#formInput_#

#formStart#




  閑話 手入れを終えて 粟田口







「審神者さんに、お礼をしたいよね!!」


綺麗になった粟田口の部屋でそう言ったのは、仁王立ちで兄弟の前に立つ乱藤四郎だった。凍って腐っていた手や目は綺麗に治り、服も彼ならではのフリルが揺れる。
前までの粟田口の部屋は、血が多く付着し、柱も前任が暴れた跡で傷が沢山ついていた。
襖や障子も破け、布団などははじめから用意されて居なかった。

あの、手入れの日。

審神者が放った霊力と浄化の力は、普通ではなかった。鶴丸国永は、普通なら無謀。無茶だと分かっていて全員の手入れをしろと命じたのだ。
生身の人間が生命力全て出し切っても賄えない手入れの筈が、それをこなし、更に審神者の怒りと勢いで膨らんだ霊力は、本丸全体をも包んだ。本丸すらも、手入れされたかのように、刀剣男士の血や汚れは一掃されたのだ。ーーーそのせいもあり、審神者は今現在眠っているわけだが。

残った埃やゴミを片付け、布団をこんのすけから支給されれば、あっという間に今まで体験してこなかった普通≠ェ刀剣男士達に現れた。
手入れから起きた時は戸惑い、どうしていいのかも分からなかったが、自分の中に溢れる優しさ、あたたかな霊力にはとても安心する。
横を見れば、あの傷だらけだった兄弟は傷一つないし、なにより折れたと思っていた五虎退は元気でいるのだ。それだけで、粟田口の短刀達は元気を取り戻した。
それを与えてくれたのは、紛れもなくあの審神者だった。

「んー、でもなぁ…俺っち達はまだ審神者さんと契約すらしてねぇんだ。霊力を補充するったって出来ねぇし…それは契約した小狐丸や五虎退、三日月の旦那がやってる訳だろ?
俺っち達ができることと言ったら、毎日の見舞いくらいじゃねえのか?」

「…でも、審神者様は、僕達を死にそうになりながら治してくれたんですよね…。たしかに何か起きた時に、お礼はしたいです…」


現実的に話すのは薬研藤四郎だ。現に、今粟田口で審神者の力になれるのは契約している五虎退くらいであった。
契約した刀剣男士が、審神者の近くにいて世話をする事で、自然と霊力が審神者に移る。とこんのすけは言う。
それを聞いた契約済み三振りは、それを口実に審神者にべったりだった。
小狐丸が髪を拭き、顔を拭き、体を拭き着替えさせる。五虎退と三日月は代わる代わる添い寝をしていた。


羨ましい!!と、思うのは助けてもらったからか、あの心地良い手入れのお蔭か。


秋田藤四郎は薬研に続いて、言葉を話す。口を縫われていた彼は言葉を発するのはとても久しぶりだった。へにゃり、と頬を染めて話す彼もまた、どう見たってまだ見ぬ審神者にゾッコンだった。


「審神者様に、千羽鶴を折るのはどうでしょう??」
「お見舞いの定番ですね!でも、折り紙がないです…どこからか調達出来れば良いんですが…。」
「そーだっ!最近お庭にお花が咲いてるよねっ!あれを摘んできて、審神者さんのお部屋お花でいーっぱいにして可愛くするのはーっ?」
「オイオイ、審神者さんが花粉症だったらどうすんだよ」
「んー…喜ばせたいけど、難しいです…。」


「前田、平野、乱、薬研、秋田。
なんだか楽しそうな話をしているね?」

「あ!いち兄!いち兄もなんか考えてよ!審神者さんへのお礼!!」

「ふむ…審神者殿への礼、ですか…」


襖を静かに開けて入ってきたのは、粟田口の兄である一期一振。一期は審神者が倒れた後、本丸内の清掃をしている。こんのすけから支給された初めて着る、内番服を着て。

審神者への罪悪感を、一期は胸いっぱいに抱えていた。

折れた筈の五虎退を直してくれて、自分じゃどうもできなかった弟達の手入れをあんなにボロボロになりながら行ってくれた審神者には勿論感謝した。だが、それだけじゃない。
審神者の部屋で、審神者の手を握った時の事。
三日月宗近が触れて直ぐに契約を行った意味が分かったのだ。
ーー枯れている筈の審神者の霊気が、ほんの少し伝わるだけで、自分の中の穢れが勝手に溶けていった。
憎悪、恐怖、そんな感情が洗い流され、審神者の感情が内側に入り込んでくる。


どうか、しあわせで。と


こんなにも酷い目に遭いながらも彼女はそう思っていたのだ。手入れをさせた刀剣を憎む事なく、自分達の幸せを祈ってくれていた。
…それだけで、とても満たされたような気がした。
過去の記憶は拭うことが出来ない。一期一振が一期一振で有り続ける限り、忘れはしないだろう。

でも、五虎退は帰ってきて、自分が切り落とした平野の足は治り、薬研の手と足を固定していた釘は抜け、腐りきっていた乱の目は戻り、前田の酷い火傷は治り、秋田の閉ざされた口は解かれた。

もう、審神者を、彼女自身を憎む理由は一つ足りとも一期一振にはなかった。
それ故に、今までの態度や対応に、罪悪感を感じて居た。


「審神者殿は、料理がお上手だそうだ。
食べる野菜を本丸で育てたいと言っていたらしいから、これからちいさな畑を作ろうと思っていた。みんな手伝ってくれるかい?」

起きたら謝ると決めている。それまで、審神者が望んでいたことを叶えてしまいたい。それが、今一期一振が掃除をする理由だった。

そして、掃除以外にプラスαの新たな事をしようとしている。そんな一期一振の提案に、粟田口短刀は、笑った。









prev next

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -