×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
未来の彼がやって来た!


「!」
「!」

 ぼふん、と急に煙が巻き上がった。中庭の掃除という何気ない日常中に起こる現象だったろうか。掃き集めたゴミが舞う中、少し咳き込みながらサスケくんが居た場所に目を向ける。一体何が起こったのか皆目見当が付かないから不安で、サスケくんの姿を煙の中に探す。

「さ、サスケくん、大丈夫?」
「……な、」
「……え?」

 サスケくんは居た、が、しかし。あれ? どうして制服じゃなくて、スーツ姿になっているんだろう。それになんだか身長も少し高いし、より大人びて見える。こちらを見付けたサスケくん自身も、困惑した様子で周りを見回している。少し離れた所から男の子が騒いでいる声が聞こえるけれど、ちょっとそれどころじゃない。

「は、なんで俺……学校?」
「サスケくん、だよね……?」
「……お前は、碧だよな」
「うん」
「…………なんで子どもに……いや、俺が…………ああ?」

 共に混乱し、サスケくんは考えながら口に出している所為か、脈絡のないことを呟いている。私が子ども? サスケくんは大人? どういう状況なのか全く分からない。

「……今何歳だ」
「……15になったところ」
「俺はもうすぐ25」
「えっ?」
「つまり、なんだ……10年前……?」

 セカンドバッグを脇に抱えて、頭も抱えている。なんとなく状況は掴めてきたが、今度はそれを理解したくない気持ちが強いようだ。そう読み取れる、ということはやはり私の大好きなサスケくんであるということに間違いなく、10年後のサスケくんが何をどうしてか『今』に来てしまった、ということになる。

「な、なんでこんなことに……」
「……心当たりが無い」
「……あたしも、気が付いたら煙が出て……」
「…………」
「?」

 ふと、サスケくんがどこか一点を見ているのに気付く。その視線の先には茶髪の男の子と、アフロヘアーの小さな子が居る。サスケくんは知っている人なのかな、と思うが、サスケくんの目は次第に鋭く怒りを含み始めていた。すると男の子はアフロヘアーの子を抱きかかえると、「ごめんなさぁーい!」と叫びながら逃げるように走って行ってしまった。

「……はぁ……大体分かった……」
「え? どうして?」
「いや……なんて言うかな……厄介な知り合いが居るんだが、その関連のようだ」
「?」

 うーん? よく分からないけど、サスケくんには原因が分かったらしい。苦い顔で頭を抱えるサスケくんは、溜息を吐きながら肩を落とす。

「とりあえず……5分経てば元に戻る。俺と入れ替わりに、『この時代』の俺が10年後……俺の居た時代に行っているはずだ」
「5分経てば……サスケくん、帰ってくるんだ。良かった……」
「……」

 ほっとして、胸を撫で下ろす。ずっとこのままだったらどうしようかと思った。
 するとふと影が視界に入り、かと思うと、頭をぽんぽんと撫でられた。もちろんサスケくん、いやサスケさんの手で、変わらない優しさでもって頭を撫でてくれる。

「驚かせて悪かったな」
「え、ううん、サスケさんの所為じゃないんでしょ?」
「、……“さん”……か、まあそうだよな」
「? ……あ、えっと……嫌だった?」

 少し複雑そうな表情で、「できればいつも通りで」と言ったから、やっぱり他人行儀で嫌だったかな、と思う。だけど一応、今は年上の人だし、敬語の方が良いかと思ったんだけど、サスケくんはサスケくんなんだから、そのままの方が良かったのかもしれない。

「にしても……」
「?」
「……懐かしいな、中学の制服姿。かわいい」
「!?」

 か、かわっ、!?
 サスケくんはあまり、直接的なそういう誉め言葉を多用しないのだけど、あまりにも当然のように発せられたその言葉に、驚き、紅潮してくるのが分かる。照れで軽く俯いた私の頭を、愛でるように撫で回している。

「『今』よりずっとウブだな」
「あ、あの……」
「ぅん?」
「サスケくんとあたし、まだ一緒に……居るの?」
「ああ」
「や、やっぱりそうなんだ……」

 さらりとあっさり答えたサスケくんの、今までの様子や言動でなんとなく分かっていたけど、どうやら私達は10年後もまだ付き合っているらしい。照れと嬉しさで一層頬が火照る。そんな私に小さく笑い、鞄を持ち直すようにして頭から手を離す。それから意味有りげに左手を持ち上げて、私の顔の前にかざした。

「まだ、じゃなくて、もうずっと一緒だけどな」
「え、……ぇえっ!!」

 サスケくんの左手の、薬指。そこには銀色に光る指輪がはまっている。つまり、つまり、けっ、こん、

「…………けっこん……?」
「ああ。幸せにやってるぜ」

 ちょっと自慢気に言うサスケくんは、本当に私……じゃなくて、10年後の私のこと大事にしてくれてるんだ、と感じた。惚気ちゃうくらいには、あ、愛してくれて、るんだなぁ。なんだか照れてしまう。

「……照れてんの、ホントにかわいいな」
「ぅ、……?」

 見せていた左手を、そのまま顔に添えられる。サスケくんを見れば、あ、これは、キスしたい時の顔。思うのとほぼ同時に、「キスしてもいいか?」と聞かれる。サスケくんのキスを断る理由は無いんだけど、だけどこのサスケくんは、私の知ってるサスケくんとは違うんだもんなぁ。いやだけどそのサスケくんの10年後なんだから同じなんだけど……あれ? どうしよう……。

