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  担当さんをお助けします







「主ぃ〜、ちょっと塩加減見てくんない?」


今日も晴天、朝からお味噌汁の香りが厨に溢れる。
後ろでは短刀の皆さんがお茶碗を運んで、お兄ちゃん達は朝ごはんのメインである目玉焼きと納豆、焼いたベーコンともやしの塩昆布和えを運んでいた。カリカリに焼かれたベーコンがなんともいい匂いである。
今日の朝ごはんお手伝い当番隊長の加州さんは今初めてナスとミョウガのお味噌汁を作っていて、不安そうにお味噌汁の入った小皿を差し出した。

「…うん、とっても美味しいです!素晴らしい!百点あげちゃいます!」
「ほんと?よかった。じゃ、これで運んじゃうね」

出汁は簡単な顆粒のもの、お味噌も定番のマルコ●であるが、ナスとミョウガを少しのごま油で炒めてからお湯を投入している。そこから丁寧にアクを加州さんがとっていたのを後ろで見ていたので、なんとも味噌汁にしては手間がかかった逸品だ。
笑いながら親指をぐっと立てれば、加州さんは照れ臭そうに笑った。

今日の朝ごはんは私は一切手を出していない。
皆さんではじめて作ってくれたのだ。
主さまには一番美味しそうにできたやつ!と、短刀さん達が競って目玉焼きを焼いている姿はとても可愛らしく、私は自分でもわかるようにすこし気持ち悪い顔でニヤニヤしながら後ろ姿を見つめていた。お兄ちゃん達も然り、私から見てもニヤニヤと微笑ましく見つめていたのを知っている。
結局、初めてで卵が割れてしまったり、殻が入ってしまったものが殆どであった。でも頑張って作ってくれた、その事がとっても嬉しい。

なぜ私が朝ごはんを作らなかったか、それには少しだけ理由がある。
それを言い出してくれたのは加州さんだった。

【主、最近夜なんか仕事してるでしょ。
それであんな早く起きてたら死んじゃうよ。俺らでも朝ごはんって作れない?】

本当に涙が出そうになった申し出であった。
そうなのだ、最近多くの刀剣男士と和解しているためか、政府からの要求も多くなってきた。

出陣と鍛刀は免除されているものの、刀装作成や解体、刀剣男士達の現状を纏めたレポートなどを提出しなければならず、夜、眠るのが遅くなることが多くなりつつあった。

私自身そんなに苦にも感じていなかったのだが、体は少しづつ悲鳴を上げはじめていたらしい。…朝あと30分だけでも寝られたら。そう思いはじめていた時の申し出だった。
加州さんはそういったことにとても敏感に反応してくれる。
肌荒れにはすぐ気付くし、主の手荒れが酷いからとこんのすけさんにクリームを頼んでいたり、本当に私より女子力が遥かに高いのだ。
なんだか、失礼だとは分かっていながらも少しお姉ちゃんが出来たような。

そんなこんなで、今日ははじめて皆さんに朝ごはん作りをお願いした次第である。


「主!!目玉焼き、俺が一番うまく作れたんだぜ!早く早く!」


とん、と腰に抱きついてくるのは愛染さんだ。おや、意外な子が上手く作れたようだ。愛染さんといえば少しやんちゃで、こういった作業は苦手だと思ったのに。
ぐいぐいと手を引かれる。私がしみじみと考えているうちに朝ごはんの支度ができたらしい。

「う〜〜!明日こそ!僕が主さんの目玉焼き作るんだから〜〜!」
「オイオイ、明日もやるんなら俺っちも参戦させてもらうぜ?」
「薬研はダメっ!絶対勝つの分かってるもん!」

ああ、成る程。今や一番料理が得意な薬研さんは参加していなかったのか。そりゃそうだ、薬研さんが作れば一番上手く焼けるに決まってる。
歪な目玉焼きが並ぶ中、私の席には少しだけ、ほんの少しだけ焦げた目玉焼き。…私は本当にこういうのに弱い。
これをこの子達は私のために一生懸命作ってくれたのか、焦げていたって生だってそんなの、食べるに決まっているじゃないか!!

「愛染さん目玉焼きありがとうございます。本当に嬉しいです、大好きです、ありがとうございます」
「…へへっ、主、髪ぐちゃぐちゃになっちまうよ」

目頭を押さえながら愛染さんを撫でる。
撫でくり回す。
照れながらも嬉しそうな愛染さんはなんて可愛らしいんだろうか。蛍丸さんと明石さんもすごく微笑ましそうに見守っている。残念そうな短刀さん達と、弟が作ってくれた事に感無量なお兄さん達。なんともしあわせな食卓である。


すとん、と座り皆さんと頂きますをしてからご飯を食べ始める。
美味しい。目玉焼きおいしい。久しぶりに食べたそのよくあるごはんのおかず達は、初めてなのによくできていた。
皆さんで焼いてくれたベーコンの塩加減もちょうどいいし、目玉焼きはしっかり半熟の部分が残っている。
それに加州さん作のお味噌汁の中のナスは口の中でジューシーにジュワジュワと出汁を出す。人に作ってもらうご飯って自分で作るより何倍も美味しく感じるのはわたしだけ?


