#formInput_#

#formStart#




  本丸帰還








誰もいない厨。朝の匂いが清々しいその厨房にわたしは一人で立っていた。腕を組んで、三角巾に割烹着。いつものスタイルである。
目の前には大量のじゃがいもたち。

今日の朝ごはんはもっちもちのパンを作ろうと思う。粟田口の皆さんがじゃがいもを沢山育ててくれたので、それをふかしてとにかく潰す。
片栗粉、米粉、塩を加えてとにかく混ぜまくる。水を加えてまた混ぜる。それを四当分にして、ここでチーズやごま、ベーコンやチョコレートなんかを一つずつの生地にこれでもかー!!ってくらい混ぜ込む。
それをまたちぎって3センチくらいに丸めたら、そこで前回の演練のご褒美として申請した業務用オーブンの出番だ。
200℃のオーブンで15分。これで完成。これがまた出来立てが美味しい。

まさかあの演練のご褒美が施設の充実化になるとは思わなかったけど、お陰で業務用冷蔵庫や農機具、業務用炊飯器に新しい食器や調理器具、それに念願のフライヤーなんかも入手した。今度このフライヤーでドーナツを作ろうかなあ。
おかずはとれたてのキャベツと玉ねぎ、とうもろこしを使ったコールスローサラダにちっちゃめ味薄めの照り焼きチキン。それにオニオンスープとパン。飲み物はお好みで牛乳かオレンジジュース、あったかいお茶を用意した。
朝ごはんは白米派なのだが、たまにはこんな朝食も悪くない。

「主?…って、朝から何作ってんの?なんかいーにおいする…」

「あら、加州さん。おはようございます。申し訳ないんですが、皆さんを起こしてきていただいていいですか?今日は寝巻きで集合してもらって構いません。いつもより30分ほど早いので…
皆さんが起きる頃には丁度焼きたてで、美味しいですよ」

加州さんはふぁ、と欠伸をしながら厨を覗き込んだ。私のお願いにはーいよ、と皆さんを起こしに行ってくださった。
その間に、私はご飯を大広間に運ぶとしよう。

今日は大事な話がある。


_______________


「うっわぁ〜〜っ!!なにこれなにこれー!!おいしそう〜〜っ!!」
「い、いいにおいが、します…っ!」
「ぼく、この甘そうなやつ、食べたいです!!」
「ごま…おいしそう…」
「朝から肉だーっ!やったー!」

ぴょんぴょんと跳ねる乱さんにキラキラと目を輝かせる五虎退さんと秋田さん、小夜さんは静かに頬を染めて、愛染さんはまだ!?まだだめ!?と私を見た。
なんだかここまで喜んでくれると嬉しい限りである。

「おや…今日は、洋食ですか。」
「兄様は和食派ですからねえ、でも、たまにはいいんじゃないですか?」
「俺っちも確かに和食の方が好きだけど、これはこれで美味そうだぜ?江雪の旦那。」

江雪さんはちょっとだけしょんぼりしている。彼は確かに味薄めの上品なお食事が好みなので、心の中でごめんね、と呟く。宗三さんや薬研さんがフォローしてくださっていてとても助かる。
短刀さんが多いと我慢をさせることも多い。今度精進料理の勉強をしよう。

「主さま、お身体の具合は大丈夫ですか?このこんのすけ、先の依頼で何も役に立たず…申し訳ありませんでした…」

そうこうしているうちに、こんのすけさんもいつのまにかやってきたらしい。つんつんと袴の裾を咥えて私を呼ぶ。
最近こんのすけさんは本部に出向くことが多くて、このあいだの演練も一緒に行けなかった。
それはそれでこんのすけさんのお仕事だ。しょんぼりとしているこんのすけさんの前に屈んで、頭をそっと撫でた。

「ふふ、私は大丈夫ですよ?ちゃんと元気です!こんのすけさん。こんのすけさんの朝ごはんもちゃんとご用意しておりますので、どうぞお席についてください」

こんのすけさんはあるじさま、と呟いて。撫で続けていれば少し元気を取り戻したらしい。こんのすけさん用座布団に腰掛けた。

こんのすけさんと話しているうちに皆さんぞろぞろと大広間に集まってきていた。ぼりぼりと頭をかきながら欠伸をする明石さん。朝から今剣さんを抱え上げて広間に登場した岩融さん。平野さんと前田さんもおそろいのパジャマを着てきちんと私の合図を待っていた。
加州さんが手を引いて三日月さんを連れてきたことで、全員集まった。いつもと違い寝巻きでの朝ごはん。すこし違和感を感じながら、私も適当な位置に座る。

