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  目が覚めました。









死にたくなるくらいにつらいこと。
そんな事は割と当たり前にあって。私は昔から何故かそんな当たり前のことが嫌で嫌で仕方なかった。
自己犠牲の精神が強過ぎるあまり両親には酷く心配されていたけど、どうにも争いだったりイザコザが苦手で、昔からそれを避けて生きてきた。

笑ってれば、わたしが我慢すれば、それはいつのまにか終わっていて。

それでいいと本気で思っていたし、今もそれは抜けていないのかもしれない。人との関わりの中で、あまり関係が深くなり過ぎると争いの際に中間にいれないから、という理由で始めた敬語は一線を引くための一種の癖のようなもので、いつか直さなきゃ直さなきゃと思っていながらも今まで来ていた。


でもそれはきっといけないことで正さなきゃいけない。
この審神者という職を続けるのであれば尚更。だって私はみんなの主人で、本丸を運営していかなきゃいけない立場になったんだから。

自己犠牲の精神が強すぎてはいけない。ちゃんと自分を大切にしなきゃいけない。



ーと、目の前の光景を見て改めて思った。



「な、にを…なにを考えてんのっ!?
バカじゃん!主が居なくなったら、全部意味ないじゃん…っ!!」


朦朧とする意識の中、一番最初に見たのは加州さんの号泣する姿であった。

後ろには演練に参加していた、顔色の悪いみなさんがズラリと並んでいて。ふかふかのベッドに体を預けながら力の入らない手を加州さんの頬にやる。涙で濡れたその頬を拭うように撫でれば、加州さんはまた目からボロボロと大粒の涙を流した。

力がなかなか入らない。言葉を発したいのに、喉と喉がくっついていて声にならなかった。

私の左腕にはいつのまにか点滴のようなものが刺されている。
…どれくらい、眠っていたのだろう。

白い天井に、小さめの個室。窓もなく、今の時間さえわからないその場所は政府が用意した部屋なんだろうな、とぼんやりと思う。

兎に角目の前の仲間だ。きっと心配してくれていた。加州さんを撫でながら、俯きがちな彼らへ目を向ける。
口パクでご め ん な さ い≠ニゆっくり口を開けば、我慢していたのが崩壊したのかみんなポロポロと涙を零した。三日月さんは相変わらずのほほんとしているけど。

幸せ者だなあ、と呑気に考えるけど、泣かせてしまってはいけない。
…本当に、改めないとなぁ。

倒れないほどの潤沢な霊力があればいいのだけど、流石にそこまでの能力は持ち合わせていない。少しばかり浄化の能力があるだけで、無理をしたらわたしも人間。死ぬのだ。


「あ、審神者さん起きたんですね?お疲れ様でした…本当に。」


皆さんを宥めながら撫で続けていれば、担当さんが気まずそうに控えめに扉をあけてやってきた。
起き上がろうと手に力を入れる。それを阻止したのは泣いている加州さんだった。


「…ごれ以上無理じだら、っぐす、ほんまるから、出られないようにじでやる…っ!!」


真っ赤な目がさっきよりもさらに真っ赤で、すごい鼻声で。鼻水を啜りながら私をベッドに押し戻す加州さんの形相はそりゃもう怖いものだった。
苦笑いがつい浮かんでしまう。そっとベッドに重心を戻すと、加州さんは鼻水をちーんとかんだ。

「いいんですいいんです、審神者さんはそのままで。それで、あの…刀剣男士の皆様方は申し訳ないんですが、その、席を外して頂きたくて…ひっ」


…みなさん、それは良くない。
担当さんが真っ青になるのも無理はない。黙っていた皆さんが一斉に担当さんを見たのだ。私からは表情が見えないけれど、きっと想像通りの顔をしている事だろう。
隣の加州さんは見事に私の想像通りの顔をしていらっしゃる。そりゃあもうやーさんもビックリなお顔だ。

流石に担当さんが涙目なので、やめてあげてほしい、


「み、なさん。少しの間だけ…おねがい、します」


乾いた喉を無理やり抉じ開けるように声を発する。パリパリと剥がれるような気がして少しだけ痛い。
私の言葉にも珍しく俯いて黙ったままの皆さんは、此処から離れる気はないらしい。
うーん、どうしたものか。


「主は席を外す事を望んでいる。嫌がっていても、それを望んでいるのだから我らは席を外すとしよう」

にっこりとさわやかに笑いながら私の願いを叶えてくれた三日月さんは本当に有難い存在である。
ぐいぐいと一人ずつ引っ張って外に連れ出してくれた。

今剣さんはいやですーーあるじさまーーーー!!!と激しく抵抗して、長谷部さんは無言のまま柱をつかみ、一期さんはお説教したい気持ちを抑えてか下唇を噛みながら、蛍丸さんはちらりと私を見て、そして加州さんは泣きながら部屋を後にしてくれた。
それをひらひらと手だけ降ってお見送りする。


部屋が一気に静かになる。




「ほんっっっとぉ〜〜に!!!!ご迷惑をお掛け致しました!!!」



担当さんはその場に崩れ落ちるように頭を下げた。それこそジャパニーズドゲザスタイルというやつである。



…いやいやいや勝手に堀川さんを浄化したのは私ですし、担当さんは一切の責任はない。
私がやりたくてやったことなのだ。
余計なお世話だったかもしれないし、何よりあんなに自分の本丸の皆さんに心配をされておいて更に担当さんにまで謝られてしまったら申し訳なさでわたしが死にたくなる。


