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  迷子の長谷部さん






「こちらがはせべのへやですよ、あるじさま!」


今剣さんは部屋を指をさしながら私の手を引く。
後ろには岩融さんが控えていて、2人ともばっちり戦装束だ。

禍々しい気配は相変わらずなこの刀剣男士の部屋周辺、長谷部さんの部屋は比較的私たちの生活ゾーンの近くにあった。
加州さんの一件から学び、今剣さんの手を握りながらここまでやってきたが、やはり誰かに触れているとそこまで穢れにやられる事はないようだ。ぽかぽかとした陽だまりのような今剣さんの手を再度きゅっと握った。

あのあとこんのすけさんに聞いたところ、どうやらわたしの霊力はまだ本調子で戻ったわけではないらしい。
なので、大丈夫だった穢れにも敏感に反応してしまうとか。加州さんの部屋から生きて帰ってこれた事はすごい事だ、とこんのすけさんにもとても凄い勢いで心配されてしまった。
この本丸の皆さんに完全に信頼されるようになるには、わたしには力もまだ足りないようだ。精進しなければならない。

本当なら演練のメンバーもあちらの打ち解けてくださっている皆さんから選ぶところなんだろうけど、少しでも多くの方と打ち解けなければ意味がない。

とんとん、と襖を叩いた。


「長谷部さん、こんにちは、審神者です。お願いがあって参りました。開けても良いでしょうか?」


沈黙。岩融さんが開けるか?開けるか?と、そわそわしながら今にも開けそうに襖に手をかけているけど、ジェスチャーで静止する。




「……さにわ、さま?」




中から小さな声がした。
刹那。

「さに、わ、さに…わ…審神者、審神者、審神者さま、審神者様!!…新たな、主!!!


あぁ、あるじ、貴女を主と呼んでもいいのですか!?」


小さな声はだんだんと大きくなり、彼は襖を思いっきり開けた。パンっと大きな音がする。
私を目線に入れるや否やその勢いで縋り付くように私の頬を思いっきり掴む。ボロボロとその目からは大粒の涙が浮かび流れている。
初めて会う方に突然こんな風に縋り付かれるのは初めてで、いきなりの事で目を見開いていると、後ろと横の護衛の2人の行動は早かった。

短刀を抜刀して逆手に持ち、長谷部さんと思わしき方の肩に乗って首元に刀を向ける今剣さんにわたしから剥がそうと岩融さんは長谷部さんの頭をその大きな手で思いっきり掴む。先程までワクワクしていた2人であったが、私に触れたことによりなのか殺気がダダ漏れだ。目付きはまるで飢えた獣のようで、内心ひやっとする。


「はせべ、あるじさまにたいするぶれいはたとえあなたであれどゆるしませんよ。そのてをはなしなさい」
「すまんなぁ、長谷部殿。この方に害を成されるわけにはいかんのだ。許せ。」

そんな怖い2人に挟まれながらも、長谷部さんは私の顔を離さない。意に介さないといったように私の顔を眺める長谷部さんの涙は止まらない。…うーん、修羅場である。


「あ、あの、皆さん落ち着いてください。今剣さん、岩融さん、私の心配してくださったこと、とても嬉しく思います。ありがとうございます。ですが、長谷部さんは本丸の仲間です。どうぞ怒りを鎮めて下さい。

そして長谷部さん。私は逃げません、どうか手を一度、離して頂けないでしょうか。」


ですが、と口を挟む今剣さんに、ね?と子どもに諭すように笑いかける。渋々、嫌々といったように短刀を鞘に納めてくれた。いい子だ助かる。
岩融さんも主がそういうなら従おう!とパッと手を離した。…あとは長谷部さんなんだけど、長谷部さんの手は変わらず私の頬を包んでいる。少し、カタカタと震えながら。
もしかしたら、彼も長くここに居たせいで穢れが溜まって必要以上に悲しい気持ちになっているのかもしれない。
ちらりと横目で彼のいた部屋を見やれば、山積みにされた書物と、黒い禍々しい淀み。


「…ちょっと、ここでは落ち着いて話が出来なさそうです。岩融さん、お願いできますか?」
「承知した!」


どうやら私のことをそこまで嫌っていないらしい長谷部さんなので、連行しよう。

岩融さんに長谷部さんを担いでもらう。


長谷部さんは泣き止まず、顔からやっと手が離れたと思えば私の着物の裾を握っていて、どこか迷子ではぐれてやっと母親を見つけた子供のようだった。




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