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  ほりかわくにひろとさにわ





真っ白い部屋にポツンとベッドが置かれている。
刀に戻っていない堀川国広さんは静かに横になっていて、私は車椅子に乗り、それを長谷部さんが押してくださっている。
からからと少し古い車椅子は進むたびに音を鳴らす。堀川国広さんは目覚めていないのか、何も反応はない。

ーー自分の本丸のことを考えるのならば、引き取りを断るのが一番最善の選択。

そんな事は知っていた。
だってまだまだ私はやらなきゃいけないことがそれこそ山のようにある。まだ解決していないことが多過ぎる。

それに更なる問題を持ち込んで、本丸の皆さんは私を許してくれるだろうか。


…でもねぇ、正直嫌なんですよねぇ…


許されなかろうと許されようと、放ってはい本丸に戻りましょう〜〜なんて言える訳がない。
それをして、もし本丸が早く綺麗に和解したとしても、私は必ずこのことを思い出してしまう、あのときのみんなは私が引き取っていたらもしかしたら笑えるかもしれなかったって考えたら、きっと罪悪感に苛まれる。
これは、私の自分勝手なエゴだ。


「堀川さん。起きていますか?」


白い部屋に私の声が響いた。
先ほどまで喋るたびに傷んだ喉はだいぶ回復して、普通に喋ってもすこし痛むくらいだ。
堀川さんはごろん、と、私とは反対方向に寝返りを打った。
後ろにいる皆さんがちゃきっとなにかを用意する音が聞こえる。部屋に入る前になにもしないでね?と頼んでおいたんだけど、無理だったかなぁ。


「堀川さん、聞こえていますか?」
「…起きてないし、聞こえてない。」

二度目の問いかけに、堀川さんは少し苛つきながら言葉を吐いた。
良かった、意識は戻ったみたいだ。



「あなたを刀解する事が出来ないそうです。私の本丸へと来ていただくことになりました。」
「嫌です」
「嫌だと言われても、私も嫌です」
「僕はもう戦えないんですよ」
「戦わなくていいです。ゆっくりしてください」
「…寒いのも、もう嫌なんです」
「コタツもストーブも冬には設置予定です。ご安心を」
「あー…もう!!うるさい、さっさと帰って下さい!」
「帰るならあなたも一緒です」
「…僕の帰る場所なんて、ありません」




「ーーー兼さん≠ェ、あなたの帰る場所ですか?」



私がその名前を口にした瞬間、

堀川さんはベッドから飛び起きて私の車椅子まで私の目では確認できないくらい早くやってきては私の胸ぐらを思いっきり掴んだ。
刀身は政府預かりになっているからか、素手で殴ろうとしたんだろう。
その堀川さんの手は加州さんによって捕らえられ、首元には蛍丸さんの大太刀が当てられている。
私の胸ぐらを掴む手はすごく力が入っていて、堀川さんの目は瞳孔が大きく開いている。

とても興奮状態にあるらしい。ふー、ふー、と息をする堀川さんの様子は、獣のそれだった。


「加州さん、蛍丸さん、助けてくださりありがとうございます。皆さん、刀を鞘にしまってください。」

「でも…っ!!主!!堀川は主を殴ろうとした!!」
「やはり危険です!!政府に任せてここは帰りましょう!!」

口々に心配をしてくださっている声が上がるけど、私は意外と頑固なようで、ここから退く気は一切なかった。

「皆さん、お願いします。」

もう一度。お願いをすると、みなさん静かに従ってくれる。うんうんごめんなさい。今日は皆さんに助けられてばかり。夜ご飯は豪勢にいきますので許してくださいね。

心の中でそう思いながら、堀川さんを止めていた加州さんの手が離れれば、案の定その手も胸ぐらを掴む。
少し苦しい。けど、きっと彼の方が嫌な思いをした。


「…見たの…僕の、記憶…!!」
「浄化をするときに流れてきましたので、記憶の一端だけと思います。

…人間は、そんな簡単に信じられないですよね」


強い拳は震えに変わって、堀川さんは堰を切ったように目に涙を浮かべた。
私を睨みながら、胸ぐらにあった彼の手は私の肩を掴む。ぼたぼたと私の膝に彼の涙が落ちていく。


「ああ、ああそうだよ!!信じられない!!

兼さんが居なくなったのは今日のことだ!!あんたが、あんたがもっと早くに助けてくれたら兼さんは折れなかった!!早く来てくれたら、こんなことにならなかったのに!!
…なんで今日なんだよ!!なんで、なんで、昨日じゃなかったんだ…!!!」


駄々をこねるように私の肩をぎゅうっと掴む。力の入らない手を上げて、彼の手を握った。
とても冷たい。それこそ氷のような、という表現がピッタリなくらい。


「…ごめんね、君のいう通りだ。
もっと早くに気が付けば、兼さん。折れなかったね。全部私のせい。わたしのせいだよ。ごめん。」


体温を分けてあげたい。おんなじくらいわたしの冷たい手は彼を温めるには役不足な手だ。
堀川さんが崩れ落ちる。肩にあった手もわたしの手を掴んで、わたしの膝をタオルがわりにして、嗚咽を零しながら泣き続ける。

ーブラック本丸とは、本当に業が深い。

こんなにも人の悪意がくっきりと残ってしまう。会社であったり、学校であったり、恋人であったりはきっと逃げ道がある。辞めたり、転校したり、転職したり、新しい恋人を作ってみたり。ちがう場所で、人間関係を新しく作って仕舞えばいい。人間に付けられた傷を、人間によって癒すことができる。
でも、本丸にはその逃げ道がない。
だって、主人がおかしくなってしまったら、それまでなんだもの。彼らには主人しかいない。自分を呼んでくれて、霊力を注いでくれた人はこの世に一人だけだ。

主人に従う事しかできない刀剣たちに、どうあれひどい傷を残してしまう。
それは、時が解決してくれるには気が遠くなるくらいの時間が必要なんだろう。



「……ちがう、ちがうんだ、ほんと、は、」



今ここにいる堀川さんは泣いている。
彼を置いていくなんて出来ない。
私は彼の手をぎゅっと握った。





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