「あ、あたま、を上げてください担当さん。わたしは謝られるような事は、一切、されていません。私こそ、勝手をしてすみませんでした。

それより、演練はこれで終わったんですよね?わたし、みなさんの晩御飯をつくらないと、いけないので、本丸に帰りたいんですが…」


辿々しくやっとの思いで言葉を紡ぐ。
そうだ。もう演練が終わって、私の任務も終わったのなら早く本丸に帰りたい。
少し寝てしまったようだし、皆さんも待っていてくれているはずだ。粟田口のみんな、お兄ちゃんが帰ってこなくて泣いていないといいんだけど。それに岩融さんや明石さん、愛染さんも心配していた。左文字の皆さんには晩御飯になめこの味噌汁を作ると約束したし、こんのすけさんにもあぶらげの煮物を、小狐丸さんは今夜ブラッシングの日だ、五虎退さんのトラちゃんたちにもご飯を作らないと。帰ってからもやることがとにかくたくさんある。



「あ、あのう…その件なんですが、その…今回のことでご迷惑をお掛けしたのは重々承知なんですが、あの…」


もごもごと正座をしながら担当さんは口籠る。何か言いたいことがあるようだ。

近くに寄って聞けたらいいんだけど、生憎少しも力が入らない体だ。そのまま担当さんの言葉を待つ。

…これ、それにしてもどうやって帰ろうか。歩けないから、電動の車椅子とか貸してくれないかなぁ。それなら指先だけ動かせばいいだけだし、皆さんの手を煩わせることもない。
そんな事を呑気に考えていたら、担当さんは言う決心がついたらしい。
しゃきんと背筋を伸ばし、すぅっと息を吸った。


「あの、お助け頂いたブラック本丸の刀剣男士を、三振ほどそちらの本丸へと譲渡したいのです!!」

「…あら、なるほど、わかりました」

「もちろん嫌なのはわかってます!!まだ和解していない男士がいる中で、大変なのも重々承知の上です!ですが、どうにもその三振は他の本丸では浄化しきれそうにないのと、政府上役からの直々の勅命でして…って、え?」


これ、一番最初を思い出すなぁ。
へら、と笑って見せれば、担当さんは呆気にとられた顔をした。


「逆らえないのでしょう?でしたら、受け入れさせて頂きます。どの子でしょうか?」

「あ、は、博多藤四郎、大和守安定、…堀川国広。この三振、なんですが。」

「了解致しました。それではその子たちも一緒に本丸に帰ります。事情は先方も理解していますか?」

「…はい、堀川国広以外の二振は刀に戻り、本丸にて再度鍛刀して頂く形になります。堀川国広だけは審神者様のお陰で手入れも必要ありませんでしたので、意識が戻り次第刀に一度戻そうと…」

「でしたら、堀川国広さんとは刀に戻る前に一度お話をできたらと思います。車椅子はありますか?面会をさせてください」

「は、はい!!ご準備致します!!!!」


話がとんとんと進んでいく。
鍛刀の必要があるのは厄介だ。わたしは一度、鍛刀も許可なく行わないと鶴丸さんに約束してしまっている。鶴丸さんと一度お話しして許可を得ないといけないなぁ。
いい加減彼とは話さないと、と思っていたし、ちょうどいい機会かもしれない。早速明日にでも部屋の前に行ってみよう。


「主!!そんな簡単に面会をされるのは危険ではありませんか!?」
「ちょっ…長谷部!!入るなって言われてるでしょ!?」
「はせべ、ずるいです!!ぼくもー!!」
「はいはい、今剣はこっちねー。」


バタバタと担当さんは車椅子の準備を始め、痺れを切らした外で話を盗み聞きしていたらしい皆さんが部屋に入ってきた。声を大にして乗り込んできたのは長谷部さんだ。


後ろでは長谷部さんを止めようとする加州さんと、同じく乗り込もうとする今剣さん。そしてそれを抱っこして止める蛍丸さんが見える。
長谷部さんが制止を振り切ってずんずんと私のベッドへ歩み寄る。
手を掴まれたのは、すぐのことだった。


「お考え直し下さい。我が本丸にこれ以上堕ちかけの刀剣が増えれば、主の負担が増えます。どうか…っ!どうかもう、俺から主を奪わないでくれ…っ!!」


少し手が震えている。

…ああ、よかった、私は彼に認められることが出来たようだ。

まだ、きっと怖いだろう。私のことが、審神者のことが信用できるわけがないのに、それでも私の心配をしてくれる。
わたしに希望を持ってくれる。有難いことである。
長谷部さんの手を握り返して、笑った。


「…なら長谷部さん、一緒に来てくださいますか?

貴方がいればわたしは安心して堀川国広さんとお話しすることができるでしょう。だって長谷部さんは、必ず私を守ってくださるでしょう?

今日の演練だけで、貴方は沢山の私のお願いを叶えてくださいました。本当に助かりました。
どうぞこれからも、私の刀として助けてください」


長谷部さんはこれでもかと言うくらいに目を見開く。
震えた手の指先は段々と温かくなっていった。少しの沈黙、それから、

「…主、俺は、へし切長谷部、と言います。主命とあらば、何でもこなしますよ。」



桜が舞う。ひらひらと。


わたしの手を握る長谷部さんを見てか、待ちに待って痺れを切らした今剣さんは蛍丸さんの制止から逃げ出し私のおなかに抱きついて、それをきっかけに一番隊の皆さんはぞろぞろと部屋に入ってくる。

…新しく刀剣男士が増えることは別に望んでいるわけじゃない。だけど、どこにもいくところがないのなら、せめて我が家のようになれればなと、強く思った。




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