……あ、そうだ、幸せで忘れそうだった。あたたかな気持ちで朝ごはんを頂いていたが、忘れないうちに聞かなければならないことがあったんだ。


「ここにいない方で、練度が高い方はどなたですか?
急ではありますが本日練度70以上の刀剣男士を演練に参加させよとの通達が昨夜ありまして、どうやら断ることが出来なさそうなんです」



ピタッと皆さんのご飯を食べる手が止まる。

昨日、寝る前に担当さんからお久し振りに電話があった。ほぼ半泣きで。


【ほんっっとぉ〜〜に!!申し訳ないんですがっ!明日の演練にそちらの本丸の一番隊だった方に参加して頂くことは出来ないでしょうか!?前々から演練くらいは、と上から言われてはいたんですが…流石にまだ…いや分かってるんです!無理ですよね!?いやでも一応聞くだけ!刀剣男士の方に聞くだけ聞いて頂けませんか!?お願いします出て頂けたらわたしのボーナスは消えなくて済むんです〜〜!!もう旅行の予約しちゃってて、ボーナス当てにしてたのでなくなったらやばくて…いや、ダメだったら大丈夫です!!すいません!!】


とのこと。どうやら私たちを庇いすぎてボーナスが消える危機らしいのだ。

担当さんには今まで影でかなりお世話になっている。そして現在進行形でもお世話になりっぱなしだ。鍛刀をしなくてもいい期限を延ばしてもらっているし、出陣もしなくて済んでいるのは彼女のおかげ。
せめて冬季休暇の旅行くらい無事に行って頂きたい。もう皆さんが嫌がったらわたしのポケットマネーから…と思ったのだが、手入れの際に全て資材と手伝い札にしてしまったので雀の涙程しか預金がない。出来れば出て頂けたら、正直助かる。


「え、演練なら我等が出ましょう。ご安心ください、短刀たちの練度は低いですが、我等はある程度の練度があります。」

一期さんは止めていた手を再開して、パクパクと目玉焼きを食べ進める。それ以上は言わせないと行った雰囲気だ。


「ですが一期一振殿!政府の要求は合計練度350以上の刀剣男士なのです!最低でも加州殿、蛍丸殿、三日月殿の他にもう1人は一番隊の方に同行をお願いしないと政府要求は満たされません!」


相変わらず彼だけは油揚げ定食なこんのすけさんは、私の横でもぐもぐと食べながら口を挟む。ピシリ、と固まる一期さん。
こんのすけさんの発言で更に場の雰囲気がピリッとしたような…


「ふむ、長谷部辺りを連れて行くと良いんじゃないか?」

それをのほほんとぶち壊したのは三日月さんだった。

「…っまた!三日月殿!!」
「あー、でも適任じゃない?俺らからは大太刀の蛍丸と、俺、鶴丸、長谷部が今残ってる一番隊だったし。…まぁ堀川と安定はいないけど」


一期さんの不安そうな声を遮るのは加州さんだ。堀川さんと安定さん、というのはきっとわたしが来る前に折れてしまった二振りの事。こんのすけさんから事前に折れてしまった刀剣は聞いていた。
堀川国広さん、大和守安定さんもその中の一員だ。


「あ、気を使わないでよね主。

俺今更どーこういうつもりないし、今本丸が良くなっていってるのが嬉しいから。
それより演練ってある程度勝っといた方が主人の評価も上がるんじゃない?それだったらやっぱ一番隊にいた奴多く連れてった方がいいよ」

加州さんは私の気持ちを察したのか、ケロッとそう言い放つ。本当は辛いはずなのに、なんて近侍の鑑のような方なんだろうか。あとで助言のお礼を考えなければ。

長谷部さん。お会いした事はないが、どんな方なんだろう?
鶴丸さんを連れて行くのはきっと無理だと思う。一番私のことを嫌っていて、拒絶しているのは彼だから。それをわかっていて三日月さんは彼の名前を挙げなかったんじゃないだろうか。


「では、長谷部さんにお願いをして参ります…が、この間のようにサッサと行くのはダメですよね?一期さん。」

「…………………

…はぁ、せめて、護衛をお付けください。」

確認するようにそう言えば、一期さんは長い長い沈黙の後渋々と溜息をついた。
よし、この間みたいに心配をさせるのは申し訳ないもんね。


「ありがとうございます。それでは護衛をお願いできる方いらっしゃいますか?」

「はいはーいっ!ぼく!ぼくいきたいでーす!!」
「俺と今剣が主の護衛をしよう!任されよ!」


「はい、それでは今剣さんと岩融さんですね。皆さんお騒がせ致しました。蛍丸さんと三日月さん、加州さんはご飯のあとに演練に行く準備をお願い致します。
さ、ごはん再開しましょう!」

ぱんっと手を叩いた。一斉にご飯を食べ始めるあたりみなさん最初に来た時より食いしん坊さんになった気がする。







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