「お前なんだから、セーフだよな。浮気じゃない」
「そ、それはたぶん……」

「……けど、知ったら怒りそうだな、お前も俺も」

 一瞬、言った意味が分からなかったけど、理解するより先にサスケくんが近付いた。随分身長差ができていたから、サスケくんはかなり屈んで、優しく唇を重ねた。何度か啄むように吸い付き、ぺろりと下唇を舐められた。それには流石にびくりとして、肩を震わせる。サスケくんは小さく苦笑。だけどやめる気はないらしく、もう一度啄んでその意思を示すと、舌で軽く唇を濡らした後、そのままずいと唇の隙間へと舌を伸ばした。

「ん……っ」

 このままキスされていて良いのか迷いながらも、サスケくんの舌に応える。だけどなんだかすごく、舌遣いがいやらしくて、いつもよりずっと、早くに気持ち良くなってしまう。どさりと音がしたと思ったら、腰に手を回され、体もより密着する。落ちたのはたぶんサスケくんの鞄。私もサスケくんがしやすいように少し背伸びするから、ふらつかないよう支えるようにサスケくんの腰に手を添えた。ちょっとくらくらするのは、単に酸欠になっている所為ではない。

「……っは、……ぅ……」
「ふらふらだな」

 クッ、と喉で笑い、キスで力の抜けた私をもたれさせるように抱き締めた。サスケくん、レベルアップしすぎだよ……。今だってすごく気持ちいいと思ってたけど、まだ上があったなんて。10年後の私、もしかするとこれでちょっと苦労してるかもしれないなぁ。
 くったりと寄りかかってしまっていたけど、少しして元に戻ってきたから、自分の力で立つ。サスケくんは落とした鞄を拾い、砂を払う。

「そろそろ5分経ちそうだな」
「あ、そっか……そういえば」
「キスに夢中になっちまったか?」
「! そっ、そういう訳じゃ……」

 意地悪な問いに、つい顔が熱くなる。それを見てまた、クツクツと笑っている。なんだかサスケくん、意地悪さもちょっと上がってるような気がする。やっぱり10年後の私、苦労してそう。サスケくんに振り回されてるんだろうなぁ。でも、こんなサスケくんと一緒に居られるの、すっごく幸せそう。

「……10年後、って」
「ん?」
「絶対に、サスケくんと結婚してる未来になるとは限らないんだよね」
「……まあ、そうだな。10年の間に、俺達が違う運命を辿る可能性もある」

 できればその、結婚して幸せそうな、サスケくんの居る未来と同じ未来にしたい。だけど、10年間。長い年月ある。その間に、何か起こって、私とサスケくんが離れてしまう可能性だってもちろんある。むしろ、その可能性の方が高そうだ。
 不安になって視線が下がる。するとまた、ぽんぽんと、優しく頭を撫でられる。

「だけどな、」
「……?」
「俺がお前を諦めるなんざ、有り得ない。お前も“俺”を信じてろ」

 自信に満ちた顔で、安心させるようにニッと笑った。
 胸が高鳴って、嬉しくなって、何か言おうと思って名前を呼んだ。「サスケくん、」と、その瞬間、ぼふんと煙が立って、サスケくんの姿が見えなくなった。驚いて、慌てて手を伸ばせば、誰かに当たった。

「あっ、……」
「……どうやら戻って来たみたいだな」

 それは、私のよく知るサスケくんだった。5分経ったからまた入れ替わったみたいだ。結局何も言えないままで、10年後のサスケくんは居なくなってしまった。

「……どうした?」
「あ、ううん、なんでもない」

 少しぼーっとしてしまっていたからか、サスケくんに心配そうに聞かれてしまった。それは否定して、誤魔化すように逆に聞き返してみる。

「サスケくんは、何もなかった?」
「……10年後のお前に会ったくらいだ」
「えっ!」
「それは良い。もしかして10年後の俺に会ったのか?」
「う、うん」
「何か言ってたか」

 どうしてサスケくんがちょっと必死なのかは分からないけど、聞かれたことには素直に答える。

「『俺を信じてろ』って……」
「……」
「サスケくんは、……知ってるの? その、……」
「……ああ、……結婚、してた」

 照れたように言うから、私もつられて照れてしまう。サスケくんはどう思っただろう。嬉しいと思ったのかな、それとも意外だったのかな。

「……」
「……と、とりあえず、掃除終わらせようか」

 サスケくんがそれ以上言わないから、気まずくなってきたのを誤魔化すように地面を見る。折角集めたゴミは煙が出た時の風で散らかってしまっている。箒を拾い、そのゴミを再び集める。

「碧、」
「なに、サス、!」

 呼ばれて、まだちょっと照れたまま振り返ると、サスケくんに抱き締められた。少し斜めから抱き締められているから、サスケくんの腕の中で正面になるように体を捻る。それが終わるともう一度、改めてぎゅっと抱き直される。

「どし、たの?」
「……絶対に、さっき行った10年後の未来にしてやる」
「!」
「絶対だ。約束する」

 何を見て、何を聞いて来たのかは分からない。だけど、そこにはきっと幸せな未来があったんだ。だからサスケくんは、こんなに嬉しそうに抱き締めてくれるんだ。

「……あたしも、……頑張る」
「……ああ」
「サスケくんとずっと、一緒に居たいもん……」
「……ん」

 箒を持ったまま、自分からも抱き返す。同じ気持ちだよって、伝わればいいな。
 サスケくんにキスを迫られて、唇が濡れてるのに気付かれるまで、あと5秒。




(20110318)
ちょうらぶらぶ


 []      []
絵文字で感想を伝える!(匿名メッセージも可)
[感想を届ける!]