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  第一次お手入れ大戦争2






今剣さんを抱き抱えた大きな神様と共に、手入れ部屋に入る。襖を開けていても、むわあと漂う、血の匂い。大量の資材と手伝い札と共に、こんのすけさんが控えていた。
一気に治したいところだが、手入れは4人ずつからしか出来ない仕組みらしい。

「如何に主様の霊力が多くても、この人数の連続手入れは不可能でございます!せめて、2日に分けて行わないと、最悪の場合…っ!」

こんのすけさんに事情を説明すれば、ワタワタと慌てながら説得された。
首を横に振り、研修で習った手順で手入れを始める。
こんのすけさんも、もう言っても無駄だということを悟ったのか、横に控えてくれた。

後ろから手入れを見つめるのは、左文字の兄弟刀2名。大きな神様。五虎退さんと小狐丸さん、そして、一期一振さん。
ふぅ、と息を吐き、手入れを開始する。



ー長い、戦いのような手入れだった。


1人目、愛染国俊さん。
手入れの最中に愛染さんの憎しみが身体中を包む。前任の方にもう過度な出陣はやめてくれ、頼む。と、頭を下げて交渉する愛染さん。単騎で阿津賀志山を回り切れたら、出陣を辞めてやる。下卑た笑いの前任の口元が見え、そこで意識が途絶えていた。

ーこの子は兄弟が自分より傷付いていたのを知っていたのか、だから庇ったのか。

2人目、明石国行さん。
突然居なくなった愛染さんを探す姿が見える。その姿すらもう重傷だ。皮膚は裂け、骨は折れ、歪な方向に曲がっている。真っ赤な血は歩くたびに滴る。
前任を問い詰めると、阿津賀志山に行っている、と言われゲートへと向かった。
重傷の愛染さんを見て、明石国行さんの心が折れる音がした。元々重傷なのも相まって、愛染さんを抱きしめ部屋に籠る姿は、とても悲しかった。

3人目、蛍丸さん。
2人を守るべく、部屋の前で番をする姿が見える。前任はそれが面白くなかったのか、引き摺り部屋へと連れていく。
犯し、嬲り、そして、術で縛って痛めつけた。事が終わればぐちゃぐちゃになった蛍丸さんを抱え、来派の部屋へと投げ捨てる。それでも起き上がり、部屋の番をした。2人を守るために。
憎悪。憎悪。憎悪。蛍丸さんは来派の中で、一番人を憎んで居た。

4人目、小夜左文字さん。
お兄ちゃん2人と楽しく笑う姿が見える。ーああ、前任は、人の幸せがとことん嫌いだったらしい。兄から貰った柿を大事そうに食べる小夜さんを、突然思い切り殴打した。
また、部屋へと連れて行く。鮮明な映像は分からないが、痛い、痛い、辞めて、やめて、やめて、やめて、ごめんなさい、ごめんないと繰り返す言葉が頭を支配する。


ーー4人終え、その段階で汗と、涙と、体の震えが止まらなかった。血の気は引き、寒気さえする。グラグラグワングワン平衡感覚が失われて行く。それでも、正座する足を殴り、叱咤した。

「こんのすけ、さん」
「あるじさま、あるじさま。ここに。こんのすけはここにおります」

「4人を、お布団に。無いようでしたら、新しいものを買って下さい。そして、次の4人をお連れ下さい。」

気持ち悪さに支配されながらも、本体に寄せて居た目線を上げ、肉体の4人を見る。
ああ、よかった。4人は綺麗に治ったようだ。それだけでとてもほっとする。治したばかりの五虎退さんのように、すやすやと眠って居てくれている。
後ろでお小夜っ!と左文字兄弟が声をあげるのが聞こえた。…本当は、あなたたちも治したいんですよ。

5人目、今剣さん。
酷く気持ちが悪い。ぐちゃぐちゃとした下品な音が聞こえる。これは、先程言っていた毒の握り飯を食べた直後だろうか。前任は、苦しむ今剣さんの目の前で、店屋物の弁当を美味しそうに食べていた。

6人目、乱藤四郎さん
ごぽっと水に入る音が聞こえた。冷たい。とても。氷だろうか?頭を掴まれ、氷水の中に思いっきり顔を押し込まれる。前任は、とても楽しそうに笑っていた。凍傷になっている体に、更に氷をつける。なんと、なんと酷い。

7人目、秋田藤四郎さん。
笑っているのが嫌だったのか、笑顔の彼の口を針と糸で縫いつけた。そんな彼を殴り、蹴る。愉快そうな前任が見えた。

8人目、薬研藤四郎さん。
兄弟達に手入れをしている。止血帯を貼り、化膿止めを作っている。そうか、彼があの手当てをしていたのか。激怒した前任は、釘で彼の足と手を固定した。


8人目が終わった。
皆綺麗で、呼吸も安定している姿だ。
私は、吐きそうになり、嗚咽が止まらない。
ぜー、ぜーと肩で息をする。なんて、なんて、なんて、なんて。このような事があっていいのか。許されていたのか。
穴という穴から体液が流れ出る。汗も、涙も鼻水も止まらない。
許せない。許せない。ごめんね、ごめんね。これからは、わたしが、守る。と繰り返す。
顔を拭い、こんのすけさんを見る。
後ろは振り向かない。いま、彼等を見る事が、私にはできない。


「こんのすけさん、次、を」
「審神者さま!!どうか、どうか休憩をお挟み下さい!!このまま続ければ死んでしまいます!!」
「次を!!!!」

涙を流すこんのすけさんに、つい大きな声が出てしまう。違う、わたしの体なんてどうでもいい。どうでもいいから、早く、早く治してあげないと。

9人目、平野藤四郎さん。
兄弟が虐げられ、もうこれ以上は、と前任に抗議している。その後前任は練度の低い彼に手合わせを命じた。相手は、あの、一期一振さんだった。ボロボロになっていく平野藤四郎さん。足を切り落とせ、と命じる、前任。
ーいちにいは、わるくないです。
そう、彼は呟いた。

10人目、前田藤四郎さん。
前任から近侍を命じられたのだろうか、震える手で、お茶を淹れる。差し出せば、熱いとそのお茶を顔に掛けられた。その熱湯で、火傷を負った。その後に酷い暴行に合う。お茶が、熱かった、それだけなのに。


____


全員の手入れを終えたわたしはその場に倒れ込んだ。目の前が真っ暗で、体に力が入らない。
ーこのまま、死ぬのだろうか。そんなことすら思う。
汗でぐっしょりと濡れた体と服が気持ち悪い。…ちゃんと、手入れが出来ただろうか。辛い思いをしたあの子達は、これから笑えるだろうか。
人間を信じなくても構わない。わたしを主としてくれなくても構わない。
だからどうか笑っていてほしい。
どうか、幸せになってほしい。


「ーーぬしさま、お疲れ様でございます。今は、ゆるりとお休み下さい」



小狐丸さんの声が聞こえて、わたしの意識はぷつり、と途絶えた。






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