「はい、皆さん集まりましたね?それでは、頂きましょう!」

待ちきれない、といった短刀さんたちのためにいただきますを大きな声で言う。いただきまーす!と声が響いて、それを皮切りに皆さん思い思いのパンを手に取った。

…それにしても、たくさん作っておいてよかった。みるみるうちにパンがなくなっていく。やはり皆さんよく食べる。

「さて、食べながらで聞いていただきたいんですが、今日は少しご連絡があります。
先の演練、それに伴う政府預かり刀剣男士の譲渡に関するお話です」

少しぴた、と皆さんの手が止まった。


本丸に帰ってきてから数日が経過した。
その間、私はほぼ寝たきりになってしまって、皆さんへの報告が出来ていない。今日、厨に立ったのもとても久しぶり。
お見舞いに来てくださった皆さんは案の定心配してくださり、時には泣いてくださった。なんで、という言葉を今日という日まで飲み込んでくださっていて、それはとても感謝している。


「皆さん、長谷部さんから私の代わりに聞いていると思いますが、私の口からご報告をさせてください。

政府の依頼によりブラック本丸の審神者を糾弾、政府に受け渡しました。その際、堕ちかけた堀川国広の浄化を行いました。
ー皆さんと同じく、虐げられていた刀剣男士です。
この本丸への譲渡は政府による命令のもので、断ることはできません。ですが、わたしはそうでなかったとしても彼を放って置くわけにはいかないのです。
堀川国広、大和守安定、博多藤四郎。三振がこの本丸にやってきます。堀川国広とは面会し、話をしました。
大和守安定と博多藤四郎とは一切面会をしていません。どういった事をされ、どういった状況なのかも分かりません。…皆さんには、余計な事を持ち込んでしまったこと、本当に申し訳ないと思います。
ですが、どうか、この三振を広いお心で、この本丸に迎え入れて頂きたいのです。」


どうか、お願いします。
そう言って頭を下げる。

この本丸に三振を受け入れたとして、皆さんとの交流は必須だ。わたしのわがままで皆さんの苦労を増やしてしまう、本当にわがままだと、そう思う。
でもどうしても嫌なんだ。もう、充分じゃないか、ひどい思いをするのは。
顔を上げられずにいると、一つ声が降ってきた。



「…その、堀川国広は、幸運でしたね…」




江雪さんの声だ。
和睦を好み、争いを嫌う彼、一番嫌がるかと思っていたのに。
顔を上げ、江雪さんを見る。

「…放置していたら、きっともっと辛い思いをしていた事でしょう…お小夜を看病している時、私は心が張り裂けそうでした。
如何に冷たい布を額に当てても、根本はどうやっても治らない。これを放置していた政府は信用ならない。八方塞がりのまま、この地獄が続くんだと思っていました。

…汗を流しながら、涙を浮かべながらお小夜を救ってくれた主が部屋に来るまでは」


隣に座る小夜さんを愛おしげに撫でる江雪さんはいつもより饒舌だ。
その言葉に、ほわほわとなにかが胸の中で暖かくなるのを感じる。


「争いは…嫌いです。和睦を模索し、足掻く。そんな主だからこそ、我らは心を開いたのです。
余計なことでは、ないのでしょう?ならば、我らがその三振を迎え入れることにどうこう言うのはおかしいのでは…ないでしょうか。」


…ああ、これは、わたしは、嬉しいのか。
私のエゴだと思っていたその行為を、控えめに肯定してくれている。
そのことがすごくすごく嬉しい。
ぎゅっと胸の前で服を握る。ぽかぽかとした何かを離さないように。


「…どう言った経緯でも、安定がこの本丸に来るのは嬉しいよ。っま、あいつとはずーっと同室だったから、今度も部屋一緒になってやろーかなって」
「博多、来るんですね?なら僕、主さまのご飯食べさせてあげたいです!」
「そーだねっ!一緒におやつも食べたいなぁ!一緒にかくれんぼもしたいーっ!」
「お風呂もいっしょに、はいり、たい、です!」
「兄弟が増えるのは、なんであれ嬉しいぜ?」

「…堀川が来るのなら、アイツは元来マメな刀剣です。主の雑務も任せていいかと」
「はっはっは、にぎやかになるなぁ」

「あるじさまがそうしたいのなら、ぼくはだいさんせーですよ!ごあんしんください!」
「俺も異論はない!!飯の取り分が減るわけでもないしなぁ!」

「……僕は、主に、従うよ」
「僕も問題はありません。掃除要因が増えれば僕の仕事も減りますから。」

「……本来なら、危険は避けて頂きたいのですが…」
「……いち兄、空気読まないとですよ」
「お茶、淹れましょうか?」


其々口を開いて出てくるのは、受け入れる言葉たち。
本当に皆さんには感謝である。
再度頭を下げて、ありがとう、と呟いた。




prev next

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -