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  ばーさす和泉守 その5








「………同位体、というものは知っているか」

「同位体、ですか」




長い長い沈黙の後、和泉守さんは漸く口を開いた。



「頭のおかしい話だとは重々承知だ。俺だって付喪神の1人、そんな事が本当にあるだなんて思いもしなかった。

俺は、俺の本霊からの分身体だ。折れたとしても本霊に還るだけ。他の分身体の意識なんて知らねえし、意識が繋がるなんてことあり得ねえ。
…でもなぁ、あったんだよ。そのあり得ねぇ事が。」


「俺がそれに気付いたのは、もうこの本丸がおかしくなっていた時だ
長すぎる遠征から帰ってきて、やっと寝たその日の夜。夢を見た。


ずっと雪の降る本丸で、俺は小さな檻に入れられていた。
なんの事だと思ったよ。狭いし暗いし寒ぃ。手は悴んで感覚がねえ。
出せと叫んでも誰も来ねえ。そんな本丸に俺の意識は飛んだ。


毎晩毎晩、眠るたびにその本丸へと意識が移る。夢じゃねえって気付いたのはそれを何回か繰り返した後。国広が部屋に来た時だ。」


「その国広は重症だった。手入れをしてもらえない、と言っていた。


…それでも、俺に毛布や茶を差し入れてよぉ。嬉しそうに、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれた。


居てくれるだけで良い、ずっと待っていた、と繰り返しその国広はなんだか複雑そうに、笑いながら言った。


俺が意識があっちに行かない間、あっちの俺はどうしている?と聞いた事がある。
どうやら俺があっちに行かない時は、あっちの俺は寝ているようだった。
兼さんは夜になると起きるねえ、と、また笑ってた。
その時に、向こうの俺は俺にこいつを託したんじゃねえかと思った。」

「きっと向こうの俺は限界だった。
なんせ身体はこっちの俺の時以上にだりぃし、術をかけられていたのか精神的に死にそうに鬱になってやがる。
向こうの俺になる度に国広と話せたのは、まだ精神力が俺の方が余裕があったからだろう。

あっちの国広は嬉しそうだった。
自分も怪我をしていて、寒い筈なのに。

眠るたびに意識がその本丸に行くようになってから少し経った後、こっちの本丸では俺は用済みになった。前任者が俺の嫌がることをするようになり、その延長で二番隊隊長からは外された。まあ、やることといったら、たまに部屋にやってくる前任者の暴言と暴行を受けるくらいだ。
そんな中でもこっちの国広とは勿論毎日会っていた。

でもあっちの国広はそれ以上にどうも気掛かりで、俺はよく眠るようになった。こっちには、刀剣男士が沢山いるが、向こうはかなり少ないようだったし、あっちの俺は、もう限界で意識を戻す気は無かったようだったから。

そんな俺がグースカ寝てた時だよ


…こっちの国広は、折られた。」


「目を覚ました時には遅かった。前任者は俺が目を開けるのを狙って、笑いながら国広にとどめを刺した。最近よく眠っているなあ、現実逃避か?とアイツは言った。」


「俺はそれから更に眠るようになった。
泣いても怒ってもこっちの国広は返事をしない。国広は1人になったからだ。
あっちの国広は守ろう、と思ったからだ。国広は、俺が起きている事が多くなって嬉しそうだったんだ。最近までは。


…本当に、最近だ。

初めて、たまたまやってきた向こうの審神者に懇願した。土下座までした。頼み込んだ!!!」


「檻から出してくれ、頼む、と!!!」

「なんでもいう通りに働く、戦績を上げるから、出してくれ、と!!!」


「向こうの審神者も笑ったよ。

笑いながら、檻の中の俺の心臓を突き刺した。」

「向こうの俺は、簡単に折れた。元々細い糸を綱渡りしてるようなもんだ。眠っても行けなくなった。



向こうの国広が今どうなってるのかはわからない。折れていないのかすら、分からない。


アンタが良い審神者なんて言うのは知ってんだ。本丸浄化の時、少しだけアンタの気が入ってきたからな。絆されそうになったぜ。
一期一振達と同じタイミングで話をしていたら、俺はそっちに行っていたかもしれねえ。
…だからこそ、勘違いしちまったんだよなあ。審神者でも、頼めばちゃんと話しを聞いてくれると。悪い審神者だけじゃないと。
正直な所、あっちの俺が折れるまでは前任者への憎しみが強かった。


…けどな、俺は俺が殺された日からどうにも審神者を許せなくなった。
眠れねえ、頭が痛え、憎しみが募る。膨れていく。

三日月に言われた通りだ。俺は、俺の感情を抑えられねえ。癇癪に似た何かを起こしてやがる。
そりゃあ眠れるなら眠りてえ、痛みが取れるなら取りたいさ。

…でも、もう無理なんだ。それをしたらあっちの国広に申し訳が立たねえ。
アイツは俺を守ってた。それを蔑ろにして、俺はあの審神者に俺を殺すきっかけを作っちまった。苦しんで生きてるくらいが丁度いい。

少しだけ、遅かったなあ。
俺だけが幸せになるなんて出来ねえのさ。
俺は審神者そのものが憎い。審神者なんて大嫌いだ。殺してやりたい、本当に殺してやりたい。」


「…満足か?俺は普段の力は出ねえが、これでもこの本丸の刀剣男士の中で練度はかなり上だ。



…話を聞いたのなら、同情して素直に殺されてくれるよなあ!?」



動けなかった。



拘束を解いて、私の首に手をかける彼を見ても尚。
全てがスローモーションに見えて、私は未だ目を瞑った。鼻の奥が熱い。



こんなことってあるの?本当に?



お互いがお互いを想って、心配して、自己嫌悪と後悔で泣いて。堕ちそうになってしまっている。
なんて、なんて、



「…うちにいるの、は、恐らく。

その堀川さんです」




やっとの思いでそれを口にした。


ぴた、と私の首に手をかけていた力が止まる。

彼を救うことができるのは、私でも他の誰かでもない、彼だけだ。






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