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  第一次お手入れ大戦争





まずやって来たのは粟田口の部屋と言われる大広間だった。襖は空いていて、中からはどろりとした穢れが止めどなく溢れている。


「ぁ、あ、あるじさまぁ…っ!!お願いです、お願いします!!
きょうだいを、みんなを、どうか助けて下さいぃい…っ!!」


粟田口の部屋に行き、驚愕した。
やはり予想は合っていた。沢山の重傷、と呼べるほどの傷を負った体の小さな刀剣男士達が、横たわっている。
五虎退さんは、小さな血溜まりの中で、ぐずぐずと鼻を鳴らし叫ぶように泣いていた。
震える手で彼等を抱き締めて。腰が抜けてしまっているようだった。

「五虎退さん、皆さんを診て下さっていてありがとうございます。
お兄ちゃんに会いました。五虎退さんに、すごく会いたがっていました。今から恐らく、来ますよ。」

「いち兄が…?」

安心させるように五虎退さんを撫でれば、少し落ち着いたようで、それでもひっく、と嗚咽を止める事は出来ていない。
短刀さんたちを見る。
心ばかりの止血帯や、絆創膏でいっぱいの彼等。皆、手入れされないながらもなんとかしようとしたんだろう。

1人の子は、足が無かった。
1人の子は、目がなかった。
1人の子は、口が縫い付けられていた。
1人の子は、火傷のようなものを負っていた
1人の子は、釘のようなものがささっていて、

沢山沢山傷付けられた痕、起きているのか、呻き声が微かに聞こえる。

抱き合うように、寄り添い合うようにこの穢れが多くある部屋で助け合っていた彼らは、とても悲しく、とても残酷だった。
…恐らく、2人が限界か。
彼等を見て意図せずとも目からボロボロと流れ出る涙を拭う暇もなく、小さな子たちを抱き上げる。もう、大丈夫、もう、大丈夫。繰り返し心の中で繰り返しながら。


____________


粟田口を手入れ部屋に、と来派を運び混んでいた小狐丸さんに指示を出した。
来派の方々の意識はもうない。ぐったりと横になる彼等は、部屋に居たらしい。
蛍丸は部屋に行った時に起きておりましたが、手入れができることを伝えると事切れました、と報告を受ける。

わたしも抱き抱えていた2人を下ろして、次の部屋へと向かう。兎に角先に運び出してしまわねばなはない。

後は、小夜左文字さんと今剣さんだ。

走る。走る。


________________




手入れ部屋の存外近くにあった左文字の部屋は、襖が固く閉ざされていた。

「左文字の皆様。はじめまして、昨日やって参りました、審神者です!!
小夜左文字さんが重傷と聞き、やって参りました!!

どうか、どうか私に手入れをさせて下さい!!!」

こちらも切羽詰まっているのだ。
わたしは普段出さない大きな声を出し、襖の中の兄2人に声を掛ける。

ーパン!
大きな音を出して、襖が勢いよく開いた。
目の前にいるのは、薄桃色の長い髪をした、細身の神様。後ろには数珠を持ち、目には深いクマをこさえた神様が、驚いた表情で布団の横に座っている。

きっと、布団の中にいるのが


「お小夜を、助けて、くれるのですか!?」


桃色の髪の神様は縋り付くようにわたしに掴みかかる。もちろんだ、と頷くと、神様は破顔してぽろ、っと一雫、涙を流した。
でも、突然そんなことが、なにか企んで、
ぼそりぼそりと後ろの神様は呟く。
ああ、時は一刻を争うというのに!!

「ご心配なら、お二人とも手入れ部屋へ小夜左文字さんを連れていらして下さい。
わたしはあとひとり、お迎えにあがります。それまでに手入れ部屋にいらっしゃらなかつったら小夜さんも再度お迎えにあがります。
ご安心下さい、すぐに手入れ致します。…どうか、信じて下さい。」

それだけ早口で言い残すと、振り向かずにまた走る。
こんな事なら普段から走ることをしておけばよかった。息が上がる。それでも、歩みを止めるわけにはいかない。

____________




「今剣さんはどこですか?」

わたしは、広間にもいた大きな神様と対峙していた。大きな体に薙刀を携え、今にも斬りかかってきそうな彼の風貌。でも、わたしは今そんなことに恐れている場合じゃない。

「審神者よ、今剣に行うのは本当に手入れだけだろうな。」
「当たり前です、それ以外になにがありますか」
「それが誠だと言える証拠はどこにある?」
「そんなものはございません。わたしが言えるのは、手入れをする。それだけです」
「証拠を見せてくれるまで通すわけにはいかん」
「目に見える証拠が、重傷者の手入れに必要ですか」



本当に、この本丸に来て2日目なのに。

初めての気持ちだらけだ。
優しい気持ちだけで今まで生きて来た。誰かに怒ることもなく、全てを受け入れて生きて来た。
先程は怒り、先程は反省し、先程は責任に背筋を伸ばし、そして今。


わたしは、人生初、イライラしていた。



「……っ!今剣は、前任に手酷く虐げられ、犯され放置された!!!人間に、だ!!刀剣男士も死なないながらも腹は減る!!折れそうな今剣が初めて、前任にもらい嬉しそうに泣きながら食ったのは、人間なら死ぬ致死量の毒入りの握り飯だ!!

人間は苦しむ今剣を見てなんと言ったと思う!?
あー、面白い。だと!?そんな人間を、今更信じろというか!!」

彼の話に、前任者への怒りが倍増する。
ぶわあ、
霊力なのだろうか?なにかが、わたしの中で膨れ上がった。わたしの胸ぐらを掴む彼の手は怒りで必要以上に力が込められていて、震えていた。


「あああああぁ…っ!!もう!!!
こうしてる今も痛い思いをされているんでしょうっ!?!
貴方のその心配は尤もです!!ですが!その心配で手入れが出来るのに出来ない状況になっている事に気付きなさい!!
そして、少し落ち着きなさい!!
人を憎むのは当然です、わたしだってそんなことされたらきっと憎んでしまう!!許せない!!

…でも、その助けを差し伸べる手も人間なんです!刀剣男士の手入れが出来るのは、審神者だけです!!
わたしは痛い思いをされてるのも、悲しい思いをされているのも嫌だ!!
だから治す!!!絶対に!!ご飯を泣いて食べる生活になんかさせない!!

ご飯は、今日はあんまり好きな献立じゃないなぁとかわがままを言ったり、お腹すいたからなんか食べようかなあとか、そんな直ぐに手が出せる存在じゃなきゃダメなんです!!
そんな、泣きながら、お願いして食べるものじゃないんです!!

手入れが終わるまでその薙刀をわたしの首に当てていても構いません、審神者であるわたしが許可します!
わたしが少しでも変なことをするような素振りを見せたら、その薙刀でわたしの首を刎ねなさい!!
それでも信じられませんか!!!」


胸ぐらを掴む手を掴み、彼を思いっきり睨みつける。こんなに物事に執着したのも初めてだ。
全ての言葉に責任がのし掛かる。霊力が枯れたら、手入れが途中で切れたら。そんな事を考えている余裕なんてない。
私の息が途絶えようと、何に変えようと、わたしは彼らを治す。わたしを突き動かしているのはそれだけだった。

大きな彼は目を見開き、拳は緩んでいく。

「………た、のむ。今剣を、我らが仲間を、どうか、たすけてくれ…」



「当たり前です、この命に代えても」





走る、走る、走る。
どうか。まだ折れないで。あと少し、あと少しだから。











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