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  閑話 手入れを終えて 今剣



しとしとと、小雨が降る。
雫が汚れていないのなんて、いつぶりなんだろうか。三条の短刀である今剣は、縁側に座り空を見上げていた。
ー心地良い、とても清々しい気持ちで。
息を吸い込む。何もなかった庭には、樹や草が生い茂っていた。湿った土と、その草木の濡れた匂いがとても気持ちが良い。

痛かった。顕現されてから、とても痛い事や悲しい事ばかりだった。岩融と会えたのは嬉しかったけど、それよりも辛い気持ちが優った。三条の刀達はいつもどこか暗い目をしていて、今剣はそれを見るのさえ辛かった。
目を閉じれば鮮明に思い出す。同胞の血の匂い。自分の、血の匂い。


「おや、先客か。」
「こんにちは、みかづき。」

のほほんと縁側にやってきたのは天下五剣が一振り、最も美しいとされる刀、三日月宗近だった。今剣が知っている三日月は、どこか冷たく、どこか寂しそうな刀であった。
こんなに優しい目をする刀剣であったか。


「身体の調子はどうだ?」

今剣の隣に腰掛ける三日月宗近は、以前の暗い目をした三日月宗近とは全く違って穏やかな霊気に満ち溢れていた。あのかたの、おかげだろうか。


「…とても、きもちがいいです。
ていれされてるときに、あのかたのれいきがはいってきました。とてもあたたかく、とてもすんだれいきが。
みかづき、しっていますか?あのかた、ずっとないていたんです。なきながら、もうだいじょうぶとこえをかけつづけながら、ていれをしてくれました。

わたしが、まもると。にんげんなのに。
ぼくはあのかたにあいたい。あのかたがどんなめをしているのか、どんなこえなのか、どんなかたなのか。それがしりたいんです

…はやく、おきないかなぁ」


審神者が床に伏してから、約4日が経過した。審神者部屋には手入れされた来派や粟田口が代わる代わる審神者の部屋にやってきては、眠る審神者の部屋を離れようとしなかった。左文字も、遠くから部屋を見つめている。
今剣も、然り、そうだった。
座っている縁側からは審神者の部屋がよく見える。日がな一日、その部屋を眺めていた。

三日月宗近は微笑み、今剣の頭を撫でる。


「そうか。ならば、主には早く起きて貰わんとなぁ。俺も、まだ主に願いを叶えて貰っていないのだ。茶菓子や茶はこんのすけから渡されたが、俺は茶の美味い淹れ方を知らんのでな。主が起きねば茶も飲めん」

「…ぼくらをたすけて、いまねむってらっしゃるんですよね。
ねえ、みかづき。あのかたは、ぼくらをうけいれてくれるでしょうか。
…ぼくは、あのかたをあるじさまとよぶきょかをいただけるでしょうか」


審神者の部屋を見つめながら、少し頬を染める。その様子は正に恋い焦がれている少女のようだった。


今剣は、怖かった。自分達のせいで体を壊し、眠り続ける審神者が自分達を受け入れてくれるのか。自分達の記憶を知って、尚。
本当は、粟田口のように毎日朝から晩までお見舞いと称して部屋の近くに居たかった。来派のように、眠る審神者の手を握りたかった。小狐丸や五虎退、こんのすけのように、眠る審神者の世話をしたかった。

でも、拒否されたら?起きて、怯えられたら?

前任の審神者にお前はいらないからこんなに虐げられるんだよ、と殴られながら言われたことのある今剣は、それが怖くて怖くて仕方なかった。


「はっはっは、今剣よ。
あの主は、お前が思っているより存外お人好しが過ぎる所があるぞ?お前を治すために、あの鶴丸に物申し、怒る岩融を説き伏せ、己がどうなろうと手入れを行なった。
ー主に、触れてみるといい。眠っていても、主は主ということがわかるだろう。彼奴らのようにな。」


三日月宗近が目配せするのは、せっせと掃除に精を出す刀剣男士達だった。
岩融や左文字兄弟。一期一振は審神者の買っていた清掃道具を使い、本丸の清掃を隈無く行なっていた。
眠る審神者の手を握り、審神者の霊力、気持ち、すべて感じ取り、審神者が起きた時に喜ぶ事がしたいと率先してやり始めたのだ。
あの、堕ちかけだった一期一振でさえも、だ。
本丸の刀剣男士たちはあの一件以降、あの審神者ならと、審神者を認めつつあった。手入れされていないものも、ソワソワと落ち着きがない。

まだ手入れ以降、怖くて触れたことのない審神者の手。
今剣は意を決して立ち上がる。下駄を履き、庭の風船葛に手を伸ばし、取った。お見舞いにするつもりだ。

「みかづき、ありがとうございます!ぼく、あのかたのところへいってきます!」


今剣は小走りで向かう。いとしいあのかたのもとへと。
雨はいつの間にか上がり、太陽が顔を出し始めていた。







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