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  あいされたがりを愛しましょう








「…ねぇっ!主!主はさ、何色が似合うと思う!?今度は主人の好きな色に塗るよ!朱は嫌いだった?ねぇ、なにが、いいかなぁ。」


目の前の加州清光さんはニコニコと笑っていたかと思えばボロボロと泣き出したり、感情の起伏がとても激しい様に見えた。
やっとの思いで加州さんの膝から起き上がったと思えば、背後から抱える形で抱きしめられ、ボロボロになった爪を見ながら色の相談をする。


「加州清光さん、わたしは、朱が貴方には似合うと思いますよ。」


…心から、手入れの交渉をしたい。痛そう。すごく痛そう。
ボロボロになって痛いはずなのに、彼は意に介さずたまにガリガリと爪を引っ掻き、噛もうとする。なので、今はそっと手を握っている状態だ。


「ねぇ、加州清光さん。この部屋から出ませんか?
一回、わたしのお部屋に行きましょう。大事なお部屋なのは重々承知ですが、加州清光さんには清潔にした部屋に行って頂きたいです。」

「主の部屋?
うん!行きたい!!久し振りに!」


顔も、声も、性別すら違うはずだ。
違うはずなのに、加州清光さんは前任者とわたしを重ねて見ている。

それが彼とわたしを繋いでいる唯一のものなのであれば、蔑ろに否定してはいけない気がした。
否定もせず、肯定もせず。兎に角この部屋は早急に出て行かないといけない。穢れと淀みが酷く残っていて、この部屋にずっと居たらわたしはきっと先ほどの様に恐怖に支配されてしまうだろう。

今大丈夫なのは、加州清光さんに触れられてから、この薄い膜のようにわたしの身体を守っている加州清光さんの加護のお陰だ。
でも、弱っている加州清光さんがいつ加護を辞めるかはきっと彼自身も分からない筈。
ならば、自分の部屋に行き、浄化を少しずつ施し、正気になって頂くことがいいと考えた。
加州清光さんも乗り気で、まだ歩けないわたしをにっこりと笑いながら抱き上げる。
傷だらけの筈なのに、そんな力があるのか。と少しびっくりだ。


「なんか、初めて会った時のこと思い出すね。主ってば夜が静かで怖いとかでさぁ、俺の布団わざわざ自分の部屋に持って行って、ここで寝ろ!主命だ!って涙目で…。おばけなんて、居るはずないのにね。

ねえ、主。覚えてる?夜何回もトイレに起こされてさ、肌荒れるから寝かせてって言っても今度は頼む!って俺に頭下げて…なんか、あれ面白かったなぁ。

ねぇ、主。朝ごはんなんて俺作れないから、主頑張って作ってたよね。なんか、甘いやつ。とーすと、ってやつに、砂糖かけただけの、美味しいやつ。あれ今度また食べたいなあ。

ねぇ、主。燭台切と歌仙がくるまですんごい大変だったね!うちの本丸ご飯すらまともに食べられなかったし。
でも俺、卵かけご飯?とかいうのがなんだかんだで一番好きかも。日本人は米だーとか言ってとーすとやめてご飯炊き始めてさ、でもご飯なんか炊いた事ないから水加減分かんなくてべちゃべちゃで、何これお粥!?って笑ったよね。

ねぇ、主。そうそう!主って手入れ下手なのどうにかなんないの!?なんか手入れされる度にすっごいくすぐったかったんだよ!審神者なのに手入れ下手なのはダメじゃん!どうにかしてよ!
薬研も和泉守も堀川もみんなくすぐったいって言ってたよ!言ってるの俺だけじゃないんだよ!


