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  前任者、とは。















「あーるじっ!今日俺、誉取ったよ!」
「そうか、それは良くやったなぁ加州。少ない刀剣男士達を率いて、第一部隊の隊長も務めながら、良く働いてくれている。さぁさぁ、褒美は何が良い?新しい爪紅か?」
「ふふっ、まだこの間貰ったのがあるから大丈夫。でも、褒めて欲しいなぁ。頭を、撫でて欲しいなぁ」
「…そんな事で良いのか?加州は欲がないんだな」

声が高く、恐らく若い男の人。加州さんは彼の腰に抱き着いた。顔は懐紙で隠していて見えず分からないがその落ち着いた口調からしてわたしと同じくらいの年齢なんじゃないだろうか。そのまま頭に手を置く。
加州さんはニコニコと笑っていて、その男の人もなんだかとても、幸せそう。


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「えー!主、お正月にも帰れないのー?向こうに家族とかいるんでしょ?」
「ああ…一応恋人とも久し振りに会えると思っていたんだが、どうやらこの間の新刀剣男士を入手出来なかった事が査定に響いたらしくてなぁ。まぁ手紙はまだ許可されているし、また今度の休みに帰ればいいから。」
「…そっか、なら、いいけど…
じゃあ正月は皆で宴を開こう!ぱーっとさ!燭台切におせち頼もうよ!」
「そうだな、燭台切の飯は美味いもんな。」


政府からの通達の文を広げながらその男性は苦笑いをした。
果たして恋人や家族にどれくらい会えていないのか。わたしには判らないが、加州さんは酷くその男性を気遣っている様に見える。


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「主!最近働きすぎじゃない?そんなに根詰めて働かなくても…」
「ああ、でも、今度の休みは家に帰りたいんだ。手紙も禁止されてしまったから、向こうの様子が分からないし、恋人とも連絡が取れないから心配で」
「…政府も凄いことするよねぇ。三日月宗近を鍛刀できない本丸は戦争に従事している覚悟が足りない。現世との関わりを分断する。なんてさぁ。主が可哀想だよ。」
「……まぁ、な。その為に仕事を頑張るさ!」

加州さんは男性と膨大な量の書類を書きながら、呆れた様に溜息をつく。この量の書類は少し多すぎる気がする。なんの報告書なんだろう。
その男性は笑いながらも少しだけ、疲れている様子だ。少しだけ空元気なようにも見えた。


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「また、任務…今度はなんだ?金子補充か?戦力強化か?新刀剣男士か?早く第一部隊を出陣させろ。第二、第三、第四は遠征から帰ってきてるだろう?あいつらももう一度資材を集めに行かせるんだ。鍛刀の為の資材がまだまだ足りない。手入れならこの間したばかりだろう。早く、早く」
「…でも、主。皆疲労が溜まってるんだ。今行っても、まともな戦果はあげられないよ。それに、第一部隊は前回の出陣で折れかけの刀がいるんだ。」


「…本当に、お前らは役立たずだなぁ」


机に突っ伏し、ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリと異常な速さでガラスペンを一心不乱に走らせながら、加州さんには目もくれず男性は書類をこなす。ぺらり、と紙が撒かれて足元のそれを見れば内容が少し見える。
反省文、と書かれたそれは任務をこなせなかった事によるペナルティだったらしい。
そんなもの、任務にあっただろうか?少なくともわたしは説明を受けていないし、知らない。
前回より多くの書類、もとい、原稿用紙が彼の周りを埋め尽くしていた。加州さんの表情は、固い。



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「加州。知っているか?」

前回より顔色が良さそうな彼は、加州さんに上機嫌で話しかけた。

「ん?なーに主。」
「審神者を辞めるには、刀剣男士から嫌われて、政府に審神者の資格無しと定められるしか方法が無いそうだぞ!でも、やっと辞める方法を知ったんだ!!やっと、やっとだ!!
今日、演練相手と茶をしながら話したんだ。ちゃんとやめたやつもいるんだってさ!ふふっ!辞めれる!それだけで、審神者を辞められる!!」

「……なにそれ、主は審神者を辞めたいの?」


「ふ、ふふ、ふ。ははは…

そんなの、当たり前だ!!辞めたいに決まっているだろう!!!!俺はどれだけ自分の人生をこの国に投資すればいい!?16の時から此処に来た。親元を離れてから約7年だ!!7年の月日がこの場所に閉じ込められる事で終わってしまった!!高校にも行けず、当時付き合っていた彼女とも別れた!!俺の若い楽しい時間はどんどんと奪われていく!お前らの、お前らのせいだ!!お前らのせいで俺は帰ることが出来ないしお前らのせいで彼女も去った!!父親と母親と妹ともう何年会っていないと思う!?友人とも会えない!!俺だけが取り残されていく!!お前らは神とは名ばかりの化け物だ!俺を閉じ込める化け物だ!もう嫌だ!もう嫌なんだこんな生活!あるじ、あるじとお前らは呼ぶが俺は、俺の名前がある!多少見目の麗しい男に好かれてもなんにも嬉しくない!俺は男だ!何故こんなにも辛い思いをしなければならない!俺は修行僧でもなんでもない!テレビもゲームもない、携帯も禁止、漫画もない!!こんな休みも無ければ仕事ばかりの禁欲生活もう、耐えられない!!」


男は堰を切ったように言葉を乱雑に発する。
顔を隠していた紙を乱雑に引き裂いて、涙を浮かべて加州さんを酷く憎悪の篭った目で睨みつけた。
わたしが想像していたより彼はずっと子供であり、ずっと幼かった。

それからは断片的に映像が流れる。
声は聞こえない。ただただ、虐待の限りを尽くすその男性が映し出されていた。



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ぱっと目を開く。


回転式遊具に500回は乗せられたんではないかと言わんばかりに脳味噌はわたしの頭の中をぐるぐると回っていた。シェイクされたような、そんな気分だ。
体に力が入らない。起き上がることが出来ず、横たわったままチカチカとする視界に瞬きをする。ーー目の前には、先程あんなに怖かった加州清光さんの姿があった。どうやら膝を貸してくれているらしい彼、今は、全くと言っていいほど恐怖心がない。
見上げて視線を合わせれば、わたしに気づいた加州さんはニッコリと笑った。

「おはよ、あるじ。気分はどーお?」
「…あ、だいじょうぶ、です。加州さん。その、わたし、あなたの記憶を…」


「もー、いつの間にかいなくなっちゃうからビックリしたよ。ね、主。俺、今日誉取ったんだ。爪紅はこの間貰ったばかりだけど、どこにもなくて…だから、新しいのが欲しいなぁ。」


見てしまった、と紡ぐそれより前に。
まるで先ほどの記憶をなぞるように、わたしの頬に手を当てて加州さんは真っ暗な瞳でそう言った。








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