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  閑話 酒豪なお方





「ちょっと何これ!!おいしっ!!っかー!酒に合うねーちくしょーっ!!」

「あら、喜んで頂けたようでなによりです。はい追加のおつまみ。トウモロコシの天ぷら。サクサクしてて美味しいですよ〜禁酒されて長かったんですか?」

「もーそうなんだよぉ〜!ほんっっと!!死ぬ以上の苦痛だったね!!
今度の審神者さんは話のわかる人で良かったー!」

「それはそれは、でもお酒はあまり買い置きがなくって…今度いらっしゃる時までには、お勧めの地酒でも買っておきましょうねえ」

「アンタって子はっ…!!ほんと今すぐ契約しちゃいたいっ…!!」


この方は次郎太刀さん、というらしい。

げっそりとした顔で酒を…酒を飲ませてくれない…?と話しかけられて驚きはしたが、豚汁とおにぎりを作るついでで、厨の簡易テーブルにおつまみとお酒を出し、話してみれば随分と気さくな方であった。

お出ししたのはお野菜室に沢山あったトウモロコシで天ぷら。それと私が最近ハマっているマグロの生姜漬けだ。
お安い赤身のサクをサイコロ状にカットして、お酒とみりんと醤油、数枚の生姜を軽く火にかけたものを粗熱を取ってからマグロに浸けておく。
これが簡単で最強に美味しい。白髪ねぎと大葉と一緒に食べるのがおすすめで、この組み合わせが次郎太刀さんのお口にも合ったようである。

あまり晩酌をする方ではないけれど、たまの息抜きで飲む用のお酒があって良かった。
次郎太刀さんはゴクゴク飲みたいのを抑えて、冷えた日本酒を少しずつ味わいながら飲んでいく。その幸せそうな顔はこっちまでほっこりしてしまう。

私はというと、その傍で豚汁用の野菜を煮て、何種類かのおにぎりを握っている。
豚汁は市販の豚汁キットではなくがっつり野菜を盛り沢山にしたい派だ。幸い、我が本丸の野菜事情はとても充実をしている。 あとは煮て、お味噌を入れて完成だ。
おにぎりはおかか、昆布、鮭のオーソドックスなもの。優しく具材を包むように握っていく。
…こんなにのほほんとしていてもいいのだろうか?


「ね、審神者さん。アタシさぁ、アンタが悪い子なようにはどーしても思えないの」


ことり。
空になったお猪口を置いて、次郎太刀さんは私を見た。


「だってそうでしょ?そうじゃなきゃ、あーんなにひどかった加州や長谷部や一期が懐くわけない。アンタはきっと、前の奴とは違う。」

「…そう、なのでしょうか」

「なーに?それともアンタ酷い審神者なの?」

ついつい言葉が濁ってしまうのには理由があった。私は少しだけ苦笑いを浮かべる。


「…少しだけ、悩んでるんです。

今だって、和泉守さんとの交渉を加州さんと五虎退さんと三日月さんに任せてしまっています。
最近、自分が時折とても弱い生き物だと思い知らされるんです。…もっと凄い、いい審神者だったのなら、皆さん無条件で受け入れてくれたのではないかと。」


手のひらにじんわりとお米の熱さが広がる。
火傷をしないまでも、その少しだけの痛みは、何故かとても鋭く感じた。
俯きながら、ひたすらにおにぎりを握る。

こんなことしか出来ない。
みんなを思って待つしか出来ない私は、直ぐに殺されてしまいそうになる私は、とても弱かった。


「…そんな完璧でつまんない審神者、アタシは嫌だけど?」

「え?」

「アンタのいう凄い審神者って、口が上手くて霊力もたっぷりあって、和泉守より剣術に長けた審神者ってことでしょ?
やだよそんな人間味のない審神者!少なくともこの本丸の連中はそんなこと望んでないでしょ

そんな審神者より、アタシは見ず知らずの男に頼まれてご飯と酒を振る舞っちゃうような、お人好しの審神者の方が好きだね!」

「次郎太刀さん…」


あーおいしっ!
そう言いながら、次郎太刀さんはトウモロコシの天ぷらを頬張る。
私はおにぎりを握る手をつい止めてしまった。
暖かい、ホワホワした何かが私を包んだようで、

「……アンタなら、きっとこの本丸を救えるよ。
それはアンタにお酒もらったからじゃない。だからどうか、いつかアタシの兄貴も救ってやって欲しい」


次郎太刀さんは綺麗に笑って、その笑顔はなんだか少し寂しそうだった。






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