#formInput_#

#formStart#




  わたし、このひと、きらいです








「お前らの!!お前らのせいだ!!お前ら何故やられた!!あんな審神者を初めて数ヶ月のような奴らに!!このっ…このぉ!」

「もう、もうやめて!!主、博多が折れちゃうよ…っ!!」
「五月蝿い!!お前も黙ってそこに立っていろ!!1人ずつだ!!

それにしても何故っ!!お父上に頼んで弱い奴を当ててくれるよう手配していたのに…っ!!クソォ!!」


相手の審神者の控え室。そこにわたし達は来ていた。外にまで聞こえているその声は、案の定であった。…うるさいなぁ、本当に。
プライドが高い彼が、こんな名も知れていない新任審神者の部隊にボコボコにされて黙っている筈がない。


「…一期さん、加州さん、少し、お願いをしてもいいですか?」


もうみなさんにはあらかたの事情を説明してある。静かに皆怒っていて、協力をしてくれるとのことだった。
こいこい、ともう歯をくいしばる彼らを手招きして耳打ちする。それは彼らをここから離す為でもあった。

私のお願いに、俯き頷く二人。


「…助かるよ主、俺、この場にいて正気でいられる気がしない」
「申し訳ありません、私も、です。」


わたしがここにいて欲しくないだけ、その本心を隠し、走って私のお願いを叶えに行く彼等を見送って、残った皆さんと扉の前に立つ。
ここからは、どうなるか正直わたしにも分からない、分からないけど、泣くことすらできないでいる彼等を放っておくことはどうしてもできなかった。


扉を開ける。
ノックなどしない。


その場に広がっていた光景は、想像していた通りのものだった。


「(なんて、最悪な、)」

涙を浮かべながら審神者の腕にしがみ付く殴打痕のある大和守さん、胸倉を掴まれ、だらんと腕を投げ出す、頭を殴られたのか意識がないのは、博多藤四郎さんだった。

大倶利伽羅さん、鯰尾藤四郎さん、加州さんに堀川さんは壁側に一列に並んで、その光景をただ眺めていた。その顔はみんな真っ青で、動きたくても動けない、そんな表情をしている。


審神者はというと、とても怒っているのかふー、ふーと息を荒げながら突然入ってきた私を睨む。


「…何を、しにきた。」

「逆にお尋ねしましょう。貴方は、何をしているんですか?」


予想をしていた通りの展開ではあるが、それでも実際に目の前に広がればそれはとても残酷であり、許されてはいけない事であり、私がこの世で一番嫌いな事だった。

人が、人を蔑み下に見て、それを傷付ける。
ーなんて醜い、なんて愚か。
人それぞれの価値観がある中で、私は人を無遠慮に傷付ける人間が心から嫌いである。
心なしか表情が無くなっていくのを感じる。本当は、こんな感情になりたくなかった。


「長谷部さん、主命です。例の物を。

蛍丸さん、博多藤四郎さんと大和守さんを医務室へ、今剣さんは後の四人を私の控え室に。三日月さん…は、この場が和むので笑っててください。」

「はっ、主からの主命、この長谷部喜んで」
「はーい、もう運んじゃっていいんだよね?」
「みなさんこちらですよー!ごあんないします!」
「はっはっは、茶菓子でもあればのんびりと眺められるんだがなぁ」


私からの言葉でそれぞれがそれぞれ行動する。三日月さんだけはのんびり屋さんだからそっと微笑んでいてもらう事にした。
長谷部さんは渡しておいた縄を懐から取り出すと、迅速に彼をぐるぐると拘束していく。
蛍丸さんは軽々と二人を担ぎ上げ、部屋から出ていく。今剣さんも同様に誘導を開始した。

「何をする!?離せ!!私は貴様らなどに捕らえられる謂れはない!!」

「少し黙れ、本来なら貴様のような穢れたもの、触れたくはないのだが主命とあらば仕方がない。」

長谷部さんは意気揚々とどこか誇らしげにそういえば、完了したと同時にこちらを振り返った。ありがとうございます。と褒めておく。
何が起こっているのかわからない彼は、兎に角私を睨むのみだ。私は彼の前へと歩みを進める。


「ねぇ、貴方は知っていますか?この部屋には監視カメラが設置されていることを。
そして、この行動に出る事を知っていた事を。

先程、貴方が去って行った後。
私の端末に一通の通達が来ました。
簡単に言えば
演練対戦相手本丸No.328564の審神者は、政府でも手を焼いている政府規定違反本丸予備軍である、それを演練終了後拘束し、該当刀剣男士を浄化せよ≠ニのことでした。

要は、貴方を拘束するのは私の一存では無く、政府からの指示という事です。貴方の処罰は政府が追って行う事でしょう。」



バタバタバタとドアの外から足音が聞こえる。
加州さんと一期さんに頼んで、担当さんを迎えに行ってもらっていたのだ。
興奮していた彼もやっと状況が分かったのか、一気に顔が青ざめていった。


…なぜ、新米審神者である私がこの役に選ばれたのか?


それは至極簡単な事であった。

この審神者はある政府の高官のご子息であり、希少な呪具などを用いてバレないように工作しながら刀剣達を痛めつけていた。

沢山の刀剣たちが折られ、今はもう一番隊の六振りしか本丸にはいないらしい。そして、それが堕ちかけであり、私の本丸とひどく状況が似通っており、順調とは言えないまでも刀剣男士と和解しつつある私に浄化の任務と、この審神者をフルボッコにして決定的証拠を抑える任務が与えられた、というわけだ。

高官の息子とはいえ、大した戦績も収めない審神者に政府は容赦なかった。…そうだよね、仕事をしないで痛めつけることに快楽を覚えるドラ息子なんて、お父さんにとっても出世の邪魔になる要素だもん。


呪具の使えないこの控え室に入り、いつものように起動していると思っていた人払いの結界も作動していない中で、彼はまんまといつも通りの行動に出た。

今日参加している他の本丸が全て手練れであり、一番隊で参加が義務付けられたのは、お前らはこうなるなよ≠ニいう意識付けの意味合いもあったらしい。見せしめ、と言った方がいいかもしれない。
この部屋の監視カメラの映像、そしてこれから彼が捕まり罰を受ける様は全て録画され、これから全本丸に送信される。
もう、私の本丸のように練度が高い刀剣たちを敵に回すことは政府としてもやりたくはないようだ。


それにしても、まんまと乗せられてしまった。
最初にこの任務を言われていたら私は絶対に断っていた。
…あの虐げられている刀剣男士を見て、私が断れない状況になったのはきっと政府の策略な気がする。


はぁ、とため息をついて、久し振りに会った担当さんに彼を引き渡す。


「このようなことになってしまって、申し訳ありませんでした…私も今朝方聞きまして…」
「いえいえ、担当さんが謝ることではありません。彼らを助けることができるのなら良かった。因みに、浄化というのは何をすれば良いのでしょうか?」
「あ、はい!きっと審神者様に触れて頂くだけで、ある程度の浄化は完了すると思います!後は政府の保護施設へと連れて行きますので、ご安心を!」

申し訳なさそうに頭を下げる担当さん、久し振りに会ったから、もっとフランクな会話をしたかったけど、状況も状況だ。それはまた今度の楽しみにとっておこう。
浄化の手順によっては夕飯は簡単なものでいいかなぁと思っていたけど、成る程、触るだけで良いのか。それならば夕飯のトンカツを揚げる時間も確保出来そうだ。

私は、自身の控え室に足を運んだ。





prev next

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -