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  閑話 あの本丸マジでやばくね?








今日の演練はいつもと何か違った気がした。



審神者歴四年。一般人よりは適性があったくらいの俺は、なかなか慣れないながらも一定数の刀剣男士はレベルカンストまでいき、男士達との関係も良好、報酬もある程度は貰っていて文句はない。

少し言いたいことがあるとするならば最近は家に帰れていない。
俺は金に困って志願して審神者になった側なので、知っていただろと言われればそこまでであるが、現世に残した家族のことを思えば少し胸は締め付けられた。だがこれも仕事。早い所歴史修正主義者との闘いに決着を付ければいいだけの話だ。

演練は、別次元に作られた特殊演練場にて行われる。いつもは大体週に一回のペースで審神者同士の親睦も兼ねて練度上げしたい刀剣男士達を連れてくるのだが、昨日こんのすけから急な演練要請があった。
その内容は、第一部隊の刀剣男士達を連れて演練に向かうこと。

そろそろ行こうと思っていたし、丁度いいのだが、第一部隊ご指名が少し気になる。そのせいか今日は演練場がザワザワと落ち着きなかった。


演練場受付前に設けられた待機スペース。
ここは色々な審神者が思い思いな時間を演練前に過ごす場所。革張りのソファが並べられ、飲み物やドーナツやバナナなんかの軽食も設置されている。

俺はソファに座りながら、自軍の第一部隊の面々と演練開始までの時間を過ごしていた。

俺の第一部隊は隊長山姥切国広、大倶利伽羅、太郎太刀、燭台切光忠、鶴丸国永、加州清光だ。


俺の隣にはまんばが控え、朝飯を食ったはずの鶴丸はもぐもぐとドーナツを食べ、光忠に口を拭かれている。我が本丸一の慣れ合わないぜボーイ大倶利伽羅はソファに座り目をつぶり、太郎太刀と加州はなにやら楽しそうに話し込んでいる。
俺の刀剣男子達は割と俺に対して気軽な方だと思う。
どこぞの本丸では主以外座らないとかのルールがあったりするらしいけど、俺はそーいうのめんどくさいと思ってしまうし、一般の出だからか気恥ずかしい。


「あー疾風馬さんこんにちは!あなたも急に呼ばれたんですか?」


明るい声に振り向く。
さ、と書かれた懐紙で顔を隠した審神者、仲のいい朝霧さんだ。
声からして若い女性だが、彼女は審神者歴10年の大ベテラン。なんでも10歳の頃から適性を見出され審神者をやっているらしい。


「こんにちは、まさか貴方のようなベテランまで呼ばれているとは思いませんでしたよ。」
「あはは!あたしは歴が長いだけですよ!それより聞きました?
ー今日、あたしらが呼ばれた理由!」


ケラケラと楽しそうに笑いながら朝霧さんは俺の隣に座る。
朝霧さんとこの刀剣男士は先ほど言った通り、主至上主義、まさに軍隊のような本丸で、後ろの隊長で初期刀の歌仙兼定は座ることなく主の後ろに控えていた。

主の許可なく喋ることはなく、俺も朝霧さんとこの刀剣達と喋ったのは数回、それこそ数えられるくらいだ。
朝霧さん自身は俺たちみたいに気軽にフレンドリーにしたいそうなんだが、霊力が強く発する言葉にも言霊みたいなものが乗ってしまう為に刀剣男子達には命令のように伝わってしまう、らしい。
霊力が強いのも難儀なものである。


「俺たちが呼ばれた理由?なんですか、それ」

「今日来てんのはあたしらベテランと、疾風馬さんみたいに歴は短くても戦績優秀な審神者、第一線で戦う政府にとってランクAの本丸連中ばっからしいんだけど、

疾風馬さんさ、つい最近捕まったあのブラック本丸覚えてる?」

「…あぁ、あの立ち上げ当初の審神者不足から政府に無理難題を強いられていたとかいう審神者ですか。
あの部隊、俺戦ったことありますけど刀剣男士達が勝たなきゃ死ぬって感じの形相で演練に出てくるんでうちの部隊の連中が引いてましたよ」

「あの部隊めちゃめちゃ強かったよねー!怪我してる子でさえ強くてさー!あたしの部隊もぼろ負けしたよ!
…そのブラック本丸、引き継がれたんだって」
「…まさか、今日来るんですか?」


つい最近の話だ。
本丸内に一通の通達がやってきた。


内容はブラック本丸の存在、その本丸の審神者の名前、それに対する政府の対応、刀剣男子達の処遇。


正直、やっぱりあの審神者はおかしかったのか、と思った。

実のところあの審神者と初めてこの演練場であった時、狂気を感じていた。
この場であっても仕事を手放さず、刀剣男士達はどこか暗い目をしていて、怪我も多かった。
だが演練となるとあの本丸の刀剣男士たちは強かった。
戦術に長け、練度もさる事ながら連携もうまかった。そして、酷く必死の形相で戦っていて、その時だけは仕事を辞めて観戦していたあの審神者は勝ちを収めても無表情であった。
…刀剣男士達に対する、隠しきれていない憎悪。それは刀剣男士達も同じで、お互いがお互いを憎んでいた。



「あの子達が、引き継がれてそう簡単に絆されるとは思えないんだけどねえ…」

朝霧さんはぽつりと呟く。

あの本丸の刀剣男士達がされてきた仕打ちは全て通達に書かれていた。…俺ならば、人間すべてを呪うほどの所業。神に行うには烏滸がましい所業の数々。
どんなに優秀な審神者であったとしても引き継ぎは不可能な筈なのだ。
もし、その引き継いだ審神者が刀剣男士達をコントロールできなかったとしたら?そのままこの演練会場に来たとしたら?
考えただけで恐ろしい。だから、この面子で第一部隊なのか。と納得する。



その時だった。



ゲートが開かれる。
受付前にいた審神者全員がそのゲートの方へ一斉に顔を向けた。



「…あら、こちらで合ってるのかしら?皆さん久し振りのゲートで気分が悪くなったりしていませんか?」

「お気遣い、感謝致します主!

