ばーさす和泉守 その6
「は?」
わたしの首にかけられた手はじんわりと汗ばんでいく。
吐息を感じられる距離にいる和泉守さんの表情がコロコロ変わる。
さっきまで怒っていた筈なのにぽかん、としたような、そんなことって、というような。
それから手が汗ばんでいくのと同じ速度でゆっくりと泣きそうな顔になる。
「………う、嘘だ、殺されたくないから、そんな出鱈目を言っているんだろう、
そんな、そんな偶然が、あるわけ、」
勘違いだったら、私の思い込みだったら。
そんな事を考えるけど、不思議な確信が私にはあった。
小さな檻、寒い冬、冷たい手。毛布と温かいお茶の差し入れ、そして、傷だらけの堀川さん。
わたしは見たのだ。この小さな力で、彼を。
「嘘じゃありません、絶対そうです。今、この本丸の中に居ます。
刀の姿ですが、鍛刀さえすればすぐに会えます。
貴方の心配している、守りたかった堀川さんにまた会えるんです」
確信をしっかりと目を見ながら伝える。
彼は、彼に会わなきゃいけない。
彼もきっとそうだ。だからそんな泣きそうな顔をしないで、どうかどうかどうか。
「何故、お前がそんな事を知っている…?俺を、馬鹿に、しているのだったら、」
「真面目も真面目、大真面目です。
お願いです、和泉守さん。堀川さんは私では救えません。貴方を救うのも、私じゃない。堀川さんだけです」
「……国広に、もう一度、会えるのか?」
「一度だけでいい。これきりでいいから、どうかわたしを信じて」
私は彼の手を握ることが出来なかった。
救いのヒーローみたいに助けられるのならどれだけ良かったことだろう。劇的な救済の言葉をかけられたら、颯爽と現れてこうなる前に助けることができたのなら。
でも、生憎と私はただの凡人だ。元々、彼等刀剣男士の主になるべき器ではないのだ。
なら、私にできることは??
脳味噌が小さくなるまで考えろ、彼等のために、主として出来ることを。主になるべき器ではない人間が、せめてお飾りであってもそう呼ばれるに当たって行動出来ることを。
…彼に寄り添う事は私の役目じゃない。
私は立ち上がる。手を差し伸べられないならせめて、彼に必要な事をするために
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