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  早く終わらせて帰りましょう



演練会場、というものはとても広くてびっくりする。刀剣男士同士が戦うための広々とした空間に、演練観戦をするときの審神者用のベンチ、そして演練参加者が観戦をする為の席。形的には昔でいうコロッセオ、ってやつなんだろうか。

わたしたちの出番は1時間後。初めての演練相手は名前も知らない(私が周りの審神者に対して疎すぎるだけな気もするが)中年の男性だった。
先程、受付の横にある大きな電光掲示板で対戦発表がされたとき、わざわざ挨拶に来てくれたのだ。


「今日は宜しく頼むね」

膨よかな体型をした、金色の和服に身を包んだその中年の男性の、男性にしては柔らかいふっくらしたその手を握手として握った時、なにかとてもゾワっとした。

…この人、何か、気持ち悪い?

そんなことを思いながらも私自身にっこりと笑みは絶やさない。手を握っただけで寒気が起きるなんて、気付かれでもしたら後が恐ろしい。


「はい。新人ですので先輩から少しでもお勉強させて頂ければと思います。どうぞよろしくお願いします」
「おや、今日は手練れの審神者しか呼ばれていないはずだよ。それこそ有名な朝霧や疾風馬なんかも参加している。まぁ私もそれなりな歴だがね。
君は審神者歴、何年なんだい?」
「いえいえ、年も行っておりません。数ヶ月前に審神者になったばかりです」


わたしがそう言うと、相手の審神者さんは一拍おいて目を見開き、次には馬鹿にしたように笑った。

「はっはっは!!
私も舐められたものだなぁ!!こんな新米を私の対戦相手にするなんて!政府もなにを考えているんだか…まぁでも、久し振りにS勝利を頂けそうでありがたいよ」


嘲笑う彼の笑みは人を見下しているような、
それこそ高キャリアの男性と話す時によくありがちな表情で、昔をひっそりと思い出す。
あぁ…上司にいたなぁ、こんなの。ひどいパワハラ大王で、真面目に働いている女の子の頑張りをさも自分の功績のように自慢げに飲み会で話していたっけなぁ…

こういうのは本当はそっとしておいて、視界にも入れないのが一番なんだが、どうやらそうも行かないらしい。
後ろに控える我が本丸の皆さんは今にも抜刀しそうに睨んでいるんだろうな、と雰囲気でわかる。チャキって聞こえるの怖いので、皆さんやめて下さいね?落ち着いてね?の意味を込めて片手を上げた。

私がバカにされている分には別に構わない。うちの本丸の男士たちは被害を受けていないし、私が気にしなければ良いだけだ。
そんなことより、気になるのは、彼の後ろに控える刀剣達。

6人、私の知らない刀剣男士達が控えているのだが、様子が少しおかしい。
ビクビクとしていて、視線は泳ぐ。微かに震えているのか、俯き気味にキョロキョロと落ち着きない。私の後ろのこいつ絶対殺すマンたちが怖いのかな?とも思ったけど、どうやらそうでもないらしい。


「あ、主。そろそろ行かないと…」

1人の刀剣男士が彼に声をかける。
上機嫌でペラペラと私をバカにし続けていた彼は、ぐりんと振り返るとひどい形相でその子を見た。それこそ鬼のような、般若のような。


「…あ"ぁ?安定貴様、誰に意見して…

……失礼、それではお先に失礼する」


電光掲示板を見ると、私達もそろそろ準備をしなければならない時間が近付いていた。
んっんっー!と咳払いをする審神者さん。

なにが、おかしい?

違和感がありそんなことを感じながらも、私の気持ちなど知らず彼はその場を後にした。
しん、とその場が静まりかえる。その沈黙を破ったのは、加州さんだった。


「……なーーーーにあれ!!すっごいムカついたんだけど!?主!好き勝手言わせておいて良かったの!?」
「危なかった…主の合図がなければ抜刀しているところでした…」
「あるじさま、いまからでもおそくはありません、ぼくならあのおとこのくびをもってかえってこれます。ぜひごめいれいを」
「…我が主を侮辱した罪、計り知れませんな」
「んー、俺はあんまりアイツに興味ないけど、主がやれっていうならやってくるよ?どうする?」


プンプンと怒りながら彼がいた場所を指差す加州さんに続くように、みなさん口々に不満を吐露する。長谷部さんは頭を冷やすかのように手を当てながら、表情を殺し無表情で呟くのは今剣さん。静かに眼光鋭く怒っているのは一期さん。もぐもぐと先におにぎりを食べながらコテン、と首を傾げ聞くのは蛍丸さんだ。
みなさんどうにも契約してからというもの、私という人間に過保護な気がする。
苦笑いを浮かべ、私は人間のこういったマウント取りには慣れているので大丈夫ですよ、と告げるが、内心彼の刀剣男士のことは気になっていた。


「主や、今回の演練は、本当に我らに演練参加をさせる為だけのものなのか?」


魔法瓶に入れてきた暖かいお茶を飲みながら、三日月さんは微笑む。
その一言に、その綺麗な笑みに全ての答えがある気がした。
私は政府から支給された携帯端末を懐から取り出す。一通のメール通知が来ていた。その内容に驚き、皆さんを見る。


「三日月さん、大正解でした」


さて、演練の開始である。




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