ですがこの長谷部、初めての主よりの主命でゲート酔いするなどのヘマをする様な失態は決して起こしません!!」



…この場にいた、全員が目を見開いた。


のほほんとゲートから出てきたのは審神者服の上から割烹着を着た、顔は至って平凡で優しそうな女の審神者。
ー空気清浄機か?というぐらい、一気に清浄な澄んだ空気が辺りに広がるのがわかる。

それにあの長谷部は、本当にいつぞやに無表情な審神者の側にいたボロボロの長谷部か?いつだって泣きそうに顔を歪めていた、あの。
頬を染めて審神者に言い寄るその姿は目を子供のようにキラキラとさせていて、女の審神者はその姿を見て優しげに笑いながら髪を空くように撫でた。


「…ほんと、さっきまでピーピー泣いてたの嘘みたいだよね」


「演練ひっさしぶりー。ねえ主、ドーナツとかお菓子置いてあるんだよ〜あとで食べよ〜?」
「あら、本当ですね。うちでもドーナツ作りたいですし、お味の参考にひとつ頂きましょうか」
「あるじさまはどーなつまでつくれるのですか?すごいです!」


呆れたようにため息をつく加州と女の審神者の手を握ってぐいぐいと引っ張り軽食を指差す蛍丸。今剣はピョンピョンと可愛らしく跳ねる。

俺の知っている2人は、いつも中傷、それ以上の怪我を負っていて、演練になれば出陣か?と勘違いする程、獣のように襲ってきた2人だ。
あの今剣は初めて見たが、審神者に懐いているのが一目で分かった。


「主や、俺は茶が飲みたくなってきた。この任務が終わったらとびきり熱いのを頼むぞ」
「おや、そういった要望が許されるのであれば、私はこの間淹れて頂いたほっとちゃいなるものを飲みたく」

「あらあら、喉乾いちゃいました?煎茶とホットチャイ入りの水筒を持ってきていますから、受付を終えたら淹れますね。」


三日月、宗近。

天下五剣の一振であるその刀剣男士の瞳の三日月も嬉しそうに揺らめき、さらにその隣の一期一振も言葉に便乗する。


審神者に甘えている。あの、二振が。

隠しきれないほどの審神者への憎悪を感じた二振だ、信じられない。本当に信じられない。


ここにいる全審神者が驚いていた。

受付へと足を運ぶ最後の一行は知っている本丸であり、知らない本丸であった。
気が抜けるような優しい笑い方をするその審神者は、長谷部や加州には姉のように、三日月や一期一振には母のように、蛍丸や今剣には祖母のように、その刀剣男士達を慈愛の目で見つめていた。

隣の朝霧さんを見れば、朝霧さんも同じように俺を見ていた。きっと気持ちは一緒なはずだ

「…ねえ、」
「はい、」




「「バケモンだよね/ですよね、あれ…」」




同じ言葉を同じく発する。

膨大な量の霊力、そしてあの澄んだ気配は話に聞くところの浄化力だ。
浄化力と霊力は決して同じではない。浄化力がある審神者は霊力が高くなく、また逆も然り霊力のある審神者は浄化力も少ない。
俺なんかはどちらも微々たるものであるし、それを理解してどう本丸を運営していくか、研究に研究を重ね、努力で戦績を収めている。
朝霧さんのところは霊力が膨大にあるが浄化力はない。男士達が間違っても堕ちないように最大限の気遣いをしている。


ーあの審神者は、なんだ。


異質。その一言だった。
受付をしている審神者の刀剣男士達はその間にぎゅるり、と凄い勢いでこちらのスペースを警戒していた。
まるで、主に何かしたらお前らも殺す。そう言っているような視線だ。

通常、刀剣男士達は別の本丸であっても審神者に手を出すことはない。そう政府で思考を操っている筈だ。
だがあの刀剣男士達はどうだ。まるで、まるでそんなものないかのようじゃないか。



「さ、受付終わりましたよ〜〜、あちらのスペースは空いているところなら好きに使っていいそうです!少し演練開始まで時間があるようですし、お茶をしましょうか」

主人である女審神者がくるりと振り返るとすぐに殺気をしまい刀剣男士達はニコニコと嬉しそうに笑う。



「どーなつ!どーなつたべましょうっ!」
「今剣ずるい〜!おれもっ!」
「主、それ気になってたんだけど何持ってきたの?やたらでっかいバスケットだよね」
「あ、これは皆さん演練を終えたらお腹空くかなぁと思って。人数分のお茶と、唐揚げと、オニギリです。」
「今剣、蛍丸、今すぐドーナツ食べるのやめて」
「やめました」
「やっぱ演練終わってからたべるのがいいよね」



先程までの人を殺しそうな目はどこにいったのか。朝霧さんも俺も、今日はしながら演練開始を待つ。
どうか、この本丸とだけは当たりませんようにと願いを込めて。



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