ばーさす和泉守 その7
「主様、譲渡された刀剣男士の鍛刀の手順はこちらになります。お目通し下さいませ」
三日月さんを先に手伝い札を使い手入れさせて頂いた後、私と和泉守さんは鍛刀部屋に来ていた。
あまり使われていなかったその部屋は、今や我が本丸のお掃除隊長宗三さんと、副隊長小夜さんによって埃一つないピカピカな部屋となっている。
事態を加州さんから聞いたこんのすけさんは、直ぐに部屋にやって来てバインダーに入ったその資料を私に見せてくれた。
手順はとても簡単なものだ。部屋に入り、必要な資材を準備、あとは審神者が力を込めた依り代を刀に乗せるだけ。
私は小さな人型の依り代を手のひらで挟む。
堀川国広さん、どうぞこの本丸へお越しください。貴方を待っている人が居ます。そう願いを込めて。
和泉守さんを見やる。
彼は、むすっとしながらもちらちらとこちらを見て、早くしろ、と掠れた声で言った。
期待と不安。そんなものが混ざったような声色だ。
私は手のひらに収まった依り代を、そっと堀川さんの本体へと乗せた。
ーーー刹那。
「兼さんっっっ!!!!!!!」
光が堀川さんを包み、刀だった堀川さんは人の形を得て、叫ぶ。
…あぁ、やっぱりだ。ねえ、わたし、嘘をついていなかったでしょう?
堀川さんは目に涙を浮かべて、和泉守さんに抱き着いた。
違う兼さんじゃない。
この兼さんはあの、兼さんだ。
そう思ったんじゃないか、と私は思う。
ぎゅうぎゅうと堀川さんに抱き締められた和泉守さんは驚いたような、キョトンとしたような。なにが起こったのか分からない。
そんな様子から、どんどんと表情を歪めていく。
力が入らないのか彼を抱きしめ返す事もなく、ただ静かに、その目からは涙がぼろぼろと零れる。
ゆっくり、ゆっくりと堀川さんに回す力の入らないその手は、目に見えるくらい震えていた。
「ご、ごめんなぁあ…っ!!
俺、お前を残して折れちまった…!!お前を守る事すら出来なかった…っ!!
1人で、辛かったよなぁ!?怖かったよなぁ!!
寒かったよなぁ…っ!!毛布も茶も、全部俺が取っちまったからなぁ、沢山俺の代わりに殴られたよなぁ…っ!!痛かったよな?嫌だったよなぁ…っ!
悪かった、悪かった国広っっ…!!!」
叫ぶように、縋るように。
その声は部屋に響いた。
「か、兼さん…っ!!
ちがう、違うよ…!!
ぼくが、僕がもっとうまくやってれば、アイツをもっと早く殺しておけば兼さんは折れなかったんだ!!
違う、違う!!兼さんは悪くない、ぼくが全部悪いんだぁ…っ!!
ごめんなさい、ごめんなさいっ…!!」
わあわあと2人は泣き続ける。
ずっと言いたかった。言えなかった言葉を精一杯繋いでいく。
どれだけ、どれだけその言葉を言いたかったんだろう。
2人は心の奥底に、謝りたい、会いたい、助けられなかったという気持ちを押し込めて、どれだけ痛かったんだろう。
私は、自分の目から流れる何かを手で拭いて、そっと立ち上がった。こんのすけさんも一緒に抱き上げる。
「…あるじさま?」
こんのすけさんは不思議そうに私を見上げるけど、わたしはしーっと人差し指を口の前にあてた。
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