ねえ、主。ちゃんと最近は家族と連絡取れてるの?なかなか連絡くれないって、この間文をちらっと見ちゃったんだ。家族って俺には分かんないけど、大切にしなくちゃいけないものなんでしょ?面倒くさがるのもいいけど、ちゃんとしなよね。」


一歩、一歩。自室を出て、加州清光さんは廊下を歩く。

ギィギィと音を立てながらゆっくりと、前任者とわたしを重ねては思い出を話す。
そうか、最初は、そんなに暖かなものであったのか。と改めて再認識する。

思い出を話す加州清光さんはすごく優しい声で、優しい表情で、すごく幸せそうだった。

きっと、前任者は頑張ったのだ。
そして、刀剣男士たちもそれに応えようと頑張った。
前任者の行った行為は、決して許されるものではない。悔いて、悔いて、後悔しても許せない。許されてはいけない。
でも、それでも、少し何かが違ったらそれは違う結末を迎えたんじゃないか。
たらればなんて考えてはいけないと分かりつつも、ついつい考えてしまう。



…ねぇ、主。

うちの本丸って、こんな、綺麗、だったっけ……?」


加州清光さんの歩みが止まる。

廊下を抜けて、みなさんが掃除して下さっている綺麗になった本丸に立ち尽くしていた。

空気が違う。緑が生い茂り、つやつやと太陽に照らされて光る。爽やかな風に身体がどんどんと楽になっていくのが分かる。それに比例して、加州さんの力はどんどんと抜けていった。
わたしは加州清光さんの手からスルリと抜け、代わりに彼を抱き止める。
側から見れば抱きしめあっているように見えるのかもしれないが、小柄とはいえ彼も男性。男性が体重をかけて寄りかかるととても重いと言うことを身に沁みて痛感する。


「あ、れ、」


それでも耐えなければならない。
今、恐らく加州清光さんから煙のように出ている黒い穢れこそ、彼を可笑しくしている原因だ。
わたしの力が強いこの区域であるなら、恐らく浄化も出来るだろう。ぷるぷると震える腕に力を入れる。がんばれ、がんばれわたし。と呑気にも考える。


「ぶぁっはっは!!子鹿のようだなぁ!主!!よくまあそんな細い腕で加州を支えているものだ!なに、この俺が加州と主を運ぼう!」
「あるじさま!ごむりはいけませんよ!ごあんしんください、いわとおしはちからもちです!ぼくはなにかおてつだいすることありますか?」



救世主。現る。

支給した内番服に三角巾、ハタキをもった岩融さんと、ちりとりを持った今剣さんが突如現れ、背中から支えてくれた。


「ものすーっごく助かります!お二人とも、ありがとうございます…!

では、岩融さん。加州清光さんをわたしの部屋に運んで頂いても良いですか?
それと加州清光さんの血を拭いて差し上げたいので、今剣さんはお湯を張った洗面器と手拭いを持ってきて頂けると、とーっても助かります…!!」


任された!と軽々と加州清光さんを俵担ぎする岩融さんは本当に力持ちだ。触れていると浄化は早まるのは先に手入れさせて頂いた皆さんで実証済みなので、担がれた加州清光さんの手をそっと握る。
今剣さんは物凄い速さでお湯と手拭いを持ってきてくれた。そりゃあもうすごい速さだった。

それにしても、わたしの身体はどうなっているんだろう?
加州清光さんの部屋を出た辺りから少しずつ楽になり、今はもうピンピンしている。朝となんら変わりない状態まで戻った。
加州清光さんの部屋にいた時は凄い罪悪感と恐怖と羞恥に襲われたというのに、それが嘘のようだ。
穢れ、淀みなら初日から触ってきた。でも、あんなにも酷くならなかった。

…あとで、こんのすけさんに聞いてみよう。

今はわたしなんかのことより加州清光さんだ。岩融さんに抱えられる頃にはすっかり意識もなくなっていた。
わたしの自室に入り、加州清光さんが寝ているのを確認すると、岩融さんと今剣さんはまだ掃除の途中だから、と掃除に戻って下さった。今日はわたしはお掃除が出来なさそうだから、とてもありがたい。
わたしの布団に取り急ぎ寝て頂いた加州清光さん。顔まわりや手、足先なんかの血を拭っていく。

長いこと、放置していた血は中々取れない。でもこれ以上放置するわけにも行かない。手入れをすれば綺麗になるのはわかっているが、手入れを受け入れてくれるか分からない。ならば血だけでも綺麗にしておきたい。



円を描くように優しく拭う。
彼は、まだ起きる気配はない。







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