そんな簡単に信用していいのかよ!?コイツは、アイツと同じ審神者だぞ!?」

三日月宗近さんのボディチェックにより後方チェックを怠っていた。三日月宗近さんの後ろを見れば、沢山の刀剣男士の皆さん。
皆さんどこか汚れていて、大怪我をしている人さえいる。恨めしそうにわたしを見る人、怯えた目でわたしを見る人、怒ったようにわたしを見る人、なんだか話しかけたそうにわたしを見る人。そして、なにも見えていない人。様々な刀剣男士の皆様の視線を浴びる。
ペタペタと触ってくる三日月宗近さんだけが何故かニコニコと嬉しそうだ。


わたしを恨めしそうに大きな声を張り上げる髪の長い神様は、血が未だに流れている。と、言うことはどこかしらを怪我をしていると言うことだ。

…手入れ、したいなぁ。しちゃだめかなぁ。



「和泉守よ、それは個人面談≠ニやらで見極めればよいのではないか?俺は、触れて、話して、この主が気に入った。それだけの話だ

因みに主よ、俺は、日がな一日温かい茶を飲み、茶菓子を食べ、ゆっくりと過ごしたいぞ」

「なるほど。お茶は煎茶がよろしいですか?それともほうじ茶?麦茶?お茶菓子の種類なんかも、考えていて下さいね。個人面談の際に聞いて行きますので」


のほほん、としているが床は血だらけ障子の奥も血だらけ外は穢れが立ち込め緑のない環境である。

三日月宗近さんの願いはキチンとノートに書き留めた。
…それを見て更に睨む刀剣男士の皆様。
とりあえず、皆さん敵意があるのは分かったので、個人面談をさせてください。










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